建物所有目的の土地賃貸借契約には、通常の借地契約と定期借地契約があります。両者は大幅にルールが異なります。

定期借地契約書を作成するときは、定期借地契約の要件を満たす契約書にすると共に、契約期間終了時の扱いを理解しておきましょう。

この記事では、契約書の作成・審査の担当者にむけて、定期借地契約の作成やチェックのポイント、注意点を解説します。

定期借地契約は法律のルールが複雑です。悩んだら、まずは詳しい弁護士へのご相談をおすすめします。

お問い合わせはこちら

1. 土地賃貸借契約とは?

土地賃貸借契約とは、土地の持ち主である賃貸人が、自分の土地を賃借人に貸し、賃借人がその土地を使う代わりに賃料を支払う契約のことです。

賃借人は、決められた期間だけ土地を使うことができ、契約が終わったときには、土地を元の状態に戻して返さなければなりません。

2. 土地賃貸借契約の分類

土地の賃貸借契約にはいくつかの種類があり、目的や契約内容によって適用される法律やルールが大きく異なります。

ここでは、その分類と特徴をわかりやすく整理します。

2.1 建物所有目的の有無による分類

2.1.1 建物を所有する目的があるかないか?

土地の賃貸借契約には、「その土地に建物を建てて使うことが目的かどうか」によって大きな違いがあります。

建物を建てることが目的の場合は、借地借家法という法律が適用されます。

借地借家法は、建物を所有する借主を守るための法律です。建物を建てるには大きなお金と時間がかかるため、簡単に立ち退きを求められないようにすることが目的です。

この法律が適用されると、契約期間が長くなったり、更新が認められたりするなど、借主にとって有利な保護が与えられます。

ただし、借地借家法が使えるためには、いくつかの条件があります。まず、その土地に「建物」があることが必要です。

建物とは、屋根と壁があり、土地にしっかりと固定され、住まいや事業の場として使えるものをいいます。

2.1.2 契約の主な目的が建物を建てる目的かどうか?

次に、その建物が土地を借りる主な目的であるかどうかにより大きな違いがあります。

建物所有目的の場合は、借地借家法が適用されます。

建物所有目的と認められない場合は、借地借家法は適用されません。

そのため、契約期間や更新の条件などは、貸主と借主の話し合いによって自由に決めることになります。

たとえば、家や店舗、倉庫などを建てるために土地を借りる場合には建物所有目的とされます。

しかし、駐車場や資材置き場として使うために土地を借りた場合などは、たとえ建物があっても補助的なものとみなされ、建物所有目的とは認められないことがあります。

2.2 建物所有目的があるときの普通借地と定期借地という分類

建物所有目的の土地賃貸借には、「普通借地」と「定期借地」の2つがあります。

2.2.1 普通借地権

普通借地権とは、契約を更新することで長く土地を使い続けられる借地権です。

借主が希望すれば、契約期間が終わっても更新できます。地主が契約を終わらせるには、正当な理由が必要です。

しかも、大多数の事案では、立退料を払わなければなりません。

2.2.2 定期借地権

定期借地権とは、契約で決められた期間が終わると、土地を地主へ返す必要がある借地権です。

契約の更新はなく、再び使いたい場合は新しい契約が必要です。定期借地の契約は書面でする必要があります。

また、30年以上50年未満の事業用定期借地、10年以上30年未満の事業用定期借地は公正証書でなければなりません。

2.2.3 普通借地権と定期借地権の違い

普通借地と定期借地の一番の違いは、「更新があるかどうか」です。

普通借地は、何度も更新ができ、事実上ずっと使い続けられる可能性が高いですが、定期借地は更新がなく終了します。

また、普通借地では、契約が終わる前に建物を建て直したとき、法律のルール上は一定の条件を満たせば期間が延びることがあります。

定期借地では法律のルール上はこうした延長はできません。

さらに、普通借地では、法律のルール上は借主が地主に対して建物の買い取りを請求できる権利がありますが、定期借地では、法律のルール上は建物の買い取りは請求できません。

このように、普通借地では借主の権利が強く守られている一方で、定期借地は地主にとって使いやすい制度と言えます。

2.3 定期借地は3種類

定期借地には、大きく分けて「一般定期借地」、「事業用定期借地」、「建物譲渡特約付借地」の3種類があります。

2.3.1 一般定期借地

一般定期借地は、50年以上の長い期間、土地を借りる契約です。

建物を建てて使うことができますが、①契約更新がないこと、②建物の築造による存続期間の延長がないこと、③建物の買取請求ができないことを定めておきます。

契約期間が終わるときには、原則として建物を取り壊して土地を返さなければなりません。この契約は、必ず書面で行う必要があります。

利用の目的に制限はなく、住まいや事業など、自由に使うことができます。

2.3.2 事業用定期借地

事業用定期借地は、仕事のために土地を借りて建物を建てる契約です。

契約期間は30年以上50年未満のタイプと、10年以上30年未満のタイプがあります。

30年以上50年未満のタイプでは、建物を建てて使うことができますが、①契約更新がないこと、②建物の築造による存続期間の延長がないこと、③建物の買取請求ができないことを定めておきます。

10年以上30年未満のタイプでも、通常は①契約更新がないこと、②建物の築造による存続期間の延長がないこと、③建物の買取請求ができないことを定めておきます。

契約期間が終わるときには、原則として建物を取り壊して土地を返さなければなりません。この契約は、必ず公正証書で行う必要があります。単なる書面での契約では無効となります。

利用の目的は事業用に限られ、建物を住居として利用することはできません。

2.3.3 建物譲渡特約付借地

建物譲渡特約付借地は、30年以上土地を借りたあと、建てた建物を地主に買い取ってもらうことを条件とした契約です。

建物を譲ることで借地契約は終わります。

他の定期借地権と違って、口頭での契約も認められています。もっとも、トラブルを防ぐためには契約書を作っておくのが普通です。

3. 一般定期借地契約のチェックポイント

ここでは、定期借地契約のなかでもよく利用される「一般定期借地契約」のチェックポイントを解説します。

なお、土地賃貸借契約一般のチェックポイントは、土地賃貸借契約書の作成やチェックのポイントを弁護士が解説をご確認ください。

3.1 契約の更新をしない旨の記載があること

一般定期借地契約では、「この契約は更新しない」という内容を、はっきり書面に記載しておくことが大切です。

これは、借地借家法により決められている重要な条件です。

たとえ契約書のタイトルに「一般定期借地契約」と書かれていても、それだけでは法律上の効果はありません。

中身に「契約を更新しない」という条文がなければ、一般定期借地としては認められないことがあります。

3.2 建物再築による期間の延長をしない旨の記載があること

一般定期借地契約では、「借主が借りている土地上の建物を建て直しても契約の期間は延ばさない」という内容を、契約書に明記しておく必要があります。

借地借家法では、通常の借地契約において、借主が建物を建て直した場合、地主が特に反対しなければ契約期間が延びるルールがあります。

これは、建物を建てることを前提に土地を借りている人が、長く使い続けられるようにするための制度です。

しかし、一般定期借地契約ではこの延長を認めないことが前提です。

そのため、契約書に「建て直しても期間は延びない」と明確に書いておかないと、法律のルールによって契約期間が延びてしまい、一般定期借地として認められないことがあります。

3.3期間満了による建物買取請求をしない旨の記載があること

一般定期借地契約では、「借地人が契約の終了時に建物を地主に買い取ってもらうことはできない」という内容を、契約書にしっかり書いておく必要があります。

普通の借地契約では、借地人が「この建物を時価で買い取ってください」と地主に請求できる権利があります。

これは「建物買取請求権」と呼ばれ、借地借家法で定められています。

しかし、一般定期借地契約では建物買取請求を排除することを契約書で定めることができます。

そのため、契約書の中で「建物買取請求をしない」という特約を、明確に書き加えておくのがよいでしょう。

3.4 契約期間を50年以上にすること

一般定期借地契約では、契約期間を50年以上にすることが借地借家法で決められています。

契約期間は、50年を超えていれば何年にしても構いません。たとえば60年でも70年でも、貸主と借主が話し合って自由に決めることができます。

ただし、50年より短い期間では一般定期借地契約としては認められません。
もし49年などと定めてしまうと、一般定期借地契約とはならず、普通借地契約となる可能性があります。

3.5 事前の説明が必要であること

一般定期借地契約を結ぶ前に、貸主は借主に対して、書面を交付したうえで契約の特徴をあらかじめ説明しなければならないと、借地借家法で定められています。

説明すべき内容は、「この契約には更新がなく、期間が終われば土地の使用も終了する」という点です。

借主が「あとで更新できる」と誤解しないよう、契約前にこの点をはっきり伝える必要があります。

また、説明は契約書とは別の書面を用いて行う必要があります。契約書に「更新なし」と書いてあるだけでは足りません。

契約書の作成前に専用の書面を渡し、そのうえで内容を口頭でも説明することが法律で求められています。

もしこの手続きがきちんと行われなければ、「更新なし」という取り決めは無効となってしまうことがあります。

その場合、一般借地契約ではなく普通借地契約となる可能性があります。

3.6 書面で契約をすることが必要であること

一般定期借地契約を有効にするには、必ず書面で契約を結ぶことが法律で定められています。

ここで気をつけたいのは、この契約は口約束では成立しないという点です。

一般的な借地契約では、口頭で合意すれば契約が成立することもありますが、一般定期借地契約ではそれが認められていません。

なお、契約書は必ずしも公正証書である必要はありません。

貸主と借主が署名・押印した通常の契約書でも、法律の要件を満たしていれば有効です。

ただし、その内容が法律に沿っていないと、一般定期借地契約としては無効とされるおそれがあります。

近年では電子契約も広がっており、パソコン上のデータやクラウドサービスを利用した契約も認められています。

電子的な記録であっても、法律上は「書面による契約」として扱われます。

つまり、契約書の形式が紙であっても電子であっても、内容が正しく記録され、双方が同意していれば、一般定期借地契約として有効に成立します。

3.7 借地人からの中途解約の可否

一般定期借地契約では、原則として借主(借地人)から途中で解約することはできません。

これは、期間の定めがある契約であり、一定の安定性を確保するためです。

建物を借りる定期建物賃貸借の場合には、生活の拠点として使えなくなるような特別な事情があれば、借主から契約を解約できると法律で決められています。

しかし、一般定期借地契約にはそのような規定はありません。

そのため、契約期間中にやむを得ない理由があったとしても、借主の都合だけで中途解約することは法律のルール上は難しいです。

ただし、契約書の中で「借主が希望すれば途中で解約できる」という特約をあらかじめ定めておけば、その内容に従って解約できます。

このような条項を「解約権留保特約」といいます。特約には、いつまでに申し出が必要か、違約金があるかなど、具体的な条件を明記しておきましょう。

3.8 契約書で定めた期間が終了した場合の扱い

一般定期借地契約では、特約で定めれば契約期間が満了することで借地契約は終了し、土地を返すことが原則です。自動更新されることはありません。

そのため、契約書には次の内容を明確に書いておくことが大切です。

  1. 契約期間が終われば借地契約は終了すること
  2. 契約の更新は行わないこと
  3. 土地は更地にして貸主に返還すること

これらの記載が不十分だと、普通の借地契約となってしまうおそれがあるだけでなく、「更新されると思っていた」「まだ借り続けられるはずだ」と借主に誤解され、トラブルになるおそれがあります。

また、契約終了後の対応についても、次のような点を契約書に書いておくと安心です。

  1. 明け渡し時の立ち会いの有無
  2. 建物の撤去や原状回復の方法
  3. 明け渡しが遅れた場合の対応(損害金など)

契約が終わったあとの流れをしっかり決めておくことが、トラブルを防ぐために重要です。

4. 事業用定期借地権の注意点

事業用定期借地契約も、法律で定められたルールにしたがって正しく契約しないと、普通の借地契約になってしまうことがあります。

次のようなポイントに注意して、契約内容が正しくなっているかを確認しましょう。

① 居住用の建物が含まれていないこと

事業用定期借地は、あくまで事業に使う建物を建てるための契約です。人が住む建物(居住用)は建てられません。

たとえば、老人ホームやグループホームのように、人が住むことが前提になっている建物は認められません。たとえ「仕事のための建物」だとしても、建物の一部に社宅や住居スペースが含まれていれば、事業用定期借地としては無効になる可能性があります。契約書に書かれていなくても、貸主がそういう使い方を知っていた場合には注意が必要です。

② 契約は必ず公正証書で結ぶこと

事業用定期借地契約は、公証役場で作る「公正証書」で契約する必要があります。書面を作成しただけでは事業用定期借地契約が成立しませんので注意しましょう。

③ 契約期間は10年以上50年未満であること

契約期間が10年未満の場合は、事業用定期借地としては認められません。必ず10年以上50年未満に設定しましょう。

④ 更新に関する記載に注意すること

契約期間が30年以上50年未満の場合、次の2つの更新に関連する要件が借地借家法に記載されています。契約書に記載しましょう。

  • 契約の更新がないこと
  • 建物の築造による存続期間の延長がないこと

契約期間が10年以上30年未満の場合、更新に関連する要件は借地借家法に明確に記載はされていません。

もっとも、30年以上50年未満の場合と同様の内容を中心として、契約書に記載するのがよいでしょう。

5. 建物譲渡特約付借地権の注意点

建物譲渡特約付借地権を正しく成立させるにも、契約内容にいくつかの重要な条件を満たしている必要があります。

次のポイントを事前に確認しておきましょう。

① 特約は契約当初に結ぶこと

建物を地主に譲渡するという約束は、契約を結ぶときに決めておく必要があります。

あとから追加しても、建物譲渡特約付借地権として認められない可能性が高いです。

② 書面での合意が望ましいこと

法律上は口頭でも成立しますが、トラブルを防ぐためには書面にしておくことが強く推奨されます。

将来の紛争を避けるためにも、契約書の作成は必須と考えてよいでしょう。

③ 登記の対応も必要

この特約を確実にするためには、建物の所有権移転に関する「仮登記」を入れておくのがよいでしょう。

仮登記がないと、建物が第三者に譲渡された場合に、当初に予定していた建物の買取ができなくなることがあります。

④ 建物譲渡後の使用者との調整

建物を地主に譲渡した場合、建物使用者と地主との関係を調整する必要があります。合意ができない場合、最終的には裁判所が条件を決めることとなります。

⑤ 他の借地契約との併用

建物譲渡特約付借地権は、一般定期借地権や事業用定期借地権と組み合わせて使うこともできます

ただし、併用する場合でも、特約や契約条件が法律に合っていなければ効力が認められませんので注意しましょう。

6. 定期借地契約に関するよくあるご質問

ここでは、定期借地契約に関して、よくある疑問にお答えします。

6.1 貸主ですが、期間終了後に土地は戻ってきますか?

はい、戻ってきます。

定期借地契約では、契約で決めた期間が終わると借地権も自動的に終了します。借主は土地を貸主に返さなければなりません。

ただし、契約書に「更新する可能性」や「再契約の予定」といったあいまいな表現があると、後でトラブルになることがあります。

土地を確実に返してもらうためにも、契約内容は正確に、わかりやすく記載することが大切です。

6.2 借主ですが、期間終了後に再契約はできますか?

再契約は可能ですが、貸主の同意が必要です。

定期借地契約は、あらかじめ決めた期間で終わる契約なので、自動的に続けることはできません。

再び土地を借りたいときは、契約が終わる前に貸主と相談し、新たに契約を結び直す必要があります。

なお、「再契約の予定がある」と最初に書かれていても、それだけで契約が続くことには通常はなりません。

再契約はあくまで新しい契約として取り扱われます。

6.3 公正証書で契約しなければいけませんか?

契約の種類によって異なります。

事業用定期借地権の場合は、必ず公正証書で契約しなければなりません。これが法律の決まりです。

一般定期借地権は、公正証書でなくても構いません。貸主・借主が書面で合意していれば、通常の契約書でも有効です。

建物譲渡特約付借地権は、法律のルール上は口頭の契約でも成立します。もっとも、契約内容を明確にするため、通常は書面で契約書を作成します。

ただし、いずれの場合においても、公正証書で作っておくと、トラブルの予防や証拠としての信頼性が高まります。

不安がある場合は公正証書での契約を検討するのもよいでしょう。

7. まとめ:定期借地契約で悩んだら弁護士に相談

定期借地契約は、普通借地契約とは異なり、法律上の要件や契約書の記載内容が細かく定められています。

契約書の文言が少し違うだけで、本来の「定期借地」としての効力が認められなくなるおそれもあります。

契約の目的に合った内容になっているかどうかを、契約前にしっかり確認することが非常に重要です。

よつば総合法律事務所では、不動産業界をはじめとした多数の企業様と顧問契約を締結しており、宅地建物取引士の資格をもつ弁護士も在籍しています。

契約書の作成・見直し・トラブル予防など、幅広い実務に対応しています。

「この内容で本当に定期借地契約として有効なのか?」「借主・貸主の立場を適切に守れているか?」といった不安があるときは、法律の専門家に相談することが、最も確実で安心な対策です。

定期借地契約の作成やチェックに不安がある方は、ぜひ一度、よつば総合法律事務所にご相談ください。

監修者:弁護士 加藤貴紀

関連記事