最終更新日:2026年6月3日
メンタルヘルス不調による長期休職者が増える中、リハビリ勤務を活用した職場復帰支援に注目する企業が増えています。
リハビリ勤務は、休職期間中の取り組みであるため、無給で実施されることが多いです。しかし、実態として会社の指揮命令下で業務を行っていると判断される場合は、賃金支払義務や労災保険の適用が問題となります。
そのため、名称が「リハビリ」であっても、運用を誤れば、未払い賃金の請求や労災認定といった深刻な労務トラブルに発展するリスクがあります。
本記事では、リハビリ勤務の基本的な概念から具体的な運用方法、法的リスクと対策まで、企業の人事・総務担当者が知っておくべきポイントを弁護士がわかりやすく解説します。
目次
1. リハビリ勤務とは何か
まずは「リハビリ勤務とは何か」という基本を押さえましょう。制度の定義や目的、法的位置付けを正確に理解することが、適切な運用の第一歩です。
1.1 リハビリ勤務の定義
リハビリ勤務とは、メンタルヘルス不調などで休職していた従業員が、正式な復職の前段階として、段階的に職場に慣れていくための仕組みです。
厚生労働省の「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き(以下「厚労省手引き」) 」では、これを「試し出勤制度」と呼び、職場復帰の可否を判断するための重要なプロセスと位置付けています。
重要なのは、リハビリ勤務はあくまで休職期間中の取り組みであり、実施したことをもって復職とみなされるわけではないという点です。会社は「休職事由がまだ消滅していない従業員に、段階的に職場へ慣れてもらう機会を与えている」にとどまります。正式な復職が可能かどうかは、リハビリ勤務後にあらためて判断します。
1.2 リハビリ勤務の目的
リハビリ勤務には、大きく二つの目的があります。
一つ目は、従業員本人の不安解消と円滑な職場復帰の実現です。長期休職後にいきなり通常業務へ戻ると、心身の負担が大きく、再休職のリスクが高まります。段階的に負荷を増やしていくことで、従業員が安心して職場に戻れる環境を整えます。
二つ目は、会社が従業員の復職の可否を客観的に見極めることです。主治医の診断は日常生活での回復度合いをもとに判断されることが多く、職場で求められる業務遂行能力の回復とは必ずしも一致しません。リハビリ勤務を活用すれば、実際の職場での様子を観察しながら、復職可能な水準まで回復しているかを見極められます。
1.3 リハビリ勤務は会社の義務か
結論として、法律上、会社にリハビリ勤務を実施する義務はありません。就業規則や労働契約にリハビリ勤務の規定がない限り、会社は制度を導入するかどうかを任意に判断できます。
ただし、就業規則にリハビリ勤務の実施を定めた場合は、その規定に従って適切に運用する義務が生じます。規定があるにもかかわらずリハビリ勤務を実施しないまま復職不能と判断して解雇すれば、その解雇が無効とされる可能性があります。

2. リハビリ勤務の具体的な方法
リハビリ勤務に決まった方法はなく、従業員の回復段階に応じて段階的に進めます。大きく分けると、次の3つのステップがあります。
2.1 模擬出勤(デイケア・軽作業)
模擬出勤とは、勤務時間と同じ時間帯にデイケアなどで模擬的な軽作業を行ったり、図書館などで時間を過ごしたりする方法です。
職場に戻る前の段階として、「決まった時間に外出し、一定時間を過ごして帰る」という生活リズムを取り戻すことが主な目的です。
2.2 通勤訓練(通勤の慣らし)
通勤訓練とは、自宅から職場近くまで普段の経路で移動し、職場には入らずに付近で一定時間過ごしてから帰宅する方法です。
長期休職後は、電車やバスでの通勤、移動そのものが大きな負担となることがあります。通勤訓練は、こうした負担に慣れることを目的とする、試し出勤の前段階に位置付けられます。
2.3 試し出勤(実際の職場での勤務)
試し出勤とは、本来の職場などに、試験的に一定期間継続して出勤する方法です。
ただし、試し出勤はあくまで復職前の休職期間中の取り組みであり、段階的に負荷を調整していくことが重要です。運用を誤ると、後述する「労働」とみなされるリスクが生じます。
3. 試し出勤の運用パターン
試し出勤を効果的に運用するには、設計の工夫が重要です。ここでは、実務でよく用いられる3つのパターンを解説します。
3.1 短時間勤務からの開始
リハビリ勤務を成功させるには、いきなりフルタイム勤務とせず、段階を踏んで負荷を上げることが一般的です。
最初は「午前中のみ」「週2〜3日」など、負担の少ない形でスタートします。翌日に疲労が残っていないか、睡眠リズムが保たれているかを確認しながら、出勤日数や時間を徐々に増やしていきます。
最初から勤務時間を4時間や8時間などと固定すると、本人の体調に合わせた対応が難しくなります。最初の1週間は2時間、翌週は状況を見て3〜4時間というように、柔軟に調整できる設計が有効です。
3.2 業務内容の軽減・制限
担当業務は、責任の軽い業務や単純な事務作業に限定します。対外的な交渉、出張、残業、深夜業務など、負荷の高い業務は禁止するのが基本です。あくまでリハビリが目的であることを踏まえ、過度な負担がかからないよう配慮しましょう。
3.3 段階的な通常勤務への移行
「ただ座っているだけ」から「軽作業」、「短時間の通常業務」へと、1〜2か月程度かけて、出勤率や作業効率を見ながら段階的に負荷を増やします。期間中に特に問題が生じなければ、正式な復職判断に進みます。
実務の目安としては、リハビリ勤務の期間は長くても3か月程度とするのが一般的です。長期化すると従業員・会社双方の負担となり、制度の趣旨があいまいになります。
4. リハビリ勤務の注意点(法的リスク)
ここまでリハビリ勤務の進め方を解説してきましたが、実際の運用にあたっては、法的なリスクにも注意が必要です。名称が「リハビリ」であっても、実態が通常の労働と変わらなければ、賃金の未払いや労災をめぐるトラブルに発展する可能性があります。
4.1 「労働」と判断されるリスク
会社が作業の指示を与えていたり、作業内容が実質的に業務(職務)にあたると判断される場合は、その活動が労働基準法上の「労働」に該当するとみなされ、労働関係法令が適用される可能性があります。
裁判所は名称ではなく実態で判断するため、「リハビリのつもりだった」という会社側の認識は考慮されません。
4.2 賃金支払い義務の問題
リハビリ勤務が「労働」とみなされた場合、たとえ従業員との間で無給の合意があっても、最低賃金法に基づく賃金支払い義務が生じます。最低賃金を下回る合意は、法律上無効とされるためです。
「リハビリだから無給でよい」と口頭で合意していても、実態が労働であれば、未払い賃金の請求を受けるリスクがあります。就業規則や合意書の内容だけでなく、実際の運用が「労働」の実態となっていないかを常に確認することが必要です。
4.3 労災適用の可能性
労災保険は「労働者」に適用される制度であるため、リハビリ勤務が「労働」とみなされた場合は、労災保険の適用対象となる可能性があります。
これとは別に、会社は労働契約法5条 に基づく安全配慮義務を負っており、リハビリ勤務中も例外ではありません。会社が配慮を怠ったことで従業員の心身の状態が悪化した場合、債務不履行による損害賠償責任を負います。
「症状が悪化しても責任を負わない」といった合意は、公序良俗(民法90条 )に反するとして無効とされる可能性が高いです。主治医や産業医の意見をもとに、療養を妨げない範囲でプログラムを設計することが不可欠です。
5. 裁判例から考えるリハビリ勤務のポイント
では、実際の裁判例ではリハビリ勤務はどのように判断されているのでしょうか。裁判例を見ることで、「労働」とみなされる運用と問題ないとされる運用の境界線、そして実務上のポイントが見えてきます。
5.1 名古屋地方裁判所平成29年3月28日判決の概要
この裁判は、テレビ局で起きた事案です。傷病休職中の従業員が職場復帰の可否判断を目的として行った「テスト出局(リハビリ勤務)」中の作業が、労働基準法上の「労働」にあたるかが争われました。(放送局では「出社」を「出局」と呼びます。)
リハビリ勤務の期間は原則24週と長期にわたるものでしたが、テスト出局中の作業内容は、そのほとんどの期間で軽度なものが想定されていました。
また、その内容は職員・管理職・産業医の三者協議によって決定・変更されるものであり、当該従業員が通常業務を想定した作業負荷のもとで、無断の遅刻・退勤・欠勤をせずに勤務できるかどうかに主眼が置かれていました。
これらを踏まえ、裁判所は、制度上テスト出局において作業の成果や責任等は求められていないと認め、労働契約上の「労働」には当たらないと判断しました。
その結果、会社に賃金の支払義務はないと結論付けられました。
5.2 名古屋高等裁判所平成30年6月26日判決の概要
この名古屋地方裁判所の第1審判決に対し、従業員側が控訴しました。
控訴審(高裁)でも、確かにテスト出局中の出局時間は短く、作業内容も軽易なものが多かったことから、当該従業員が本来会社から求められている意味での「労働」には該当しないとされました。
しかしその一方で、作成された放送用原稿などの成果物が実際に会社の業務に使用されていたこと、また、出局していた時間は会社の指揮監督下にあったと評価できることから、その範囲においては労働基準法上の「労働」に当たると判断されました。
結果として、会社には最低賃金相当額の賃金を支払う義務があると結論付けられました。
5.23 リハビリ勤務を考える際のポイント
この裁判例から、リハビリ勤務の運用において押さえておくべきポイントが見えてきます。
まず、指揮命令を行わないことです。裁判例では、作業が使用者の具体的な指示に従って行われていた点が、「労働」と判断された大きな要因となりました。リハビリ勤務中は作業の指示・命令を行わず、従業員が自発的に取り組む形にすることが重要です。
次に、成果物を会社の業務に利用しないことです。裁判例では、作成された成果物が実際に放送に使用されたことが問題視されました。リハビリ勤務中の作業の成果は、会社の業務に組み込まないことが重要です。
そして、リハビリ勤務は、職場復帰の可否判断に必要な合理的期間内にとどめることです。裁判例では、24週にわたる長期間が問題視されました。リハビリ勤務は復職可否の判断に必要な期間内におさめ、長期化しないよう注意が必要です。
なお、書面で無給の合意をしていても、実態として労働基準法上の「労働」にあたる場合は、最低賃金法が適用されます。そのため、無給の合意があっても、会社は最低賃金以上の賃金を支払う必要があります。
リハビリ勤務が進み、従業員が通常業務に近い作業を行える程度まで回復した場合は、実態として「労働」と評価される可能性が高まります。会社の具体的な指示に従って業務を行わせる段階になったときは、無給のリハビリ勤務として扱い続けるのではなく、短時間勤務や仮復職として位置付け、賃金を支払う運用に切り替えることを検討すべきです。
6. 傷病手当金との関係
リハビリ勤務を進めるうえで見落としがちなのが、傷病手当金への影響です。
傷病手当金とは、業務外の病気やけがで働けず、給与を受けられないときに、健康保険から支給される給付です。休職中の従業員が、傷病手当金を受給しているケースは少なくありません。
リハビリ勤務の実施方法によっては、傷病手当金が減額・停止され、従業員の手取りが意図せず減ってしまうことがあります。そのため、リハビリ勤務を始める前に、傷病手当金への影響を従業員へ丁寧に説明しておくことが重要です。
6.1 支給停止となるケース
リハビリ勤務に対して会社が賃金を支払った場合、支払額が傷病手当金の日額を上回ると、傷病手当金の支給は停止されます。下回るときは、差額のみが支給されます。
さらに問題となるのは、リハビリ勤務の内容が「労働」と判断された場合です。健康保険組合から「就労可能」とみなされれば、傷病手当金の受給資格そのものを失うおそれがあります。
6.2 従業員との利害調整の重要性
会社が賃金を支払ったことで傷病手当金が減額・停止され、混乱が生じることが想定されます。この点を事前に説明しないまま制度を開始すると、「聞いていなかった」「不利益を被った」という不満から紛争に発展することがあります。
リハビリ勤務を無給で行うこと、傷病手当金への影響があること、その具体的な内容をあらかじめ書面で説明し、本人から確認のサインを取っておくことが重要です。
7. トラブルを防ぐ制度設計
トラブルを未然に防ぐ最大の対策は、適切な制度設計と書面化です。「口約束で進めていた」状況が、のちに紛争の原因となることは少なくありません。リハビリ勤務に関するトラブルを防ぐには、制度のルールを明確にしたうえで、書面による合意を取り交わすことが不可欠です。
7.1 就業規則に定めるべき内容
就業規則には、少なくとも次の内容を盛り込んでおくとよいでしょう。
① 定義・目的
リハビリ勤務がどのような制度で、何を目的とするものかを明記します。「円滑な職場復帰を支援するため」「休職期間中に復職の可否を判断するため」など、できるだけ具体的に記載しましょう。
② 対象者と開始の判断
リハビリ勤務を開始できるかどうかの判断は、会社が行うことを明記することが重要です。
主治医は、会社での当該従業員の業務内容を正確に認識していない可能性があります。それにもかかわらず、主治医の「復職可能」という判断のみを開始の条件にすると、実態との齟齬が生じてトラブルになる可能性が高まります。
また、リハビリ勤務はあくまで本人の希望に基づくものであり、会社が強制するものではないことも明記しておきましょう。
③ 期間
「リハビリ勤務の期間は原則として○か月以内とする」などの形で具体的な期間を定めます。そのうえで、「会社が特に必要と判断したときはこの限りでない」といったただし書きを設け、柔軟性を持たせておくとよいでしょう。
④ 賃金
原則として無給で実施することを明記します。個別に賃金を設定する場合は、「リハビリ勤務中の賃金は個別に通知する」と規定したうえで、開始前に本人と合意し、同意書を取り交わすことが必要です。
⑤ 終了条件
「復職可能な状態にないと会社が判断したとき」や「業務運営に支障が生じるおそれがあると会社が判断したとき」など、会社の判断でリハビリ勤務を終了できることを明確に定めておきましょう。
本人が継続を希望していても、他の従業員への影響があるときに速やかに対応できるようにしておくことが大切です。
⑥ 復職の判断
リハビリ勤務終了後の復職の可否は、「勤務状況や主治医の診断書を参考にしながら、最終的には会社が判断する」と規定します。必要に応じて産業医の受診を指示できることも定めておくとよいでしょう。
これらを明記しておけば、「リハビリ勤務を始めたから復職扱いのはず」という誤解や、「聞いていなかった」というトラブルを防ぐことができます。
7.2 労使間の合意形成
制度を適用するときは、毎回、対象者から「同意書」や「確認書」を取得することを強くおすすめします。書面には、リハビリ勤務の期間、内容、無給であることの確認、労災保険が適用されない可能性があることなどを記載します。
また、会社側からの業務命令ではなく、本人の申請に基づく形にしておくことも、のちに「強制された」と主張される事態を防ぐ有効な対策となります。
7.3 医師の意見の活用
リハビリ勤務を開始・継続するときは、必ず主治医や産業医の医学的意見を確認してください。医師の意見を聞かずに会社の判断だけで進めると、安全配慮義務違反を問われるリスクが高まります。
なお、診断書の提出を拒否したり、産業医面談に応じなかったりする従業員について復職を認めないことは、一定の条件のもとで正当な措置と認められています。医師の意見をもとに、本人の状態に過度な負荷がかからないプログラムを組むことが、安全配慮義務の履行そのものにつながります。

8. リハビリ勤務を成功させるポイント
制度を整えても、運用が伴わなければ意味がありません。従業員の回復を後押しするには、日々の関わり方と記録の積み重ねが重要です。リハビリ勤務は、単に職場へ出勤させるだけで機能するものではありません。適切なフォロー体制と客観的な評価の仕組みが、成否を左右します。
8.1 継続的なフォロー体制
リハビリ期間中は、上司や人事担当者が定期的に面談を行い、本人の疲労度や精神状態を継続的に確認します。体調の悪化や回復の停滞が見られたときは、すみやかにプログラムを見直すか、一時中断する判断が必要です。
また、従業員本人が「早く通常勤務に戻りたい」と焦るケースもよく見られます。この気持ちは理解できますが、無理を許容すると再休職につながるリスクがあります。会社側が適切にペースを抑えながら進める姿勢が重要です。
8.2 記録と評価の重要性
リハビリ期間中の出勤状況、担当した業務内容、コミュニケーションの様子、体調の変化などを具体的に記録しておきましょう。これらの記録は、最終的に「通常業務ができる状態に回復したか(復職)」「まだ回復していないか(休職継続)」を判断する際の根拠となります。
休職期間が満了し、退職や解雇の判断をすることになった場合も、適切なリハビリの機会を設け、客観的に評価したことを記録で示せれば、会社の判断の正当性を証明しやすくなります。紛争となったときの証拠としても、極めて重要です。
9. まとめ:まずは弁護士に相談
リハビリ勤務は、従業員の円滑な職場復帰を支援する有効な手段です。しかし、運用を誤ると、未払い賃金の請求、労災認定、不当解雇訴訟といった深刻な労務トラブルに発展するリスクがあります。
裁判所は「名称」ではなく「実態」で判断します。就業規則の整備、同意書の取得、医師との連携といった地道な対策が不可欠です。
特に中小企業では、こうした制度整備が後回しになりがちです。しかし、ひとたびトラブルが発生すれば、その対応コストは制度整備の費用をはるかに上回ります。
「自社の就業規則がリハビリ勤務の実態に合っているか」、「同意書の内容に不備はないか」、「個別の自社のケースでどう判断すべきか」など少しでも不安があるときは、労働問題に詳しい弁護士へのご相談をおすすめします。よつば総合法律事務所では、企業の労務管理に関するご相談を承っております。









