ストーリーでわかる仕事をしない社員、能力の低い社員の対応

目次

問題社員の対応を弁護士に相談

株式会社よつば総合リースは、従業員20名で、什器備品等の貸し出しサービスを営んでいる会社です。

社長は、役員から、仕事をしない社員がいると報告を受けて困っていました。

そこで社長は、顧問弁護士であるよつば総合法律事務所に相談することにしました。

社長
社長
ある従業員が仕事をしていないとの報告を複数受けています。私はどのように対応すればよいでしょうか。
仕事をしない、能力が低い社員に対しては、日常業務のなかで注意指導を行い、まずは改善を求めることになります。具体的には、業務日報を用いた注意指導を行う方法があります。

また、人事評価制度により、業務遂行能力に応じて賞与や昇給などの待遇を適正に定めることも大事です。

仕事ができないというだけで社員を簡単に解雇することはできません。指導を繰り返しても改善する見込みがない場合には、退職を促すという方法があります。

弁護士
弁護士
社長
社長
先生、分かりました!まずは業務日報を作成してもらい、注意指導を試みます!

1. 業務日報を使った指導

社長さんは、弁護士からのアドバイスを基に、仕事をしていないとの報告があった社員Aさんに業務日報を作成してもらうことにしました。

会議室にて(8月1日)

社長
社長
Aさん、最近の仕事の調子はどうでしょうか。以前お願いしていた新規顧客の開拓状況はどうなっていますか。
まだできていません・・・・・・
Aさん
Aさん
社長
社長
今日はどのようなスケジュールで仕事をされていましたか。
朝9時に出社して、えーと、取引先に送る見積書を作って・・・・・・他には何をしていたかな・・・・・・すいません、あまり覚えていないです。
Aさん
Aさん
社長
社長
そうですか。Aさんの業務状況を把握して、適切な内容と量の仕事を担当していただきたいと思っています。
そこでAさんの業務状況を把握するために、今日から業務日報を書いて提出してもらってもいいでしょうか。
業務日報ですか。唐突ですね。
面倒なので断ってもいいですか。
Aさん
Aさん
社長
社長
面倒なのは分かりますが、Aさんの現在の業務状況を把握することは、Aさんにとっても、会社にとっても大変重要です。協力していただけますか。
・・・・・・わかりました。
Aさん
Aさん
社長
社長
上長のXさんが、Aさんをサポートすることになりますので、困ったことがあったら、Xさんにアドバイスを求めてください。

社長はAさんに業務日報の雛型を渡しました。

業務日報

令和 年 月 日

従業員氏名

時間業務内容所要時間その他
~9時※早朝出勤については事前申請が必要です。
9時~
10時~
11時~
12時~
13時~
14時~
15時~
16時~
17時~
18時~※残業については事前申請が必要です。

完了した業務 未了の業務 業務に関するアドバイス、注意等を受けた内容 本日の業務に関して良かった点、反省点、具体的な改善方法など 指導者コメント


※毎日、終業時刻である午後6時までに代表取締役四葉一郎宛てに提出をしてください。
※内容が不十分な場合、再提出を求める場合があります。

Aさんは業務日報を作成して、終業時間前に社長に提出しました。

業務日報

令和6年8月1日

従業員氏名 A

時間業務内容、受けた指示所要時間その他
~9時※早朝出勤については事前申請が必要です。
9時~社長との面談
見積書の作成
10分
3時間
10時~同上同上
11時~同上同上
12時~休憩1時間
13時~プレゼン資料作成5時間
14時~同上同上
15時~同上同上
16時~同上同上
17時~同上同上
18時~※残業については事前申請が必要です。

完了した業務
見積書の作成

未了の業務
プレゼン資料作成

業務に関するアドバイス、注意等を受けた内容
特になし

本日の業務に関して良かった点、反省点、具体的な改善方法など
見積書の作成について、時間がかかってしまった。
資料を完成させることができなかった。

指導者コメント


※毎日、終業時刻である午後6時までに代表取締役四葉一郎宛てに提出をしてください。
※内容が不十分な場合、再提出を求める場合があります。

社長は、この業務日報の記載では、Aさんが具体的にどのような業務をしていたか、十分に把握できないと判断しました。

社長は次のコメントを付した上で、翌日、Aさんに業務日報の書き直しを命じることにしました。

指導者コメント

どのような見積書を作成したのか、なぜ3時間も時間がかかったのかを記載してください。

今回作成を依頼した見積書は、定型の書式を使うように指示しました。

この書式を使えば、30分あれば完成できるのではないでしょうか。

作成した見積書をこちらで確認するので、データを私宛にメールで送ってください。

乙社のプレゼン資料も同様に、どのような資料を作成したのか、なぜ4時間以上も時間がかかったのかを記載してください。

乙社のプレゼン資料は、過去の資料を少し変更すれば作成できると思います。作成した資料のデータを確認したいので、私宛にメールで送ってください。

業務内容及び所要時間について、同上と記載することは避けてください。

省略することなく、具体的な業務内容や、それにかかった時間を細かく記載してください。

昨日行った仕事は、私との面談を除いて、この2つだけなのでしょうか。他にした作業があれば、漏れなく記載してください。

上長のXさんから、長時間離席しないように注意・指導を行ったとの報告がありました。そのことを日報に記載し、改善点を記載してください。

これらを踏まえた上で、本日の終業時刻までに業務日報を再提出してください。

8月2日

Aさんは、見積書とプレゼン資料を合わせて、8月1日付の業務日報を再提出しました。

業務日報

令和6年8月1日

従業員氏名 A

時間業務内容、受けた指示所要時間その他
~9時※早朝出勤については事前申請が必要です。
9時~社長との面談
甲社への見積書の作成(納品部品の在庫確認)
10分
50分
10時~甲社への見積書の作成(納入部品の金額確認)1時間
11時~甲社へ見積書をFAX
甲社へFAX送信した旨の電話
30分
30分
12時~休憩1時間
13時~乙社プレゼン資料作成1時間
14時~乙社プレゼン資料のフォント、文字サイズの微修正(スライド1~5枚目)1時間
15時~コンビニにおやつを買いに行く
乙社プレゼン資料のフォント、文字サイズの微修正(スライド5~10枚目)
30分
30分
16時~乙社プレゼン資料のアニメーション追加(スライド1~5枚目)1時間
17時~乙社プレゼン資料のアニメーション追加(スライド5~6枚目)
業務日報作成
30分

30分

18時~※残業については事前申請が必要です。

完了した業務
甲社への見積書の作成

未了の業務
乙社プレゼン資料作成

業務に関するアドバイス、注意等を受けた内容
コンビニにおやつを買いに行くため、30分ほど離席をしたところ、長時間の離席をしないように注意・指導を受けました。

本日の業務に関して良かった点、反省点、具体的な改善方法など
見積書の作成について、時間がかかってしまいました。
その理由は、在庫の納品データを探すのに時間がかかったからです。メモを作って、次回から納品データをすぐに探せるようにします。
プレゼン資料を完成させることができませんでした。
その理由は、体裁やアニメーションの設定がしっくりこずに、試行錯誤を繰り返していたからです。これからは、細かい部分にこだわりすぎないようにします。
おやつは休憩時間のうちに買っておくようにします。

指導者コメント
省略


※毎日、終業時刻である午後6時までに代表取締役四葉一郎宛てに提出をしてください。
※内容が不十分な場合、再提出を求める場合があります。

これに対し、社長は次のコメントを付しました。

指導者コメント

業務日報の再提出ありがとうございました。一緒に提出いただいた見積書とプレゼン資料も確認しました。

まず、甲社への見積書の作成に2時間30分かかっていますが、過去の資料を少し修正すれば終わる業務だと思います。

分からないことを一人で悩むのはもったいないので、今後分からないことがあったら、上長のXさんや周りの人に聞いてアドバイスを求めるようにしてください。

今後のためにメモを作成したとのことですので、これからはスムーズに見積書の作成をしていただけることを期待しています。

次に、甲社への電話ですが、見積書をFAXしたことを伝えるために30分間通話をしたということでしょうか。

伝える用件に対して、通話時間が長い印象を受けます。次からは、手短に電話をすることを心がけてください。

プレゼン資料を確認しました。作成に4時間以上かかったとのことですが、過去の資料を一部変えただけで、他はほとんど変わっていないようです。

細かい部分までこだわりすぎなくて大丈夫です。プレゼン資料の主要部分を作り終えたら、一度上長であるXさんの判断を仰ぐようにしてください。

コンビニにおやつを買いにいくために、30分間職場を離れたということですが、業務時間中に許可なく職場を離れてはいけません。

無断で職場を離れられると、仕事を安心して任せることができなくなります。今後、同じことのないようにしてください。

新規顧客を開拓するための営業活動はどうなっていますか。積極的に電話や訪問での営業をかけるようにお願いをしています。

明日以降は、営業活動を積極的に行い、業務日報にその内容を記載するようにしてください。

困ったことがあったら、指導担当のXさんにいつでも相談をしてください。今後のAさんの活躍を期待しています。

弁護士からのアドバイス① ~業務日報を使った注意指導~

(1) なぜ業務日報を使った注意指導をするのか

注意指導で大切なことは、対象従業員に「自分は仕事ができていない」ときちんと認識をしてもらうことです。

一方的な注意指導で「自分は仕事ができていない」ことを自覚してもらえば良いのですが、「自分は仕事ができる」と思っている従業員には効果があまりありません。

そのような場合は、一方的な注意指導ではなく、従業員自身に「自分は仕事ができていない」ことを認識してもらうことが大切です。

そのために、日報を用いて、双方向での注意指導を行うとよいです。

(2) 日報のコメントについて

日報のコメントは、次のようなことを記載します。

  • 従業員のどのような行為が問題なのか
  • なぜその行為が問題なのか
  • 改善のためにどうすればよいのか

仕事をしない社員の日報を見て、怒りたくなったり、呆れたりする気持ちは分かりますが、感情的にならず理性的な対応をするのが大切です。

2. 中間面談

日報を用いた注意・指導は、2週間続けられました。このタイミングで社長は、Aさんと面談をすることにしました。

8月15日

社長
社長
2週間の業務日報の作成お疲れ様でした。業務日報によって、自分の業務の状況を把握でき、改善点等が分かるようになったのではないでしょうか。
Aさんは、どう思いますか。
・・・・・・私1人だけに業務日報書かせるなんて、パワハラではないですか?
Aさん
Aさん
社長
社長
Aさんに業務日報の作成をお願いした理由は、他の従業員からAさんが仕事を十分にしてないという指摘が複数回あったからです。
そのため、会社としては、Aさんの業務状況を正確に把握する必要がありました。
会社が従業員を注意・指導することは、必要性がある限り広く認められています。
ですので、Aさんに業務日報の作成を求めることはパワハラにあたりません。
・・・・・・私はいつまで業務日報を書けばよいのですか。
Aさん
Aさん
社長
社長
今具体的な期間を示すのは難しいですが、Aさんが会社の求める水準の仕事ができるようになるまで日報を作成してもらう予定です。2週間業務日報を書いてもらいましたが、Aさんは、業務効率が悪いように思えます。
会社は社員を育てていく義務がありますから、Aさんがしっかりと仕事ができるようになるまで、熱心に指導を続けます。困ったことがあれば、相談をしてください。
・・・・・・わかりました。
Aさん
Aさん

この面談があった8月15日、Aさんは業務日報を提出しませんでした。

翌日、社長はAさんを会議室に呼んで、事情を聴くことにしました。

8月16日

社長
社長
昨日の業務日報が提出されていません。どうかしましたか。
面倒なのでもう出しません。何か文句がありますか。
Aさん
Aさん
社長
社長
業務日報はAさんの業務状況を適切に把握して、Aさんに適切な指導をする上で必要なものです。業務日報の作成は単なるお願いではありません。
面倒なのは分かりますが、Aさんにとっても会社にとっても必要なものですので、必ず提出をしてください。
嫌です。もう出しませんから。失礼します。
Aさん
Aさん

Aさんは、8月16日も業務日報を出しませんでした。

社長は再度注意を行いましたが、「書かないものは書かない」、「業務日報を作成しない自由があるはずだ」と言って、Aさんは態度を変えませんでした。

弁護士からのアドバイス② ~日報作成はパワハラか~

パワハラとは、「職場において行われる①優越的な関係を背景とした言動であって、②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、③労働者の就業環境が害されるものであり、①~③までの要素を全てみたすもの」をいいます。

したがって、客観的にみて業務上の必要があり、相当な範囲内で行われる適正な業務指示や指導はパワハラにはあたりません。

Aさんの場合、能力が会社に求める基準に達していないことから、日報の提出を命じて指導をする必要があり、その指導方法も相当であると言えるため、パワハラにはあたらないと考えられます。

3. 書面での指導

会議室にて(8月17日)

社長
社長
私は、8月15日と8月16日の日報を出すように、口頭注意を2度行いました。それにもかかわらず、Aさんは日報を提出しようとしません。
繰り返しになりますが、業務日報は、Aさんの業務の状態を把握するために、Aさんにとっても会社にとっても必要なものです。
今回は、口頭ではなく書面で業務日報の作成を指示します。業務命令書を渡しますから内容を確認の上、本日午後6時までに署名・押印をした誓約書を提出してください。

令和6年8月17日

A殿

株式会社よつば総合リース
代表取締役 四葉一郎 印

業務命令書

貴殿は、8月15日及び8月16日分の業務日報を提出していませんので、直ちに業務日報を提出してください。

貴殿は、8月15日の面談時に「面倒なのでもう出しません。何か文句がありますか。」、「嫌です。もう出しませんから。」と発言をしていました。また、8月16日の面談時には、「書かないものは書かない」、「業務日報を作成しない自由があるはずだ」と発言していました。

貴殿に業務日報の作成及び提出を求めている理由は、①複数の従業員から貴殿が仕事を十分にしていないと指摘を受けたため、その事実を把握するとともに、②貴殿自身に業務状況を適切に認識してもらい、③状況に応じて、貴殿に指導を行う必要があるからです。

貴殿が業務命令を受け入れる場合は、誓約書に署名押印の上、令和6年8月17日午後6時までに代表取締役四葉一郎宛てに提出してください。

以上

この業務命令書を交付した後も、Aさんは業務日報を出すことはありませんでした。

また、8月18日午後6時を経過しましたが、Aさんは署名・押印をした誓約書を提出しませんでした。

社長は、業務日報を提出するように、再度業務命令書を交付しました。

それでも、Aさんは、業務日報を出しませんでした。

弁護士からのアドバイス③ ~口頭での業務指示に従わない場合~

口頭で業務指示をしても、従業員がその指示に従わない場合はどうすれば良いでしょうか。

複数回にわたる口頭での業務指示に従わない場合は、書面による業務命令、すなわち業務命令書を使うことが有用です。

業務命令書は、①「会社として正式に命令をしている」と従業員に認識させるとともに、②業務命令を行ったことが文書として証拠に残る点で有用です。

4. 懲戒処分

社長は、業務命令に従わないAさんの行為について懲戒処分を行うことにしました。

懲戒処分に先立って、社長は就業規則を確認して、Aさんの行為が懲戒事由に該当することを確認しました。

第67条(懲戒の種類)

会社は、労働者が次条のいずれかに該当する場合は、その情状に応じ、次の区分により懲戒を行う。
(1) 譴責 始末書を提出させて将来を戒める。

第68条(懲戒の事由)

労働者が次のいずれかに該当するときは、情状に応じ、譴責、減給又は出勤停止とする。
(4) 再三の注意にもかかわらず、業務上の指示・命令に違反し、または怠ったとき
(8) 職務上の指揮命令に従わず、職場秩序を乱したとき
(15) その他この規則および諸規定に違反し、または前各号に準ずる程度の行為を行ったとき

社長はAさんに、弁明の機会付与通知書と弁明書を交付しました。

令和6年8月18日

A殿

株式会社よつば総合リース
代表取締役 四葉一郎 印

弁明の機会付与通知書

当社は、貴殿の以下の行為について、本日付で懲戒処分手続に付する決定をしました。弁明の機会を付与しますので、以下のとおり弁明書を提出してください。

1 懲戒処分の根拠
当社就業規則第68条(懲戒の事由)
労働者が次のいずれかに該当するときは、情状に応じ、譴責、減給又は出勤停止とする。
(4) 再三の注意にもかかわらず、業務上の指示・命令に違反し、または怠ったとき
(8) 職務上の指揮命令に従わず、職場秩序を乱したとき
(15) その他この規則および諸規定に違反し、または前各号に準ずる程度の行為を行ったとき

2 懲戒処分の原因となる事実
業務日報の提出を繰り返し命じているにもかかわらず、8月15日、8月16日、8月17日の業務日報を提出しないこと。

3 弁明の方法
弁明書の提出による。

4 弁明書の提出先
代表取締役 四葉一郎

5 弁明書の提出期限
令和6年8月25日午後6時

以上

令和 年 月 日

株式会社よつば総合リース 御中

従業員氏名

弁明書

私は、令和6年8月18日付の懲戒処分手続に付する決定に対して、以下のとおり弁明します。

Aさんは、令和6年8月25日午後6時までに弁明書を提出しませんでした。

社長はAさんに譴責の懲戒処分を行うことにしました。

社長は、Aさんに懲戒処分通知書を交付しました。

令和6年8月27日

A殿

株式会社よつば総合リース
代表取締役 四葉一郎 印

懲戒処分通知書

貴殿を本日付で譴責処分とする。

1 譴責処分の理由
当社は、貴殿に業務日報の提出を繰り返し命じているにもかかわらず、8月15日、8月16日、8月17日の業務日報を提出しない。貴殿のかかる行為は、当社就業規則第68条1項6号「素行不良で社内の秩序及び風紀を乱したとき」に該当する。
よって、貴殿を譴責処分とする旨通知する。

2 始末書の提出
当社は貴殿に対して、就業規則第67条1項1号に基づき、始末書を令和6年9月3日午後6時までに代表取締役四葉一郎宛てに提出するように命じる。

以上

弁護士からのアドバイス④ ~懲戒処分の注意点~

懲戒処分は一種の制裁罰ですから、慎重に進める必要があります。

主に次の5つの事項に注意しましょう。

① 就業規則に懲戒事由が定められ、周知されているか

就業規則が存在しない場合、対象社員を懲戒処分することができません。

弁護士が、「就業規則を作りましょう」と説明する理由の1つが、これになります。従業員の行動に対して懲戒処分ができないのは大変恐ろしいことです。

また、就業規則は作って終わりではありません。従業員全員に就業規則を周知しなければ、労働契約との関係で効力が生じないため、就業規則は必ず周知しましょう。

② 就業規則に記載されている懲戒事由に当てはまるか

従業員の行動が、就業規則に記載されている懲戒事由に当てはまるか確認をしましょう。

もし従業員の行動が具体的な懲戒事由に該当しない場合、「その他この規則および諸規定に違反し、または前各号に準ずる程度の行為を行ったとき」という包括的な規定が使えないか検討することになります。

③ 弁明の機会を付与したか

弁明の機会の付与は、従業員に反論の機会を設けるという非常に大切な手続です。

重大な不利益が生じる懲戒処分の場合や、就業規則上必要とする旨の定めがある場合は、弁明の機会を付与することなく懲戒処分をすれば、それだけで懲戒処分が無効と判断されてしまう確率が高いです。

④ 就業規則上、要求されている手続がないか

就業規則によっては、懲戒処分については懲戒委員会で審議する等の記載がある場合があります。

この場合、就業規則に記載されている方法に則って懲戒手続を進めなければ、懲戒処分が無効と判断されてしまう確率が高いです。

⑤ 懲戒処分の対象となる行為と懲戒処分の内容のバランスが取れているか

従業員が行った行為と、懲戒処分の内容の均衡がとれているかも重要なポイントになります。また公平性の観点から、過去の他の従業員の同種事案と比較することも重要です。

たとえば、数回日報を提出しなかったことのみを理由に従業員を懲戒解雇した場合、その懲戒解雇は、処分が重すぎるものとしてほぼ間違いなく無効になるでしょう。

会社として重たい処分をしたい気持ちは良く分かりますが、冷静になることが大切です。

5. 始末書の不提出と自主退職

Aさんは、令和6年9月3日午後6時になっても、始末書を提出しませんでした。

また、Aさんは業務日報を8月15日から一度も提出をしていません。

社長は始末書の不提出を理由に懲戒処分を行うことを検討しましたが、弁護士から止めた方が良いとアドバイスを受けました。

社長の取りうる今後の流れは、次のとおりです。

  1. Aに退職勧奨をする。
  2. 退職を断られたら、業務日報の必要性・重要性を伝えて繰り返し提出を求めるとともに、それに従わない場合は、再度譴責等の懲戒処分をする。
  3. それでも改善が見られない場合は、重い懲戒処分(減給など)を検討する。再度の退職勧奨を検討する。

社長が退職勧奨の検討をしていたところ、Aさんが話しかけてきました。

今日で会社を辞めます。お世話になりました。
Aさん
Aさん
社長
社長
そうですか。残念ですがわかりました。Aさんの退職を承諾します。この場で退職届を書いてください。

令和6年9月3日

株式会社よつば総合リース
代表取締役 四葉一郎 様

従業員 A 印

退職届

このたび一身上の都合により、本日をもって退職いたします。

以上

社長は、Aから退職願を受け取った後、その場で承諾書を作成し、Aに受領の署名をもらいました。

令和6年9月3日

A殿

株式会社よつば総合リース
代表取締役 四葉一郎 印

退職承諾書

当社は、令和6年9月3日付貴殿の退職届記載のとおり、貴殿が令和6年9月3日付で退職することを承諾します。

以上

社長は、退職承諾書の写しを保管するために、Aさんに署名してもらった退職承諾書のコピーを取りました。

Aさんは、貸与物品、資料及び健康保険証を会社に返還するとともに、私物を会社から全て引き上げました。

社長は突然のことに大変驚きましたが、Aさんは退職することとなりました。

弁護士からのアドバイス⑤ ~始末書の不提出を理由に再度懲戒処分できるか~

譴責処分をした場合、就業規則に規定があれば始末書の提出を命じることができます。

従業員がその始末書の提出を拒んだ場合、それを理由に再度懲戒処分をすることはできるのでしょうか。

始末書は、事実のみならず、従業員の反省や謝罪も記載します。会社が従業員の意思に反して、従業員に対し謝罪や反省を強制させることはできません。

したがって、始末書の不提出を理由に懲戒処分をすると、無効のリスクが高いと理解されています。

よって、始末書の不摘出を理由に再度懲戒することは避けるべきです。

弁護士からのアドバイス⑥ ~従業員から退職の申し出を受けたら~

(1) 従業員との関係を終わりにする方法

従業員との雇用契約を終わりにするには、次の3つの方法があります。

  • ① 従業員を解雇する。
  • ② 会社と従業員が合意の上で退職してもらう。
  • ③ 従業員から退職の意思表示をしてもらう。

① 解雇は無効のリスクがあり、有効性を巡って争われる可能性があるので、可能な限り避けるべきです。今回の事案で解雇をした場合、解雇無効と判断される可能性が非常に高いです。

解雇ができないとなると、②合意退職か③退職の意思表示をしてもらうかの手段となります。

このどちらの場合であっても、従業員が会社を辞めると決断してくれない限り、従業員に会社を辞めてもらうことはできません。

従業員が「会社を辞めない」というのであれば、従業員は会社に残り続けることになります。

(2) 従業員から退職の申し出があった場合

従業員から退職の申し出があったら、その場で退職願・退職届を書いてもらうことが非常に大切です。

後から翻意されることを防ぐと共に、従業員が自らの意思で会社を辞めることを申し出た重要な証拠になるからです。

逆に、退職願・退職届がないと、従業員が「解雇された」と主張して紛争になった場合に会社が不利になります。

退職願・退職届は必ず作成してもらうようにしましょう。

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監修者:弁護士 米井舜一郎

※上記記事は、本記事作成時点における法律・裁判例等に基づくものとなります。また、本記事の作成者の私見等を多分に含むものであり、内容の正確性を必ずしも保証するものではありませんので、ご了承ください。