2024年11月に「フリーランス新法」が施行されています。これにより、企業がフリーランスと契約する際の実務は大きく変わっています。

契約内容の書面交付やハラスメント対策など、新たな義務が追加されます。また形式上は業務委託であっても、働き方の実態によって「労働者」とみなされるリスクも依然として存在しており、フリーランス新法の成立に新たに注目されています。

もし労働者性が認定されれば、未払い残業代の請求や解雇無効の主張、社会保険料の遡及負担など、企業は予想外の法的責任を負う可能性があります。

本記事では、フリーランス新法のポイントと実効性のあるリスク回避策を、具体的に解説します。

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目次

1. フリーランス新法の概要と企業に求められる対応

フリーランスとの取引がある企業は、法律に基づいた契約・運用の確認が必要です。

1.1 フリーランス新法とは?背景と目的

フリーランス新法(正式名称:特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)は、2023年4月に成立し、2024年11月1日から施行されています。

近年、専門スキルを活かして独立する人が増える一方で、企業との関係では立場が弱いフリーランスが直面する問題は深刻です。「報酬が支払われない」「一方的に契約を打ち切られる」といったトラブルが増えています。このような背景から、フリーランスが安心して働ける環境を整えるため、本法が制定されたのです。

フリーランス新法の主な目的は、次の2点となっています。

① 取引の適正化

企業とフリーランス間の取引ルールを明確にし、不公正な取引を防ぐこと

② 就業環境の整備

ハラスメント対策や育児・介護への配慮などを通じて、フリーランスが働きやすい環境を作ること

1.2 適用対象となる「特定受託事業者」とは

フリーランス新法では、保護の対象となるフリーランスを「特定受託事業者」と定義しています。対象となるのは、次のいずれかに該当する事業者です。

  1. ① 従業員を使用しない個人事業主
  2. ② 役員が代表者1名のみで、従業員を使用しない法人(いわゆる「一人社長」)

ここで重要なのが「従業員」の定義です。週の所定労働時間が20時間以上、かつ31日以上の継続した雇用が見込まれる労働者を指します。

たとえ特定の企業に雇用されていても、副業として他社から業務委託を受けている場合は、その副業について「特定受託事業者」に該当することになります。

一方、フリーランスに仕事を発注する企業側は「特定業務委託事業者」と位置付けられ、法律で定められた義務を果たさなくてはなりません。

なお、本法はあくまで事業者間の取引(BtoB)を対象としており、一般消費者との取引は適用対象外です。

1.3 発注者に課される義務

フリーランス新法により、発注者には以下の義務が課されています。

1.3.1 契約条件の明示義務

発注者は、フリーランスに業務を委託する際、業務内容や報酬額、支払期日といった契約条件を、契約書や発注書、電子メールなどの書面または電磁的方法によって明示しなければなりません。

これにより、当事者双方が契約内容をいつでも確認できるようにし、無用なトラブルを防ぐ狙いがあります。

なお、従業員を使用していない個人事業主が他のフリーランスに業務を委託する場合であっても、この明示義務は適用されるので注意しましょう。

1.3.2 報酬の支払期日に関するルール

発注者は、フリーランスから成果物などを受領した日から起算して60日以内のできる限り短い期間内に報酬の支払期日を定め、その期日までに支払いを済ませる必要があります。

また、再委託の場合にはより厳格な「報酬支払の再委託30日ルール」が適用されます。

報酬支払の再委託30日ルール
  1. ① フリーランスへの支払期日は、「元委託支払期日」から30日以内、かつ可能な限り短い期間内に設定しなければならない。
  2. ② 支払期日を定めなかった場合は元委託支払期日が、また①に違反する期日を定めた場合は、元委託支払期日から30日を経過する日が、それぞれ支払期日とみなされる。

これは、フリーランス新法における報酬支払期日の原則(給付受領日から60日以内)の例外規定で、発注者がフリーランスに再委託する場面で、資金繰りの負担を軽減するために設けられた制度です。

たとえば、「元委託者→発注者→フリーランス」という再委託の流れを想定してみましょう。

もし通常の60日ルールをそのまま適用すると、発注者は元委託者から報酬を受け取る前に、フリーランスへ先に報酬を支払わなければならなくなります。そうなると、発注者の資金繰りが苦しくなり、結果としてフリーランスに仕事を出すのをためらうことになりかねません。

このような状況を避けるため、再委託に限って「元委託者からの支払期日から30日以内」であれば、フリーランスへの支払いを猶予できるルールが設けられました。

これにより、発注者は元委託者から受け取った報酬を原資にして、フリーランスへ報酬を支払うことが可能になります。

30日ルールの適用を受けるには、契約時に次の情報も併せて明示する必要があります。

  1. ① 再委託である旨
  2. ② 元委託者の商号、氏名、名称等
  3. ③ 元委託業務の対価の支払期日(元委託支払期日)

なお、営業秘密の観点などから元委託者の情報をフリーランスに開示しにくい場合は、この30日ルールの適用を受けずに60日ルールで対応するか、当事者間で秘密保持契約を締結するなどといった柔軟な対応が求められます。

1.3.3 報酬の減額や買いたたき等の禁止

特定業務委託事業者による、フリーランスの利益を不当に害する特定の行為は禁止されています。禁止される行為には次のものが含まれます。

  1. 正当な理由のない給付の受領拒否
  2. フリーランスに帰責事由のない報酬の減額
  3. フリーランスに帰責事由のない返品(役務提供以外)
  4. 買いたたき(著しく低い報酬額を一方的に定めること)
  5. 発注者が指定する物・サービスの購入・利用強制
  6. 不当な経済上の利益の提供要請をし、その利益を不当に害すること
  7. 正当な理由のない給付内容の変更ややり直しをさせ、その利益を不当に害すること

これらの禁止行為は、原則として1か月以上の期間、継続して業務委託を行う場合に適用されます。契約の更新により継続する場合を含むこと、カウントがスタートする時点は業務委託契約を締結した日となることにはご注意ください。

1.3.4 契約の中途解除・不更新に関する事前予告義務

業務委託契約の期間が6か月以上ある場合、発注者は契約の中途解除や終了時の不更新について、原則として次の期日までにフリーランスへ予告しなければなりません。

  1. 解除日の30日前まで
  2. 契約満了日の30日前まで

また、予告後から契約期間満了日までにフリーランスから理由の開示を求められた場合、発注者は遅滞なくその理由を開示する義務があります。

これは、フリーランスが次の取引へ円滑に移行できるよう配慮するための規定です。

1.3.5 ハラスメント対策に関する体制整備義務

発注者には、フリーランスの就業環境がハラスメントによって損なわれないよう、必要な措置を講じる義務があります。具体的には、次の3つの観点から体制を整備しなければなりません。

方針の明確化と周知・啓発
・方針の明確化

業務委託におけるセクハラ・パワハラ・マタハラ等のハラスメントを行ってはならない旨の方針を明確にします。

・行為者への厳正な対処

ハラスメント行為者には厳正に対処する方針と、その具体的な内容(懲戒処分など)を就業規則等の社内文書に規定します。

・周知・啓発

上記の方針を、社内報、パンフレット、社内ホームページへの掲載や、研修・講習の実施などを通じて、契約担当者を含む自社の労働者に周知・啓発します。

相談(苦情を含む)に応じるための体制整備
・相談窓口の設置と周知

フリーランスが利用できる相談窓口をあらかじめ設置し、その存在を周知しておきましょう。周知方法としては、契約書やメールへの連絡先の記載、フリーランスが閲覧するイントラネットへの掲載などが挙げられます。なお、従業員向けの窓口をフリーランスにも開放することも可能です。

・適切な対応ができる仕組み

相談窓口の担当者が、広く相談に対応し、内容や状況に応じて適切に対応できるような仕組みを整備します。具体的には、担当者向けのマニュアル作成や研修の実施、人事部門など他部署との連携体制の構築などです。

事後の迅速かつ適切な対応

ハラスメントに関する相談があった場合、事実関係を迅速かつ正確に確認し、その結果に基づき、被害を受けたフリーランスへの配慮措置や、行為者に対する適切な措置を講じなければなりません。また、再発防止策を講じることも義務付けられています。

1.3.6 妊娠・出産・育児介護等への配慮義務

フリーランスからの申し出があった場合、発注者は妊娠・出産、育児、介護などと業務の両立が可能となるよう配慮する義務があります。

この配慮義務は、契約期間に応じて内容が異なるので、注意しておきましょう。

  1. 契約期間が6か月以上の場合:発注者は、配慮を「行うこと」が義務になります。
  2. 契約期間が6か月未満の場合:配慮を「行うよう努める義務」が課されます(努力義務)。

具体的な配慮の例としては、業務スケジュールや納品日の調整、リモートでの打ち合わせの実施などが挙げられます。

1.3.7 募集情報の的確な表示義務

フリーランスを募集する際、発注者は、募集情報を常に正確かつ最新の状態に保つ義務があります。対象となる情報は、募集者に関する事項、業務内容、報酬、契約の解除・不更新、知的財産権の取扱いなどです。

具体的には、次のような表示が禁止されています。

  1. 虚偽の情報
  2. 誤解を招くような表現
  3. 不正確な情報や内容が変更されたのに放置された古い情報

この義務は、フリーランスが誤った情報をもとに判断・行動し、時間や機会を無駄にしたり、トラブルになることを防ぐために設けられています。情報は正確にわかりやすく記載し、募集が終了した場合や条件に変更が生じた場合には、速やかに情報を更新しておきましょう。

1.4 違反した場合のリスク

発注者である企業がフリーランス新法に違反した場合、フリーランスからの申出などをきっかけに、公正取引委員会や中小企業庁、厚生労働省といった行政機関による調査や措置の対象となります。

措置は段階的に行われ、助言・指導から始まり、報告徴収・立入検査、勧告、そして最終的には命令や企業名の公表に至る可能性があります。

具体的な行政措置の流れは次の通りです。

報告徴収・立入検査

フリーランスからの申し出があった場合や、法律の施行に必要な限度において、行政機関は事業者に対して報告を求めたり、事業所に立ち入って帳簿書類などを検査したりすることができます。

助言・指導

行政機関が、事業者に対し改善を促す助言や指導を行います。

勧告

事業者が法律の規定に違反していると認められ、助言・指導に従わない場合などに、行政機関はその違反を是正するための措置をとるよう勧告することができます。

命令・企業名の公表

行政機関は、正当な理由なく勧告に従わない事業者に対して勧告に係る措置を命じることができます。さらに、事業者名、違反事実の概要、命令の概要などを公表することができます。

上記の行政措置に加え、特に悪質なケースでは50万円以下の罰金に処せられる可能性があります。対象となる違反行為は、次のとおりです。

  1. ① 行政機関からの命令に違反したとき
  2. ② 行政機関による報告徴収に対し、報告をしない、または虚偽の報告をしたとき
  3. ③ 行政機関による立入検査を拒み、妨げ、または忌避したとき

また、上記の罰則は、違反行為を直接行った従業員や担当者などの個人だけでなく、その業務主体である法人または個人事業主に対しても科されることに注意が必要です。これを両罰規定といいます。

1.5 下請法・労働法との違いと関係性

フリーランス新法は、もともと事業者同士の取引ルールを定めた「下請法」の考え方を、個人で働くフリーランスにも広げた経済法の一種です。ただし、下請法とは異なり、フリーランス新法では発注事業者(企業)側の資本金要件がないため、小規模な企業や個人の発注者であっても規制の対象となる点に注意が必要です

一方、「労働法」は、企業と従業員(労働者)との関係を規律する法律であり、対象もルールも異なります。

重要なのは、契約形式が「業務委託」であっても、その働き方の実態から「労働者」であると判断された場合には、フリーランス新法ではなく、労働基準法や労働契約法といった労働関係法令が適用されるという点です。

つまり、企業はフリーランス新法と労働法の両方の観点から、契約内容や運用が適切であるかを確認しなければなりません。

2. フリーランス新法と「労働者性」:雇用との線引きリスク

フリーランスとの契約で最も注意すべきリスクの一つが「労働者性」の問題です。これは、契約書上は「業務委託」となっていても、実態が「雇用」と変わらない場合に、そのフリーランスは法律上の「労働者」と認定される可能性があります。

その場合、企業は労働基準法など雇用関係の法律の適用を受けることになり、さまざまな義務やリスクが発生します。

2.1 労働者性の判断基準

労働者性の判断は、契約書の名称や形式だけでは決まりません。裁判所や労働基準監督署は、働き方の実態を重視し、次の要素を総合的に考慮し、個別具体的に判断します。

2.1.1 使用従属性に関する判断基準

  1. ① 指揮監督下の労働(会社の指示どおりに働いているか)
  2. ② 報酬の労務対償性(報酬が使用者の指揮監督下で労務を提供したことへの対価=賃金といえるか)

2.1.2 労働者性の判断を補強する主な要素

  1. ① 事業者性の有無(自分で機械や道具を用意しているかなど)
  2. ② 専属性の程度(その会社の仕事しかできない状況か)

これらの判断基準は明確な線引きが難しく、グレーゾーンが広いのが実情です。

2.2 「業務委託」と「雇用契約」を分ける考慮要素

労働者性が認められるか否かは、主に次の要素で判断されます。企業は、業務委託と雇用のいずれなのかについて、意識的に心がけることが重要です。

2.2.1 指揮監督関係

諾否の自由

会社からの仕事の依頼を、フリーランスが自由に断れるか。契約上断れなかったり、不利益の存在などから事実上断れない関係だと、労働者性が強まります。

業務遂行上の指揮監督

仕事の進め方について、会社が細かく指示・管理しているか。フリーランスに広い裁量が認められていれば、労働者性が弱まります。

同様の観点から、フリーランスに対する人事考課同様の評価を行っている場合や、元々外部に発注していない業務を内容の追加・変更等を行わないままフリーランスに行わせている場合も労働者性が問題になります。

時間・場所の拘束

勤務時間・勤務日や場所が会社によって指定・管理されているか。これらの拘束性が強いほど労働者性が強まります。

代替性

フリーランスが自分の判断で、他の人に業務を代わってもらうことができるか。代替が認められない場合は労働者性が強まります。

2.2.2 報酬の労務対償性・事業者性

報酬の労務対償性

報酬が時給・日給・月給で計算されていたり、欠勤した場合の控除や残業に対して割増賃金のような対価が別途支払われている場合などに労働者性が強まります。

事業者性

パソコンや専門機材など、仕事で使う高価な道具をフリーランス自身が負担している場合、事業者としての性格が強いと判断されやすくなります。

また、同じような仕事をする正社員に比べて報酬が著しく高額な場合、それは事業に対する対価とみなされ、労働者性を弱める要素となります。

2.3 労働者性が認定されやすい典型パターン

次のようなケースでは、「業務委託契約」と契約書に記載があっても労働者性が認められやすくなるため注意が必要です。

  1. 始業・終業時刻が決められており、勤怠管理されている。
  2. 会社からの業務指示を断ることが事実上できない。
  3. 業務の進め方について、マニュアル等で細かく指示されている。
  4. 契約書に記載のない業務を、その都度指示している。
  5. 他社の仕事を受けることが時間的・物理的に困難で、事実上その会社専属になっている。
  6. 報酬が「時給〇円」のように、時間単位で計算されている。

2.4 労働者性が認定された場合の企業リスク

もし業務委託先が「労働者」と認定されると、企業は労働基準法をはじめとする労働関係法令の適用を受けることになり、次のような重大なリスクが発生します。

未払い残業代の請求

過去に遡って、時間外労働や休日労働、深夜労働に対する割増賃金の支払いを請求される可能性があります。

解雇規制の適用

契約を終了させることが「解雇」にあたるため、正当な理由がなければ無効となり、契約の継続や解決金の支払いが必要になる場合があります。

社会保険料の負担

過去分の社会保険料(健康保険・厚生年金)の会社負担分を納付しなければならない可能性があります。

労働組合との団体交渉

労働組合法上の労働者と認められた場合、団体交渉の申し入れを拒否できなくなります。

3. フリーランス新法対応のための契約書見直しポイント

ここでは、フリーランス新法対応のための契約書の見直しポイントについて解説します。

3.1 契約書に盛り込むべき必須記載事項

フリーランス新法では、発注者に対し、業務委託の際に次の事項を書面または電磁的方法で明示することが義務付けられています。契約書作成時には、これらが網羅されているか確認してください。

  1. ① 受託委託者の名称など受託委託者を識別できる情報
  2. ② 業務委託をした日
  3. ③ フリーランスの給付・役務の内容
  4. ④ 給付受領・役務提供の日・期間
  5. ⑤ 給付受領・役務提供の場所
  6. ⑥ 給付・役務に検査をする場合、その完了期日
  7. ⑦ 報酬額(具体額の記載が困難な場合,報酬の算定方法)
  8. ⑧ 報酬支払期日
  9. ⑨ 手形交付、債権譲渡担保方式・ファクタリング方式・併存的債務引受方式、電子記録債権、デジタル払で報酬を支払う場合に必要な事項
  10. ⑩ 未定の事項がある場合、内容を定められない理由及び内容を定める予定期日
  11. ⑪ 未定の事項を後に明示する場合、当初明示した事項との関連性を確認できる記載事項
  12. ⑫ 基本契約等がある場合はそれによる旨
  13. ⑬ 再委託の30日ルールを適用する場合、再委託である旨、元委託者の名称等

これらを明確に定めておくことは、新法の義務を遵守するだけでなく、フリーランスとの間の「言った・言わない」といったトラブルを防ぐためにも極めて重要です。

3.2 労働者性を防ぐための条項設計

労働者性を否定するためには、契約書に次のような条項を盛り込み、実態としてもその通りに運用することが欠かせません。

指揮命令の不存在

業務の具体的な遂行方法や手順については、受託者(フリーランス)への指揮命令だと疑われるような記載をしない。

業務範囲の限定

委託する業務内容を明確に定義し、契約外の業務を指示することがないようにする。

時間・場所の非拘束

原則として、業務を行う時間や場所を受託者の自由に委ねる。業務の性質上、時間や場所を指定せざるを得ない場合は、労働者だと認定されるリスクがないか慎重に検討する。

再委託の許容

受託者が自己の責任において、業務の一部または全部を第三者に再委託できることを認める。

事業者性の確認

受託者が独立した事業者として、自己の責任と費用で業務を遂行することを確認する条項を設ける。

3.3 フリーランス新法ガイドラインとの整合チェック

フリーランス新法の運用にあたって、政府は「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」を公表しており、労働者性の判断基準や注意すべき事例が詳しく解説されています。

自社の契約書や運用が、このガイドラインの内容と整合しているかを確認することは、リスク管理の観点から非常に有効です。

3.4 雛形をそのまま使うリスクと改訂の必要性

インターネットなどで手に入る業務委託契約書の雛形をそのまま使用することには、大きなリスクが伴います。なぜなら、労働者性は契約書の形式ではなく「実態」で判断されるため、雛形を使っただけではリスクを回避できないからです。

たとえば、契約書上は「業務委託」と記載されていても、実際には指揮命令を受けて働いていたり、時間や場所の拘束があったりする場合には、雇用契約と判断される可能性があります。その結果、労働関係法令の適用を受け、企業にとっては未払い残業代の請求や解雇の主張など、想定外の法的リスクが生じるおそれがあります。

特に、形式的にフリーランス契約を結んでいても、実態が伴っていなければ「偽装フリーランス」とみなされるリスクがあります。そのため、契約書はテンプレートをそのまま利用するのではなく、自社の業務内容やフリーランスとの関係性に即した内容にカスタマイズする必要があるのです。

3.5 契約書修正・再整備の流れ

フリーランス新法への対応にあたっては、契約書の見直しと整備が欠かせません。次の手順に沿って、実務的に対応を進めていきましょう。

問題点の抽出と修正方針の決定

まず、現行の契約書を確認し、フリーランス新法との不整合がないかをチェックします。契約書が存在しない場合は、その点も記録しておきましょう。

契約書の条文を一つひとつ読み込み、法律に抵触するおそれのある条項や、不足している記載(報酬の支払期日、再委託時の情報開示など)を洗い出し、修正・削除・追記の必要性を判断します。

取引先ごとに契約書の修正案を作成するのは手間がかかるため、これを機にフリーランスとの契約書ひな形を新規に作成してそれを一律に使用する方法もあります。

修正案の作成

手書きで整理した修正内容をもとに、Word等の編集ソフトで修正案を作成します。この際、「変更履歴」機能を活用すると、どの部分がどのように変更されたかがひと目で分かり、後のレビューや協議がスムーズになります。

修正案のレビュー

修正案が完成したら、初期のメモと見比べて、すべての修正が反映されているかを確認します。あわせて、修正後の文章が自然な日本語になっているか、法的な意味が正確に伝わるかも丁寧に見直しましょう。

可能であれば、社内の他部署や法務部門とも共有し、客観的な観点からもチェックを受けると安心です。

合意形成

契約書を一方的に修正することはできないため、相手方と協議のうえ合意を形成する必要があります。実務では、発注者側がファーストドラフト(原案)を提示し、受注側が修正案やコメントを加える形式でやり取りを重ね、双方納得のうえで最終版を確定させるケースが一般的です。

従来、簡易な発注書と請書のみで契約していた場合でも、これを機に契約書の導入を検討することが望ましいでしょう。

契約書の再作成または訂正

合意が成立した内容を契約書に反映し、契約書を正式に完成させます。

また、汎用的に使用している契約書のひな形がある場合は、それも今回の法改正に対応できる内容へと見直しておきましょう。ひな形が存在しない場合には、将来の契約実務を円滑にするためにも、この機会に作成しておくことをおすすめします。

4. チェックリスト:企業が今すぐ確認すべき5つのポイント

フリーランス新法の施行に向けて、発注者企業が最低限確認しておくべき項目をまとめました。自社の契約実務や運用が新法の要件に対応しているか、次の項目をもとに点検してみてください。

4.1 契約書の書面交付体制は整備されているか?

フリーランス新法では、業務を委託する際に、業務内容・報酬額・支払期日などの契約条件を、書面または電子メール等の電磁的方法で明示することが義務付けられています。

この要件を満たすためには、発注の都度、必要な条件を記載した書面やメールを確実に交付できる社内フローが整備されているかを確認する必要があります。

なお、基本契約等で共通事項を定めている場合は、個別の発注内容のみの通知でも可能です。

4.2 支払期日・報酬条件が明確に定められているか?

発注者は、フリーランスに業務を委託する際、委託する業務内容とともに「報酬の額」と「支払期日」を契約書や発注書に明記しなければなりません。

また、支払期日を定める期間については、次のルールが定められています。

① 原則(60日ルール)

成果物や役務の提供を受けた日から起算して、60日以内のできる限り短い期間内に支払期日を設定する必要があります。

② 例外(再委託30日ルール)

元委託者から受けた業務を再委託する場合には、一定の情報(元委託者の名称や支払期日など)を明示することで、元委託者からの支払期日から30日以内に支払期日を設定することが可能です。

支払期日が定められていない場合や、上記ルールに反する期日が記載された場合、法律により次の表のように「みなし支払期日」が適用されます。

ケース 法律上の支払期日
【60日ルール】支払期日を定めていない 給付受領日・役務提供日
【60日ルール】60日超で設定した 給付受領日・役務提供日から60日経過日(の前日)
【30日ルール】支払期日を定めていない 元委託支払期日
【30日ルール】30日超で設定した 元委託支払期日から30日経過日(の前日)

4.3 労働者性が疑われる委託形態が存在しないか?

契約形式が「業務委託」であっても、実態として会社の指揮監督下で働いていると判断されれば、労働法上の「労働者」とみなされるリスクがあります。

フリーランスの勤務時間を管理したり、業務の進め方を細かく指示したりするなど、実質的に従業員と同じような扱いをしていないか、契約書の内容だけでなく、日々の業務における実際の運用状況を振り返ることが重要です。

労働者性が認められると、残業代の支払いや解雇の主張など、予期せぬ負担が発生する可能性があります。

4.4 ハラスメント防止体制が整っているか?

フリーランスに対しても、ハラスメント防止のための体制整備が求められます。たとえば次のような対応が必要です。

  1. ハラスメント禁止の方針を明文化し、社内に周知
  2. 行為者に対する対応方針(懲戒措置等)の明示
  3. フリーランスが利用可能な相談窓口の設置
  4. 実効的な相談対応体制の構築(担当者研修、対応マニュアルの整備等)

フリーランスが安心して業務に取り組めるよう、従業員に対する対策と同等の配慮が求められます。

4.5 弁護士による契約・運用チェックを行っているか?

フリーランス新法への対応や労働者性の判断は、専門的な法的知識を要します。インターネット上の雛形をそのまま利用したり、自己判断で運用したりすると、気づかぬうちに法的なリスクを抱えてしまう可能性があります。

トラブルを未然に防ぐ「予防法務」の観点から、弁護士などの専門家による契約書や実際の運用のチェックを受けることが、リスクを低減させるためには有効です。

5. まとめ:フリーランス新法時代の企業コンプライアンス

フリーランスとの取引が当たり前になる中で、企業にはこれまで以上に契約と運用の適正が求められています。新法対応を通じて、自社の体制を再確認することが重要です。

5.1 「業務委託なら安全」ではないことの理解

万が一「業務委託契約を結んでいれば、労働法の適用は避けられる」といった認識がある場合、フリーランス新法の施行を機に認識を見直す必要があります。

契約形式がどうであれ、働き方の実態が重視されるという原則を深く理解し、意図せず「偽装フリーランス」状態になっていないか、自社の運用を厳しく見直すことが求められるのです。

5.2 契約実務の継続的なアップデートの必要性

働き方の多様化に伴い、法制度やガイドラインは今後も変化していくことが予想されます。フリーランス新法への対応は一度きりで終わるものではありません。

法改正や社会情勢の変化に対応し、契約書や社内ルールを継続的に見直し、アップデートしていく姿勢が、これからの企業コンプライアンスには不可欠です。

5.3 予防法務としての契約書レビュー・顧問活用のすすめ

労働者性の判断は専門的で難しく、企業が気づかないうちに法的リスクを抱えてしまうケースは珍しくありません。トラブルが発生してから対応するのではなく、事前にリスクを防ぐ「予防法務」の視点が極めて重要です。

弁護士による契約書のレビューや、日頃から気軽に相談できる顧問契約の活用は、フリーランス新法時代における有効なリスク管理策となります。自社の契約実務に少しでも不安がある場合は、ぜひ一度、企業法務に詳しい弁護士にご相談ください。

監修者:弁護士 三井伸容

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