コロナ禍を理由に有休却下は違法と判断!注意すべき有休に関する法規制

目次

1. コロナ禍を理由に有休却下で33万円の賠償

コロナ禍を理由に、元従業員の有給休暇取得を認めなかったホテルの対応について、札幌高等裁判所は違法と判断し、令和6年9月13日、使用者側に33万円の賠償を命じる判決を出しました

今回は、有給休暇に関する法規制と使用者側の注意点などについて、弁護士が解説します。

2. 事案の概要

札幌所在の大手ホテル元従業員は、令和2年2月、ハワイで行われる娘の結婚式に出席するため、同年3月中1週間程度の年休取得を申請しました。

使用者側はコロナ禍などの状況から、ハワイへの渡航を止めるため取得予定の前日に「休暇取得を認めない」旨の回答をしたとのことです。

この回答に対し、元従業員は結婚式への出席ができなくなったことで精神的苦痛を受けたとして、使用者側に330万円の損害賠償を求め、札幌地方裁判所に提訴していました。

3. 第一審と控訴審の判断

(1) 第一審の札幌地方裁判所の判断

新型コロナウイルスの蔓延という事情を加味し、有給休暇の取得を認めなかった点(時季変更権の行使)に違法性はなかったと判断し、元従業員の請求を棄却しました。

(2) 控訴審の札幌高等裁判所の判断

使用者側の時季変更権の行使は、有給休暇の取得前日であったことから、「遅きに失し、違法性があると言わざるを得ない」として使用者側に33万円の賠償を命じ、請求を一部認容する判決を出しました。

地方裁判所と高等裁判所で逆の結論となりました。

4. 年次有給休暇に関する法規制

(1)年次有給休暇の概要

使用者は、その雇入れの日から起算して6か月間継続勤務し、全労働日の8割以上出勤した労働者に対して、以下の表のとおり有給休暇を与えなければなりません。

勤続期間6か月1年6か月2年6か月3年6か月4年6か月5年6か月6年6か月
年次有給休暇付与日数10日11日12日14日16日18日20日

(2)時季指定権と時季変更権

今回の事案で特に問題となったのは、年休の時季指定権時季変更権です。発生した年休について、労働者が休暇をいつからいつまで取得するのかを特定して時季を指定することによって、年次有給休暇が成立します。時季指定権といいます。年休は労働者の権利であり、年休を取るにあたって使用者の許可は不要で、自由に使うことができるため、どんな目的で年休を取るのかを、使用者に届け出る必要はありません。

もっとも、使用者にとっては常に自由に年休を取れるとすると、業務に支障が出る場合もあるでしょう。

そこで、そこで、労働者による年休の時季指定権に対する例外として、使用者の時季変更権があります。

使用者は、労働者が請求した時季に年休を与えることが「事業の正常な運営を妨げる場合」(労働基準法39条5項ただし書)には、他の時季に年休を与えることができます。 「事業の正常な運営を妨げる場合」に当たるためには、その労働者の年休指定日の労働がその者の担当業務を含む相当な単位の業務の運営にとって不可欠であり、かつ、代替要員を確保するのが困難であることが必要です。

使用者が代替要員確保の努力をしないまま直ちに時季変更権を行使することは許されません。

(3) 時季指定権と時季変更権の具体的な事例

ドライバーの業種の具体例で見ますと、慢性的な人手不足により常に代替人員の確保が困難であるような場合は、「事業の正常な運営を妨げる場合」に当たりません。(金沢地方裁判所平成8年4月18日判決)

一方で、通常よりも乗務できる者が少なくなる夏季期間に、必要な運転手を確保するため、労使で話し合って事前に夏季休業の希望を聴取し事前に年休日が確定した場合、その後労働者が変更を希望する場合には、各労働者間で調整することを使用者が委ねるような社内の慣行になっていた事例では、使用者側が、労働者間の調整に委ねず代わりの人員を確保することまでは要求されない趣旨の判断がされています。(東京高等裁判所令和3年1月13日判決)

5. 使用者が注意するべき点

違法な時季変更権の行使に注意

年休の時季指定に対し、要件を満たさない違法な時季変更権が行使され、年休取得を妨げている場合には、労働契約上の債務不履行や不法行為として使用者側の損害賠償義務発生の可能性があります。

年休に関する違法な会社の行為と判断された裁判例

年休に関して、会社の行為が違法と判断された次のような裁判例があります。

① 年休申請に対して、年休の取得が望ましくないとして取り下げさせた使用者側の行為について違法性を認め、その他の行為と併せて慰謝料60万円を認めた事例(大阪高等裁判所平成24年4月6日判決)

② 給与明細の年給残日数を勝手に0日に変更したり、年休を年6日に限定し、原則冠婚葬祭を理由とする場合にのみ認める社内通達を出したりしたことが労働契約上の債務不履行に当たるとしたうえで、年休の取得申請を妨害した行為自体で慰謝料が発生するとして、諸般の事情を考慮し50万円の慰謝料を認めた事例(東京地方裁判所平成27年2月18日判決)

6. 6箇月以下の懲役又は30万円以下の罰金の可能性も

時季変更権が違法な場合には、6箇月以下の懲役又は30万円以下の罰金に処せられる可能性があります。(労働基準法119条1項1号)

7. まとめ:年休取得をめぐる課題は弁護士に相談

年休取得を巡っての労使トラブルは少なくありません。

トラブル回避のためには、可能な限り労使間の話し合いを充実させることなど、相互理解や納得のいく方法を模索するなどの配慮が大切です。

もしも年休について時季変更権を行使する際には、丁寧に理由を説明して、十分なケアを行うことも検討するとよいでしょう。

また、年休取得は懲戒処分との関係などでも問題となりうるため、実際にどのような対応が適切かの判断は、法的な専門知識が必要なことも多いです。

労使関係について未然にトラブルを防ぐ意味でも、弁護士などの専門家に相談してみることがおすすめです。

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監修者:弁護士 川田啓介

※上記記事は、本記事作成時点における法律・裁判例等に基づくものとなります。また、本記事の作成者の私見等を多分に含むものであり、内容の正確性を必ずしも保証するものではありませんので、ご了承ください。