会社側の労務問題を多く扱う中で、色々な企業様の就業規則を目にします。
また、これまでは就業規則がなかったので、新たに作成して欲しい、というお話をいただくこともございます。
そのような中で、ふと「就業規則は誰のためにあるのか?」という疑問が出てきました。
というわけで今回は、特にホットな話題!というわけでもないのですが、「就業規則」についてお話をさせていただきます。
1.そもそも就業規則とは?
就業規則は、一言で表すと、「その会社の法律」です。
ご存知の方も多いと思いますが、常時10人以上の労働者を使用する使用者は、労働者の意見を聞いた上で就業規則を作成し、労働基準監督署に届出を行う必要があります(労基法89条、90条。違反時の罰金規定あり(120条1号)。
また、作成した就業規則は、適宜の方法により各労働者に周知する必要もあります(106条)。
一定数の従業員がいる会社では、全社的な統一のルールを定める必要性が大きいですし、一度決めた労働条件を一斉に変更しなければならない場面も出てきます。
仮に就業規則がなければ、労働者毎に個別に労働条件を変更する必要がありますが、これは現実的ではありません。
就業規則は、集団的な労使関係を(ある程度)統一して管理するために必要不可欠なツールといえます。
2.就業規則を作成しない理由?
上記1で記載したとおり、常時10人以上の労働者を使用する会社においては、就業規則の作成・届出は法的義務となっています。
しかし、実際には、10名以上の労働者を雇用しているにも関わらず、就業規則を作成していない企業は数多く存在します。
理由を聞いてみると、「そのようなルールを知らなかった」という企業様も一定数おりますが、一番多いのは、「これまで特に問題が発生しなかったので、作成しなかった」というものでした(あくまでも私が聞いた限りですが)。
3.就業規則がないとどのような不都合があるのか?
無断欠勤、遅刻、さぼり、職場内でのトラブル、繰り返される業務上のミス、業務命令違反、横領等々…従業員を雇用する以上、さまざまな「問題行動」が発生することがあり、経営者の頭を悩ませます。
問題行動に対しては、反省文を書かせる(けん責)、減給処分、出勤停止、懲戒解雇等々、何らかの処分を科す必要がありますが、就業規則が存在しない会社においては、こういった懲戒処分(制裁的な意味合いを持つ処分)を科すことはできないと解されています。就業規則はあるものの、懲戒についての定めがなかったり、従業員への周知がされていない場合も同様です。
ここで禁止されるのはあくまでも「懲戒処分」ですので、例えば労働者に口頭で注意するとか、任意に反省を促すとか、問題行動が酷い場合には退職を勧める(退職勧奨)、場合によっては普通解雇を行うとか、そういったことまでは禁止されていません。
しかし、企業秩序を保つ上で、労働者に制裁的な処分を科すことが必要な場面は多々あります。1人の問題行動を野放しにすることは、他の労働者の不満を生み、企業秩序、企業そのものの崩壊を招きかねません。
就業規則が存在しない(=懲戒処分ができない)ということは、そのようなリスクを抱えながら経営をするということと同義であると、まあここまで言い切れるかどうかはさておき、少なくとも「法的義務であるから作成する」という意味合いを超えて、企業経営にとって不可欠なものであると、個人的には考えています。
4.おわりに
最後までお読みいただきありがとうございました。
企業秩序を守り、企業の経営を維持・発展させることは、会社のためだけではなく、その会社に雇用される全ての従業員を守るためでもあります。
「就業規則は誰のためにあるのか?」という問いに対する答えは、「会社・労働者の双方のためにある」、という結論になるのではないでしょうか。
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