【ビッグモーター社の報道から考える】企業不祥事と企業の法的責任、対応策、公益通報者保護法など

目次

1. はじめに

よつば総合法律事務所の弁護士の村岡つばさです。

株式会社ビッグモーターの不祥事が、連日、ニュースで報道されています。

あくまでも報道ベースですが、同社の多くの工場にて、故意に顧客の車両を傷つけて修理・部品交換を行い、保険金請求を行うなどの不正行為が行われていたようです。

本件の事案解明のために、特別調査委員会(弁護士が調査委員となっています)が設置されましたが、同委員会の作成した調査報告書はかなり衝撃的なものでした。

例えば、「不正な作業に関与したことがあるか」というアンケートに対しては、回答者382人のうち104名(27.2%)が、自ら不正な作業に関与したことがあると回答していることなどが記載されています。

今回は、ビッグモーター社の事案や、過去に問題となった事例等も参照に、企業不祥事の類型や類型ごとの代表的な事案、企業の法的責任、企業の対応策について解説していきます。

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2. 企業不祥事の類型

企業不祥事といっても、様々な類型があります。

例えば、ビッグモーター社の事案のような「不正請求」も企業不祥事の一類型ですし、ハラスメント・長時間労働などの労働問題や、法令違反の類型もあります。

例えば、以下の類型が、企業不祥事としてよく問題になります。

  • 不正な会計処理:粉飾決算など
  • 法令違反行為:消費者契約法、景品表示法、食品衛生法など、様々な法令違反行為
  • 労働問題:ハラスメント、長時間労働、労災、不当解雇など→法令違反行為とも一部被ります
  • 犯罪行為:詐欺、わいろ、脱税など、企業が主体となって行う犯罪行為だけでなく、役員・従業員個人の犯罪行為(強制性交、薬物利用、暴行・傷害など)も含まれる
  • 反社会的勢力との関与:資金提供、深い関係性など
  • その他の企業不祥事:個人情報漏えい、SNSでの炎上、ステルスマーケティングの問題など

3. 企業不祥事が事業に大きく影響を与えた事案

ここでは、企業不祥事が事業に大きく影響を与えた事案を、類型ごとに見ていきます。

(1) 不正な会計処理-カネボウの粉飾決算の事案

不正な会計処理により、上場廃止、会社清算に至ったケースもあります。

有名な事案としては、カネボウ株式会社の粉飾決算の事案が挙げられます。

カネボウ社は、1887年に創業した化粧品事業などを営んでいた会社で、東京証券取引所に上場するなど著名な会社でしたが、粉飾決算が明るみとなり、株式の上場廃止や、最終的には会社清算(ただし事業自体は第三者に譲渡されています)にまで至ってしまいました。

なお、この過程で、一部の経営陣が逮捕・起訴されただけでなく、粉飾決算に関与していた複数の公認会計士も逮捕・起訴されており、その結果、大手監査法人が解散する事態にまで発展しています。

同社の事案だけでなく、他にも、不正会計の発覚により大幅に株価が低下し、株主の集団訴訟に発展したケース(東芝社の不正会計事案)や、近年でも、不正会計を理由に株式の上場廃止に至ったケース(グレイステクノロジー社の不正会計事案)等があります。

株式会社東京商工リサーチが公表している【2022年度 全上場企業「不適切な会計・経理の開示企業」調査】によると、2022年度に不適切会計を開示した上場企業は55社(件数は56件)にも上るそうです。

この「不適切会計」には、「会計処理のミス」なども含まれていますが、いわゆる粉飾決算のケースも13件(23.2%)ほどあったそうです。

(2) 法令違反行為-スシローの景品表示法違反の事案

「法令」自体がとても多いため、法令違反行為も様々ですが、近年の有名な事案だと、大手回転寿司チェーンの「スシロー」の景品表示法違反の事案が挙げられます。

詳しくは、スシロー、2度目の景品表示法違反?1度目とはどう違う?をご参照ください。

スシロー、2度目の景品表示法違反?1度目とはどう違う?

これは、テレビCMなどで大々的に広告していたメニューにつき、キャンペーン期間中であるにも関わらず、当該メニューを終日提供しなかった店舗があったため、景品表示法の禁止する「おとり広告」に該当するとされた事案です。

これによりスシローは、消費者庁から、再発防止などを求める措置命令を受けています。

(3) 労働問題-電通の過労自死の事案

労働問題も様々なケースがありますが、株式会社電通の過労自死の事案は、各メディアでも大きく報道されました。

長時間労働により精神疾患を発症し、自死してしまった(労災認定もなされています)という非常に痛ましい事案で、報道により企業価値が大きく棄損されただけでなく、社長の辞任や、法人が刑事罰を受ける事態にまで発展しています。

本件のような長時間労働だけでなく、ハラスメント、労災、不当解雇など、企業の労働問題の関心は非常に高く、最近では報道のみならず、従業員がSNSで告発するケースも多く見られます。

(4) 犯罪行為-ビッグモーターの事案

まさに現在進行形の事案であり、以下は「調査報告書」「報道」のみを前提とした一弁護士の私見であることはご了承ください。

仮に、特別調査委員会の調査報告書に記載された事実が実際にあったとすれば、顧客の車両を故意に傷つけた行為については器物損壊罪が、これにより修理費用などを水増しし、保険会社に保険金請求を行った行為については詐欺罪が、それぞれ成立する可能性があります。

現行法では、法人が器物損壊罪・詐欺罪を理由に処罰を受けることはありませんが、実際に行為を行った従業員だけでなく、具体的な行為指示があった場合や、行為を黙認していた場合などには、その上司や経営陣も、共犯として刑事責任を追及される可能性があります。

勿論、刑事上の問題だけでなく、民事上の問題もあります(保険会社からの保険金返還請求訴訟、利用者の集団訴訟など)。基本的には法人に対して請求がなされますが、役員個人の責任追及がなされる可能性も相当程度あると考えています。

なお、この「犯罪行為」という類型で見ると、特にここ1~2年で非常に多いのが、雇用調整助成金などの「助成金の不正受給」です。これも立派な犯罪行為です(詐欺罪に該当します)。

不正受給分の返金が求められるだけでなく、悪質なケースでは、企業名などの情報が公表されます。代表者や、関与していた社会保険労務士が逮捕されているケースもあります。

(5) 反社会的勢力との関与-スルガコーポレーションの上場廃止事案

現在では、多くの契約書で「反社会的勢力の排除」に関する条項が入っておりますが、反社会的勢力との関係性が理由で、株式の上場廃止にまで発展してしまったケースがあります。

当時の報道や外部調査委員会の報告書などを踏まえると、スルガコーポレーション社は、東京証券取引所2部に上場していた著名な不動産会社でしたが、反社会的勢力との関与の疑いが明らかになった結果、金融機関からの新規融資が受けられなくなってしまい、資金調達が困難となったため、上場廃止、民事再生の申立てにまで至ってしまったというのが実情のようです。

(6) その他の企業不祥事-ベネッセの顧客情報流出事案

これも様々なケースがありますが、報道でも大きく取り上げられた、ベネッセの顧客情報流出事案が有名です。

これは、ベネッセ社の関連会社で勤務していた派遣社員が、ベネッセ社の顧客情報を不正に取得した上、名簿業者に販売してしまったという事案です。

ベネッセ社のリリースによると、流出した恐れのある顧客情報は最大で3504万件分とのことで、非常に大規模な顧客情報の流出事案です。

これにより、流出した顧客への補償や、顧客からの集団訴訟などで、極めて多額の金銭的出捐を伴う事態になってしまいました。

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4. 企業不祥事と法的責任、企業のダメージについて

ここまで見た通り、企業不祥事は、時に事業存続自体を左右するような重大な問題に発展することがあります。

(1) 企業の刑事責任

場合によっては、民事責任だけでなく、企業が刑事責任を負うこともあります。

刑事罰は、本来的には「自然人」(人間)に対して科されることを想定しておりますが、個別の法律において、「法人の刑事責任」についても定められていることがあり、この場合には、実際に行為を行った自然人(代表者や従業員など)だけでなく、法人も、刑事罰を受ける可能性があります。

これは、両罰規定などと呼ばれます。「労働基準法違反で〇〇社を送検」というニュースを耳にすることがあると思います。

これはまさに今述べた、企業の刑事責任が問われかけている場面です。

例えば、労働基準法については、違反行為があった場合の罰則が定められておりますが、121条において、以下のように、行為者だけでなく事業主(法人など)についても罰則の対象となることが規定されています。

ただし、性質上、事業主に懲役刑が科されることはなく、罰金のみが科されることとなります。

労働基準法 第百二十一条

① この法律の違反行為をした者が、当該事業の労働者に関する事項について、事業主のために行為した代理人、使用人その他の従業者である場合においては、事業主に対しても各本条の罰金刑を科する。ただし、事業主(事業主が法人である場合においてはその代表者、事業主が営業に関し成年者と同一の行為能力を有しない未成年者又は成年被後見人である場合においてはその法定代理人(法定代理人が法人であるときは、その代表者)を事業主とする。次項において同じ。)が違反の防止に必要な措置をした場合においては、この限りでない。

② 事業主が違反の計画を知りその防止に必要な措置を講じなかつた場合、違反行為を知り、その是正に必要な措置を講じなかつた場合又は違反を教唆した場合においては、事業主も行為者として罰する。

(2) 企業の民事責任

企業が主体となって不祥事を行っていた場合には言うまでもありませんが、「従業者が主体的に不祥事を行っており、会社は認識すらしていなかった」という場合でも、使用者である企業が被害者に対し、民事上の賠償責任を負うケースも少なくありません。

これを「使用者責任」といいます(民法715条)。

また、先に見たベネッセ社の事案のように、企業と行為者との間で直接の契約関係がない場合でも、当該不祥事の発生につき、管理不足などの過失が企業に認められる場合には、行為者だけでなく企業も、損害賠償責任を負う可能性があります(民法709条)。

その他、契約上の責任(債務不履行責任)を追及される可能性や、当該不祥事により株価低下などの損害を被ったとして、株主から損害賠償請求がなされる可能性もあります。

(3) 行政処分

先に見たスシローの事案のように、企業不祥事が理由で行政上の処分を受けることもあります。

法令違反行為の中には、一定期間、事業活動の停止を余儀なくされるものや、営業のために必要な許認可自体が取り消されてしまうケースもあります。

事業を営むために「許認可」が必要な業種(例:飲食業、運送業、産業廃棄物運搬業、労働者派遣業、宅建業など)では、おそらくすべてにおいて、「重大な法令違反があった場合」が許認可の取消事由として定められています。

(4) その他-レピュテーションの問題

事実上の問題としては、報道やSNSでの拡散などを理由とするレピュテーションの問題が挙げられます。

「事実上の問題」と書きましたが、これは企業にとってとても深刻な問題です。

一度棄損された企業価値は、簡単には戻らない上、純粋な売上の問題だけでなく、採用活動にも大きく影響を及ぼします。

1つの企業不祥事の報道がきっかけで、従業員・元従業員からの告発が相次ぎ、更に大きな問題に発展することも良くあります。ビッグモーター社の事案が正にその典型例です。

(5) 経営陣・従業員の責任

なお、企業だけでなく、経営陣や従業員個人が、刑事上・民事上の責任を問われることもあります。

5. 企業が行うべき対応

以下、私見として、企業不祥事に関する企業の対応策や、行うべき対応を記載します。

なお、企業が主導して不祥事を行っている場合には、以下はいずれも当てはまりません。

(1) 不祥事の早期発見の重要性

企業不祥事で最も重要なことは、「不祥事を早期に発見すること」です。

正に、言うは易く行うは難しですが、すべてこの「早期発見」に集約されると考えています。

今までに挙げた事例は、ほぼすべてが、「深刻化した段階で不祥事が発覚した」ケースです。

早期に不祥事を発見できていれば、企業としても様々な選択肢を検討することができますし、被害を最小限度に食い留めることができます。

(2) 不祥事を早期発見するためにはどうしたらよいか

「(内部)通報体制を確立すること」が非常に重要です。

消費者庁が公表している、「平成28年度 民間事業者における内部通報制度の実態調査報告書」には、様々な統計・アンケート結果が記載されています。

統計の中に、「社内の不正発見の端緒」というものがありますが、一番多い端緒としては、「従業員等からの内部通報(通報窓口や管理職などへの通報)」で、60%弱を占めています。

この統計からも、通報窓口が不祥事の早期発見のために重要であることが分かります。

勿論、ただ通報窓口を設置すれば良いというだけではなく、「実効性のある、相談しやすい窓口」でなければ意味がありません。この部分については、次の項目で触れます。

(3) 通報窓口の設置・適正化-公益通報者保護法の改正について

公益通報者保護法の改正により、2022年6月1日より、常時使用する労働者の数が300名を超える(=301名以上)事業者は、内部通報体制を整備することなどが「法的義務」となりました。

なお、常時使用する労働者の数が300名以下の場合には、「努力義務」に留まります。

主な改正点としては、①公益通報の保護の対象範囲が拡充したこと、②通報者の保護が強化されたこと、③内部通報体制の整備義務が課されたことが挙げられますが、このうち、最も重要なのは③です。

改正公益者通報保護法は、内部通報体制の整備のために事業主が取るべき措置を、以下のように定めています(強調・下線は筆者が付したもの)。

(事業者がとるべき措置)

第十一条 事業者は、第三条第一号及び第六条第一号に定める公益通報を受け、並びに当該公益通報に係る通報対象事実の調査をし、及びその是正に必要な措置をとる業務(次条において「公益通報対応業務」という。)に従事する者(次条において「公益通報対応業務従事者」という。)を定めなければならない。

2 事業者は、前項に定めるもののほか、公益通報者の保護を図るとともに、公益通報の内容の活用により国民の生命、身体、財産その他の利益の保護に関わる法令の規定の遵守を図るため、第三条第一号及び第六条第一号に定める公益通報に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の必要な措置をとらなければならない。

2項の、「必要な体制の整備その他の必要な措置」の具体的な内容は法律からは読み取れず、「指針」や、「指針の解説」に記載された内容も確認する必要があります。

公益通報者保護法第11条第1項及び第2項の規定に基づき事業者がとるべき措置に関して、その適切かつ有効な実施を図るために必要な指針 公益通報者保護法に基づく指針(令和3年内閣府告示第 118 号)の解説

例えば、通報窓口を設置するだけでなく、匿名での内部通報も受け付ける、窓口担当者の経営層からの独立性を確保する、利益相反を排除する、通報者の探索行為を禁止する、通報体制について従業員などに教育・周知する、内部規程を定め規程に従って運用するといったことなどが、「必要な体制の整備その他の必要な措置」の例として記載されています。

先ほど、「ただ窓口を設置するのではなく、実効性のある、相談しやすい窓口でなければ意味がない」という記載をしましたが、指針で記載されているような「必要な体制の整備その他の必要な措置」を講じることが、実効性確保の観点からは非常に重要です。

(4) 不祥事が発覚した後の事後対応

どんなに注意しても、気を付けても、不祥事は起こり得ます。

従業者が故意に不正行為を行っていたものの、これに気付けなかったというケースもあれば、問題に気付かないまま、不適切な行為を重ねてしまうケースもあります。

不祥事が発覚した場合に、最も避けるべきは「隠蔽」です。泥沼にはまる可能性が高く、より深刻な事象に発展することも良くあります。

取引先、顧客、従業員、金融機関、監督官庁、株主など、会社には「関係者」がとても多く存在します。

そもそも関係者への報告が必要か、報告を行うとして、どの範囲の関係者にどこまでの報告を行うべきか、被害回復のために行うべきことは何か、想定される企業リスクの範囲はどの程度か等、不祥事発覚時に企業が検討しなければならないことは沢山あります。

ただ、不祥事対応というのは中々多く経験するものでもないため、苦慮される会社も多いです。

そのため、不祥事が発覚した際は、法務であれば弁護士、税務であれば税理士・会計士など、信頼できる専門家に早急に相談し、慎重に対応を検討されることを強くお勧めします。

6. よつば総合法律事務所でサポートできること

よつば総合法律事務所では、本記事作成時点で400社強の企業様より顧問契約をご依頼いただいており、不祥事対応を含む企業法務の案件につき、豊富な経験と実績があります。

具体的には、以下のサポートを行うことが可能です。

  • 公益通報、ハラスメントなどの相談窓口の受託業務
  • 内部通報窓口の整備、相談対応のサポート
  • 労務監査(適法性の確認及び是正)、労務全般のコンサルティング業務
  • 新規ビジネスや契約に関する適法性のチェック、アドバイス
  • 違反者に対する処分(懲戒処分のアドバイス、書面作成、交渉、直接の退職勧奨等)
  • 会社関係者への説明文書の作成、説明への同席等
  • 損害賠償請求への対応(交渉・訴訟)
  • お困りの企業様や、不祥事防止に興味をお持ちの企業様は、是非お気軽にお問い合わせください。

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    文責:弁護士 村岡つばさ

    ※上記記事は、本記事作成時点における法律・裁判例等に基づくものとなります。また、本記事の作成者の私見等を多分に含むものであり、内容の正確性を必ずしも保証するものではありませんので、ご了承ください。