建設業法違反による行政処分を受けないためのポイント

目次

 

1. 建設業者に対する立入検査の実施件数

国土交通省は、平成19年から各地に建設業法令遵守推進本部を設置して、建設業法令の遵守に関する取り組みを行っています。

令和5年6月に、国土交通省から法令遵守推進本部の令和4年度の活動状況 が公表されました。同公表によりますと、推進本部に寄せられた法令違反疑義情報等の受付件数は、令和4年度だけで3492件もあったようです。

また、令和4年度における建設業者に対する立入検査などの実施件数は884件でした。

行政処分・勧告の実施件数については、営業停止処分が16業者、指示処分が9業者、勧告が36業者、口頭指導等が190業者、と報告されています。

行政による立入検査等が一年間で884件も実施されていることから、自社でも知らずに建設業法違反にあたる取引をしていないか注意が必要です。

 

2. 建設業法の違反事例

(1)建設業法とは

建設業法のルールは、建設工事の適正な施工を確保し、発注者を保護することと、建設業の健全な発達を促進することを目的としています。

たとえば、建設業者の許可制や、工事請負契約に定めるべき事項などのルールが定められています。

(2)最近の違反事例

工期12ヶ月の新築工事において、当初工程では4週6休としていたところ、着工4ヶ月から4週4休に変更し、11ヶ月後からは4週0休の対応を元請けが下請けに求めていたという事案で、建設業法第19条の5に違反するおそれがあるとして、国土交通省から注意喚起の文書が元請けに通知されたという事例がありました。

2020年に改正された建設業法が施行され、著しく短い工期を禁止する規定(第19条の5)が新設されました。

同規定により、著しく短い工期で契約締結した発注者に対して、行政が勧告を行うことができるようになりました。

著しく短い工期を禁止することは、2024年4月から建設業に適用される時間外労働の罰則付き上限規制とリンクしています。

時間外労働の上限規制を超えないようにするためには、長時間労働に対する意識を変えることと、適正な工期を確保することが大事になります。

そこで、行政は、適正な工期を確保するために、著しく短い工期の禁止に対する指導に力を入れることが予想されます。

(3)よくある建設業法違反の事例

著しく短い工期の禁止に違反する事例がよくみられます。

建設工事の請負契約の締結にあたり適切な工期を設定する必要があります。また、工事現場の状況により、やむを得ず工期の変更が必要になった場合には、工期の変更内容を書面に記載し、変更契約書を相互に交付する必要があります。

元請けが理由もなく一方的に契約変更の協議に応じない場合には、建設業法違反になります。

著しく短い工期にあたるかどうかはケースバイケースですが、中央建設業審議会が作成した「工期に関する基準」が検討材料として参考になります。

休日や雨天など、工期に関する基準で示された事項が考慮されているかどうかを確認し、過去の同種類似工事の実績との比較や、工期の見積り内容の精査などを行い、著しく短い工期にあたるかどうかを、行政が個別に判断することになります。

他には、①価格転嫁の違反、②下請代金の支払手段の違反にも注意が必要です。

①価格転嫁の違反

注文者が自己の取引上の地位を不当に利用して、通常必要な原価に満たない金額を請負代金額とすることは、建設業法で禁止されています(第19条の3)。

通常必要と認められる原価とは、一般的に必要な①直接工事費(材料費や工事費等)、②共通仮設費(現場事務所の営繕費や安全対策費等)、③現場管理費(現場社員の給与等)、④一般管理費(会社の営繕部門や管理部門の人件費や経費等)、⑤利益の合計値とされています。

原材料費、人件費、エネルギーコスト費などが高騰し、必要な費用が増加しているにも関わらず、追加費用の負担について元請けが下請けからの協議に応じない場合には、不当に低い請負代金禁止のルールに違反する可能性があります。

②下請代金の支払手段の違反

建設業法上のルールでは、元請けは、請負代金の支払を受けたときは、当該支払の対象となった建設工事を施工した下請けに対する下請代金を、当該支払を受けた日から一月以内で、かつ、できる限り短い期間内に支払わなければなりません(第24条の3第1項)。

また、元請負けは、下請代金のうち労務費に相当する部分については、現金で支払うよう適切な配慮をしなければならないとされています(同条第2項)。

下請代金の支払いは現金で支払うのが望ましいです。約束手形は利用しないほうがよいですが、下請代金の支払いを手形でする場合には、手形のサイトを60日以内にするよう注意が必要です。

 

3. 建設業法違反で行政から通知がきた場合の対応

(1)建設業法に違反した場合の行政処分

建設業法に違反する行為があった場合、違反内容や程度に応じて、①指示、②一年以内の営業停止、③許可の取消しの行政処分を受ける可能性があります。

建設業法違反により営業停止や許可の取消し処分を受けると、事業運営に対する影響が大きいです。

建設業法違反に問われないように、契約書や見積書、注文書のリーガルチェックなど、事前の体制整備が重要になります。

(2)行政から通知が届いた場合の対応

国土交通省に「駆け込みホットライン」という建設業法違反通報窓口があり、下請業者や関係会社からの申告で、建設業法違反が発覚する場合があります。

建設業法に違反する疑いがある場合、国土交通省から建設業法に基づく立入検査の実施をする旨の通知が届くことがあります。

国土交通省の検査職員が事業所にきて立入検査をします。検査当日に関係資料を確認できるように、事前に資料を準備しておくよう指示があります。

行政の立入検査に対応する場合には、次の点に注意が必要です。

  1. 検査職員の質問に対して虚偽の説明をしないこと
  2. 検査職員が書類を持ち出そうとする場合には書類提出の理由を確認すること
  3. どんな書類を提出したか後でわかるように記録しておくこと
  4. 検査職員から質問された事項は、後の検証に備えて簡単な報告書にまとめておくこと

建設業法に基づく立入検査が終わると、違反行為の有無や程度にもよりますが、社内で必要な措置を講じて再発防止するよう勧告がなされたり、改善措置の内容を文書で報告するよう求められることがあります。

また、違反の程度によっては、営業停止処分が下されることもあります。立入検査や検査後の指示処分に従わない場合や、違反行為の内容や程度が重い場合には、営業停止処分や許可取り消し処分に発展する可能性があります。

建設業法違反の程度がそこまで重くない場合、行政からの勧告のみで終わるか、営業停止等の行政処分にまで進むか微妙なケースもありますので、行政から建設業法に基づく通知が届いた場合には、迅速にしっかりと対応するようにしましょう。

4. 建設業法令遵守ガイドラインを確認しましょう

建設業における元請負人と下請負人との関係性を考えるうえで、国土交通省が作成している「建設業法令遵守ガイドライン」が参考になります。令和5年6月に同ガイドラインの第9版が公開されています。

建設業法令遵守ガイドラインでは、元請負人と下請負人との間で、どのような行為があると建設業法に違反するのかが具体的にわかりやすく示されているので、建設業法に違反しないためのポイントがよくわかります。

下記の違反類型ごとに、それぞれの違反事例が具体的に記載されています。

  1. 見積条件の提示等(建設業法第20条第4項、第20条の2)
  2. 書面による契約締結
    • 2-1 当初契約(建設業法第18条、第19条第1項、第19条の3、第20条第1項)
    • 2-2 追加工事等に伴う追加・変更契約(建設業法第19条第2項、第19条の3)
  3. 工期
    • 3-1 著しく短い工期の禁止(建設業法第19条の5)
    • 3-2 工期変更に伴う変更契約(建設業法第19条第2項、第19条の3)
    • 3-3 工期変更に伴う増加費用(建設業法第19条第2項、第19条の3)
  4. 不当に低い請負代金(建設業法第19条の3)
  5. 原材料費等の高騰・納期遅延等の状況における適正な請負代金の設定及び適正な工期の確保(建設業法第19条第2項、第19条の3、第19条の5)
  6. 指値発注(建設業法第18条、第19条第1項、第19条の3、第20条第4項)
  7. 不当な使用資材等の購入強制(建設業法第19条の4)
  8. やり直し工事(建設業法第18条、第19条第2項、第19条の3)
  9. 赤伝処理(建設業法第18条、第19条、第19条の3、第20条第4項)
  10. 下請代金の支払
    • 10-1 下請け代金の支払保留・支払遅延(建設業法第24条の3、第24条の6)
    • 10-2 下請代金の支払手段(建設業法第24条の3第2項)
  11. 長期手形(建設業法第24条の6第3項)
  12. 不利益取扱いの禁止(建設業法第24条の5)
  13. 帳簿の備付け・保存及び営業に関する図書の保存(建設業法第40条の3)

上記の違反類型のうち、たとえば「3-1 著しく短い工期の禁止」の違反類型では、次の①~③の違反事例を挙げたうえで、どのような場合に著しく短い工期にあたるのかがわかりやすく解説されています。

建設業法上違反となるおそれがある行為事例

①元請負人が、発注者からの早期の引渡しの求めに応じるため、下請負人に対し、一方的に通常よりもかなり短い期間を示し、当該期間を工期とする下請契約を締結した場合

②下請負人が、工事内容を適切に施工するため通常必要と認められる期間を工期として提示したにも関わらず、それよりもかなり短い期間を工期とする下請契約を締結した場合

③工事全体の一時中止、前工程の遅れ、元請負人が工事数量の追加を指示したなど、下請負人の責めに帰さない理由により、当初の下請契約において定めた工期を変更する際、当該変更後の下請工事を施工するために、通常よりもかなり短い期間を工期とする下請契約を締結した場合

最新の建設業法令遵守ガイドラインが国土交通省のホームページで公表されています。ガイドラインの内容を確認して、自社の運用が建設業法に違反していないか確認しましょう。

 

5. 弁護士によるサポート

建設業法遵守のための社内運用の整備や、建設業法に違反して行政の立入検査を受けた場合の対応サポート、行政からの勧告に対する改善状況報告書の作成・チェックなどを、弁護士がご対応いたします。

建設業法に関するセミナーや勉強会を実施することも可能です。

法的サポートを通じて、建設業者のコンプライアンス体制強化を徹底支援いたします。

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文責:弁護士 今村公治

※上記記事は、本記事作成時点における法律・裁判例等に基づくものとなります。また、本記事の作成者の私見等を多分に含むものであり、内容の正確性を必ずしも保証するものではありませんので、ご了承ください。