労働者の仕事内容を変更したい!-「配置転換」の諸問題

1. はじめに

「本人の適正の問題から、労働者の仕事内容を変更したい」「会社の業務量の兼ね合いから、別の部署に移動させたい」-等々、会社を経営する上で、配置転換の問題は避けて通れません。

良くありがちな誤解として、「配置転換は会社が自由にできる」というものがあります。配置転換もやり方を間違えると、大きな労使紛争になり、予想外のダメージを会社が負うこともあります。

つい先日も、運送会社において、運行管理者として勤務していた労働者に倉庫内勤務を命じたところ、その配置転換が無効とされたという事案(名古屋高等裁判所の裁判例)が日本経済新聞に掲載されており、SNS等で大きな注目を集めていました。

今回は、配置転換の諸問題についてお話させていただきます。

2. 配置転換とは

配置転換(「配転」とも呼ばれます)とは、「従業員の配置の変更であって、職務内容または勤務場所が相当の長期間にわたって変更されるもの」と定義されます。

このうち、勤務場所の変更については「転勤」と呼ばれることが多いため、「同一の事業所(勤務地)内で、勤務部署や仕事内容が変更となること」を「配置転換」と呼ぶのが一般的です。

3. 配置転換のルール1-契約上の根拠

まず、会社が労働者に対し、配置転換を命じるためには、「契約上の根拠」がなければなりません。

例えば、雇用契約書や労働条件通知書において、「業務の必要性に応じ、勤務地・仕事内容を変更することがあり得る」という記載があれば、契約上の根拠となります。

また、就業規則において同様の規定があり、その就業規則が周知されていれば、これも契約上の根拠になります(その他、労働協約等もありますがここでは割愛します)。

他方、このような雇用契約書・労働条件通知書や、就業規則がない場合には、契約上の根拠がないとして、配置転換を命じることすらできなくなります。

勿論、口頭での合意も契約上の根拠になりますので、「採用面接時に配置転換の説明をした!」「本人も了承の上で入社した!」と主張することはできますが、これを証明するのは非常に困難です。

中小企業においては、雇用契約書・労働条件通知書を作成していない会社も多くありますが、予想外の不利益を被らないためにも、必ず作成しましょう。

また、就業規則の作成義務がない会社(10名未満の労働者しか雇用していない会社)であっても、会社の適切な労務管理の観点(こちらの記事もご参照ください)から、作成することをお勧めします。

4. 配置転換のルール2-職種・勤務地を限定する合意がある場合

職種・勤務地を限定した上で、労働者を採用することもあります。例えば、医師、看護師、ボイラー技士、調理師、アナウンサーなど、業務自体に相応の専門性がある場合には、職種を限定して採用されたと認定される可能性があります。

また、求人票・雇用契約書の記載内容や、採用面接時のやり取り等によっては、「●●県内」「●●市内」「●●営業所」というように、採用時において、勤務地を限定する合意があったと認定されることがあります。

このような職種・勤務地を限定する旨の合意がある場合には、かかる合意に反して、配置転換を行うことは、基本的には認められません。

ルール2と記載しましたが、厳密には、これはルール1の「契約上の根拠」のお話で、このような合意がある場合には、配置転換を命じる契約上の根拠が認められないこととなります。

会社としては、職種・勤務地を限定する合意があったと判断されないように、しっかりと雇用契約書・就業規則を作成し、配置転換の可能性を明記しておく必要があります。

5. 配置転換のルール3-権利濫用の問題

契約上の根拠があれば、自由に配置転換できるかというと、そうではありません。

配置転換は、契約上の根拠があることを前提に、①業務上の必要性があり、②目的・動機が不当なものでなく、③労働者に著しい不利益(通常受任すべき程度を著しく超える不利益)を負わせるものでないこと、という3つの要素をクリアする必要があります。

前提として、配置転換を行うか否か、行う場合、どのような職種・勤務地に変更するかという点は、労働者の適材配置の問題であり、基本的には会社の裁量が広く及びます。そのため、「配置転換が有効となるには厳しい要件を満たさないといけない」わけではありません。

しかし、会社に裁量があるとは言え、仕事内容・勤務地に変更を加えることは、労働者にとっても大きな影響が及びます。そのため、そもそも業務上の必要がなければ、配置転換を命じることはできません(要素①)し、労働者を退職に追い込むような嫌がらせ目的で配置転換を命じることも許されません(要素②・いわゆる「追い出し部屋」もこの問題です)。

また、業務上の必要があり、目的が正当なものであったとしても、本人や家族の病気、介護・育児等、家庭の事情から、極めて大きな不利益が労働者に生じる場合には、配置転換が無効となる可能性があります(要素③)。

この要素は、簡単に認められる(無効となる)ものではありませんが、特に転居を伴う配置転換(転勤)において、転勤をしてしまうと介護が極めて困難になってしまうような事案で、「通常受任すべき程度を著しく超える不利益」が労働者に生じたと認定した裁判例もあります。

育児介護休業法は、26条において、「事業主は、その雇用する労働者の配置の変更で就業の場所の変更を伴うものをしようとする場合において、その就業の場所の変更により就業しつつその子の養育又は家族の介護を行うことが困難となることとなる労働者がいるときは、当該労働者の子の養育又は家族の介護の状況に配慮しなければならない。」と定め、会社側に配慮義務を定めており、十分に労働者に配慮したかという点も問題になります。

更に、冒頭で述べた名古屋高裁の事案のように、職種を限定する合意がない場合であっても、その労働者の「キャリア」を踏まえ、「著しく超える不利益」が認定されるおそれがあります。

ただ、裁判例の原文に当たれていないので何とも言えませんが、配置転換の必要性や動機・目的、配置転換を命ずるに至るプロセスにも問題があった事案という印象を受けるため、慎重になり過ぎる必要はないと考えています(私見)。

6. おわりに

色々と記載しましたが、「配置転換を行う際もよく注意しましょう」ということに尽きます。

必要以上に注意する必要はありませんが、せめて、契約上の根拠があるか、なぜ配置転換を行うのか、労働者の受ける不利益はどの程度か、という3点を検討してから、配置転換を命じましょう。

なお、配置転換に伴って賃金を減少させるときや、配置転換を拒否した労働者を解雇する場面では、より慎重な対応が必要になります。場合によっては、解雇が無効とされ、会社側が多額の支払義務を負うこともあります。


当事務所では、配置転換に関する方針検討・アドバイスを含め、会社側の立場から、労働事件を多く扱っております。初回相談は無料となっておりますので、配置転換の問題でお困りの企業様は、下記のお問い合わせフォームより、ぜひ一度ご相談ください。

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文責:弁護士 村岡つばさ

※上記記事は、本記事作成時点における法律・裁判例等に基づくものとなります。また、本記事の作成者の私見等を多分に含むものであり、内容の正確性を必ずしも保証するものではありませんので、ご了承ください。