介護事業所と人事労務トラブルについて

働き方改革以降、経営者様やご担当者様からの人事労務のご相談が増えています。

また、年度をまたぐにあたって採用や退職、労働条件の変更などが生じる企業様も多いため、それに伴い発生したトラブルのご相談も増えています。

ひとくくりに会社の人事労務の問題といっても、業種により規制、働き方や待遇、人材の供給バランスなどが異なるため千差万別です。今後、よつば総合法律事務所のブログでは、業種ごとの人事労務トラブル対応を解説します。

今回は、最近ご依頼が増えている介護事業所様向けの人事労務トラブル対応です。

1.介護事業所と人事労務トラブル

世間一般からしても、介護業界は人手不足の業界のイメージがあるでしょう。お客様のお話でも人手不足の問題を一番深刻に感じます。

未払残業代請求が発生しやすい

人手不足の業界は人材の流動性が高く、人事労務トラブルが生じやすいです。

たとえば、未払残業代の請求は退職後が多いため、退職者が多ければ多いほどリスクも高くなります。

在職中に未払残業代を請求するのは心理的なハードルが高いです。しかし、退職後であればハードルも下がります

人間関係のトラブルが発生しやすい

厚生労働省の精神障害に関する労災の統計によれば、うつ病などの精神障害に関する労災の申請や認定が多い業界として、介護関連の職種が例年上位になっています。

令和3年では、請求件数336件、支給決定件数82件です。

請求件数は労災の申請がなされた件数です。支給決定件数は請求件数のうち労災と認められた件数です。「社会保険・社会福祉・介護事業」は職種として最多件数です。

精神障害の労災件数が多いのは、人手不足で業務量が多いことが一因です。

他にも、対人的な業務であり、職員間でのチームワークも必要なため、人間関係トラブルが生じやすいことが影響しているかもしれません。採用が難しいことも一因かもしれません。

2.人手不足の負のスパイラル

人手不足の問題が非常に厄介なのは、一度問題が生じると、どんどん人事労務トラブルの悪循環を引き起こす点です。

人材の流出が原因で社内の人手が不足すると、1人の仕事量が増えて忙しくなります。その分、働く人のストレスも増え、人間関係のトラブルも起きがちです。

採用も無理をしがちになり、会社と従業員のミスマッチの可能性も高まります。

このような状態が続くと、他のトラブルも雪だるま式に増えていくことは想像に難くないと思います…。

3.対策の必要性

①採用の困難②労務対策の不十分の2点が悪循環に陥る原因です。労務対策が不十分だと採用が困難になることもあります。

労務対策が不十分だと採用が困難になるとはどういうことでしょうか?

有給休暇がとれなかったり、残業代やハラスメントのトラブルが多かったりする会社は採用が困難になるということです。

昨今では、転職情報サイトに会社の評判が書かれています。

「有給休暇がとれない」「サービス残業が多い」「上司がパワハラである」というような評判もあります。本当の記載もあれば嘘の記載もあるでしょう。

ただ転職希望者には本当か嘘かわかりません、労働トラブルがありそうな職場ということだと、転職希望者は応募すらしないかもしれません。応募者が少ないと採用が困難になります。

これまでは「トラブルの防止」が人事労務対策の主な目的でした。現在では「よい人をたくさん採用」も人事労務対策の目的になっています。

特に、人手不足の負のスパイラルから脱する上でも人事労務対策が重要です。

どうしたらよいかわからないということであれば、社会保険労務士や弁護士などの専門家にまずは相談してみましょう。

お問い合わせはこちら

文責:弁護士 三井伸容

※上記記事は、本記事作成時点における法律・裁判例等に基づくものとなります。また、本記事の作成者の私見等を多分に含むものであり、内容の正確性を必ずしも保証するものではありませんので、ご了承ください。