スシロー、醤油差しをなめた少年への訴え取り下げについて弁護士が解説します

目次


1. はじめに

よつば総合法律事務所の弁護士の辻悠祐です。

大手回転ずしチェーンのスシローの店舗において、客の少年が卓上の醤油差しの注ぎ口をなめる動画が拡散した件で、スシローの運営会社が少年に対して約6,700万円の損害賠償請求を求めた訴訟で、調停が成立して訴えを取り下げたというニュースが出ました。

このニュースについて、弁護士の視点で解説を行います。

2. 迷惑動画をアップした少年の責任

迷惑動画をSNSにアップして、企業の業務を妨害したり、信用を毀損した場合は、刑事と民事の両方から責任追及ができます。

(1) 刑事の責任追及について

刑事の問題は、犯罪行為にあたるか、刑罰を科すことができるかという問題です。

警察や検察が捜査を行い、捜査結果を踏まえて、検察官は刑事裁判にかけるのかを判断します。

被害者は、捜査機関に対して被害届を提出したり、刑事告訴をすることができます。

20歳未満の少年の場合は、少年法という法律が適用されますので、通常の刑事裁判の手続と異なります。

少年の場合は、家庭裁判所で刑罰ではなく保護処分を行うことが原則となります。

報道によると、8月1日「器物損壊の非行内容で岐阜家裁に送致した」とあるので、今後家庭裁判所で手続が進められるかと思います。

(2) 民事の責任追及

民事責任の追及とは、被害者に発生した損害について、金銭的な賠償請求を求めることです。

たとえば、迷惑動画が拡散されたことを受けて被害店舗で醬油のボトルを交換した費用、清掃費用などの実費はもちろん、企業の社会的信用の低下に伴う損害、迷惑動画の影響で売り上げが減少した場合は損失の請求などが考えられます(ただし、売上減少の損失の請求は迷惑動画の拡散と売り上げ減少との関係を証明することが難しいケースも多いです)。

しょうゆ差しなめた少年への訴え取り下げとは、民事の責任追及の話です。

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3. 約6,700万円の訴訟をするためにかかる費用

ニュースでは、スシローの運営会社が少年に対して約6,700万円の損害賠償請求を求めたことが記載されています。

約6,700万円の訴訟をするためには、次のような費用がかかります。

弁護士費用

弁護士費用は、訴訟の手続を弁護士に依頼する場合にかかる弁護士の着手金や報酬金などの費用です。

弁護士費用については一律の基準はありませんが、旧日本弁護士連合会報酬等基準では、次のように規定されています。

※以下のコンテンツは左右にスワイプしてご確認ください。

着手金事件の経済的な利益の額が
300万円以下の場合 経済的利益の 8%
300万円を超え 3,000 万円以下の場合 5%+9万円
3000万円を超え 3億円以下の場合 3%+69万円
3億円を超える場合 2%+369万円
報酬金事件の経済的な利益の額が
300万円以下の場合 経済的利益の 16%
300万円を超え3000万円以下の場合 10%+18万円
3000万円を超え 3億円以下の場合 6%+138万円
3億円を超える場合 4%+738万円

着手金とは、事件の依頼を受けたときに弁護士に支払う費用のことです。

6,700万円の訴訟を依頼する場合、上記の表に基づくと、次のとおりの計算となり、着手金は270万円となります。

旧日本弁護士連合会報酬等基準に基づく着手金計算

6,700万円×3%+69万円=270万円

報酬金とは、事件等の処理が終了したときに弁護士に支払う費用のことです。

仮に、訴訟の結果6,700万円が経済的利益となった場合は、上記の表に基づくと、次のとおりの計算となり、報酬金は540万円となります。

旧日本弁護士連合会報酬等基準に基づく報酬金計算

6,700万円×6%+138万円=540万円

印紙代

印紙代とは、訴訟をするために裁判所に納める手数料のことです。手数料の金額は一覧表にまとめられています。

たとえば、6,700万円の請求をする場合は、訴え提起の手数料は22万1000円となります。

郵便代

裁判所が書類の送付等に使う郵便代のことです。郵便代は訴訟提起時に、訴える方が裁判所に一定の郵券納めることが一般的です。

4. まとめ

6,700万円の訴訟をするためには、訴訟をする側にも相応のコストがかかってきます。

訴訟で勝訴した場合は、敗訴者に対して、負担した訴訟費用や郵便代を請求することは可能です。

しかし、弁護士費用は自己負担となります。不法行為に基づく場合は請求認容額の1割までは弁護士費用として認められることが一般的ですが、訴訟の相手方から回収できるのかという問題は別途あります。

今回の訴訟でも、スシロー運営会社にどれだけの経済的なメリットがあったのかは不明です。

しかし、迷惑動画を拡散した相手に対して毅然とした対応をとるという企業の姿勢を示した点に意義があったのかと思います。

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文責:弁護士 辻悠祐

※上記記事は、本記事作成時点における法律・裁判例等に基づくものとなります。また、本記事の作成者の私見等を多分に含むものであり、内容の正確性を必ずしも保証するものではありませんので、ご了承ください。