弁護士は日常的にトラブルを扱う仕事です。最終的に裁判でどちらが勝って、どちらが負けるのかが世間で注目されることもあります。
ご相談でも「私は勝てますか?」とご質問をいただくことが多いです。ご依頼者様にとっても「勝ち負け」は重要なお話です。
しかし「勝ち負け(=法的な請求が通るか否か)」と「最適な解決」が、必ずしも直結しないときがあると感じます。必要以上に勝ち負けを重視し、他のリスクを生まないよう注意しましょう。
目の前の法的な主張が通るかは非常に重要です。
他方「会社の将来にとってどのような解決が一番良いのか」を多角的な視点で検証することも重要です。
たとえば「他の従業員との関係でリスクがないか」「将来のビジネスに悪影響がないか」という視点です。
トラブルになっている従業員と同様の雇用条件や勤務形態で働いている他の従業員がいることも多いため、他の従業員の給与体系やビジネス全体の検証が重要です。
1.労働トラブルで会社は勝ちづらい?
労働トラブルでは会社は厳しい立場に置かれることが多いです。
特に中小企業では厳しい立場になることが多いです。
見通しが厳しいとき、どこまで「勝ち」にこだわるかは要注意です。
会社が勝ちづらい原因
会社側の立場が厳しいのには原因があります。
そもそも法律のルールは従業員の保護を主な目的としています。
実際にも新しい法律や裁判所の判断が日々更新されていく中で、常に100点の対応を取ることは現実的に難しいです。
そのため会社は事前に十分な対策がとることが難しいです。
他方、従業員は請求前に弁護士への相談や証拠収集をしていることが多いです。従業員は事前に準備をしているのです。
解雇トラブルの例
それでは解雇トラブルでみていきましょう。
解雇を有効にするには日々の注意や指導の積み重ねが重要です。
会社による調査も必要です。しかし、十分に準備せずいきなり解雇してしまうことがあります。
他方、従業員は事前に弁護士に相談するなど準備をしていることが多いです。
上司との会話の録音記録を持っていることもあります。
事前に十分な準備を従業員がしていると、従業員が有利です。
もちろん、会社に有利な解決ができるケースもあります。
たとえば、従業員の主張が明らかに無理筋である場合、日頃の対策やトラブル発生時の対応を会社が適切に行っている場合です。
過去の事例では、従業員が社内で起こすトラブルや問題行動を、クレーム記録や業務日報などで記録している会社がありました。
適切な指導も行っていました。
結果として会社に有利に解雇トラブルが解決できました。
ぜひ日ごろからトラブルに備えた対策を検討しましょう。
2.目の前のトラブルに捉われすぎることの危険
完璧な対策ができている中小企業はほぼありません。
個別の従業員が会社の制度や運用を問題とすることから労働トラブルは発生します。
注意点は、現実にトラブルになっている従業員以外にも潜在的に紛争になりうる従業員がいることです。
たとえば未払残業代です。
1人の従業員に未払残業代が発生するとき、他の従業員にも未払い残業代が発生することが多いです。
会社の制度や運用を変更するなど根本の原因を解決しないと、同様の紛争リスクを会社がずっと抱え続けます。
また、トラブルになった従業員への会社の対応を他の従業員はよく見ています。
対立が激化して「会社VS多数の従業員」になると、監督官庁に通報をされたり、取引先なども巻き込んだ紛争になるケースもあります。
なお、会社が労働者の問題行動に耐えかねて損害賠償請求などのアクションを起こそうとすることもあります。しかし、逆に未払残業代請求を従業員から受けるリスクがありますので注意が必要です。
労働トラブルの解決では、目の前の従業員からの具体的な請求だけに捉われず「同じ従業員から他に請求されうるものはないのか」「是正すべき根本的な問題がないのか」「会社がとるアクションが他の従業員や事業全体に悪影響を及ぼさないか」といった視点が重要です。
以上、これまで労働トラブルを扱ってきた経験を踏まえて「労働トラブルの勝ち負け」を解説しました。
繰り返しになりますが、目の前の法的な請求が通るかどうかは非常に重要であるものの、それだけではなく「会社の将来にとってどのような解決が一番良いのか」を多角的な視点で検証することが重要です。
トラブルを抱えてしまった場合は、外部のサポートも受けつつ会社にとって一番良い解決を検討しましょう。
※上記記事は、本記事作成時点における法律・裁判例等に基づくものとなります。また、本記事の作成者の私見等を多分に含むものであり、内容の正確性を必ずしも保証するものではありませんので、ご了承ください。