キリンに課徴金納付命令。景品表示法の適用について解説します。

目次

  1. 事件の概要
  2. 景品表示法第5条第1号の内容
  3. 優良誤認表示が確認された場合の流れ
  4. 課徴金の納付
  5. まとめ

1. 事件の概要

消費者庁は、2023年1月18日、キリンビバレッジ株式会社に対し、同社が供給する「トロピカーナ 100% まるごと果実感 メロンテイスト」という果実ミックスジュースのパッケージが景品表示法に違反しているとして、課徴金1915万円を納付するよう命令しました。

この飲料、実際にはメロン果汁は2%しか使われていないにも関わらず、「厳選マスクメロン」「Tropicana@REAL FRUIT EXPERIENCE まるごと果実感」「100% MELON TASTE」など、そのメロン果汁が大部分を占めるように見えるパッケージが採用されていたのです。
このことが、景品表示法第5条第1号に違反するとされました。

2. 景品表示法第5条第1号の内容

景品表示法第5条第1号は、優良誤認表示を禁止しています。

「優良誤認表示」とは、「商品やサービスの品質、規格などの内容について、実際のものや事実に相違して競争事業者のものより著しく優良であると一般消費者に誤認される表示」です。つまり、本当は違うのに、他の商品よりもすごく良いもののように表示することです。

「著しく」とあるので、通常の商売で行われているような多少の誇張は優良誤認表示には当たりません。

トロピカーナについては、実際のメロン果汁含有量2%と表示で受ける印象の差が大きいために 優良誤認表示にあたるとされたと考えられます。

3. 優良誤認表示が確認された場合の流れ

(1) 調査

事業者が優良誤認表示を行ったと考えられる場合、消費者庁がその事実を調査します。調査の結果、優良誤認表示があると認められると、その事業者に対して弁明の機会を与えます。

(2) 弁明の機会の付与と措置命令

調査と事業者の弁明を経て、やはり優良誤認表示があると認められたという場合に、内閣総理大臣はその事業者に対し措置命令を行います。

措置命令とは、優良誤認表示によって消費者に与えた誤認の排除、再発防止策の実施、今後同様の違反行為を行わないことなどを命ずることです。

また、違反の事実が認められない場合であっても、違反のおそれのある行為があった場合には「指導」といった措置が取られます。

キリンビバレッジも、上記トロピカーナの件で、令和4年9月6日に措置命令を受けていました。

その概要は以下のとおりです。

  • 〇以下の事実を一般消費者に徹底周知すること(周知の方法についてはあらかじめ消費者庁長官の承認を得る。)
    • 令和2年6月9日から令和4年4月13日までの間、トロピカーナの容器に上記表示をして、あたかも原材料の大部分がメロン果汁であるかのような表示をしていたこと
    • 実際には原材料の98%はブドウなど他の果物の果汁であり、メロンの果汁は2%程度しか使われていないものであったこと
    • 上記表示が、実際のものよりも著しく優良であると示すものであり、景品表示法に違反するものであること
  • 〇今回措置命令の対象となる商品や同種の商品に関して、上記表示と同様の表示が行われないよう必要な措置を講じ、これを役員・従業員に徹底周知すること
  • 〇今回措置命令の対象となる商品や同種の商品に関して、今後、優良誤認表示をしないこと
  • 〇上記消費者への徹底周知や措置について、速やかに文書で消費者庁長官に報告すること。

おそらくはこの措置命令を受けて、キリンビバレッジは同社ウェブサイトにて、優良誤認表示があったこと等を公表しています。

(3) 課徴金納付命令に対する弁明の機会の付与

課徴金(下記3で説明します。)の納付が命じられることになりますが、その前にもう一度、事業者に対しては課徴金納付命令についての弁明の機会が与えられます。

4. 課徴金の納付

優良誤認表示は、有利誤認表示(価格を著しく安くみせかけるなど、取引条件を著しく有利にみせかける表示)とともに、課徴金の対象 行為となっています。

課徴金とは、内閣総理大臣が事業者に対して「優良誤認表示等で法に反して儲けたのだから、罰として行政にお金を払いなさい」と命じるときのそのお金のことです。

(1) 課徴金の金額

課徴金の金額は、原則として、対象商品の「売上げ」の3%とされます。ただし、以下の場合には課徴金納付命令を免れます。

  • 課徴金の金額が150万円以下(対象となる「売上げ」が5000万円以下)となる
  • 相当の注意を怠った者でないと認められる

(2) 課徴金計算に用いる「売上げ」

課徴金計算に用いる「売上げ」は、対象商品の「課徴金対象期間」の売上げとなります。

「課徴金対象期間」は以下のように決まります。

  • (ⅰ) 原則:課徴金対象行為をした期間
  • (ⅱ) 例外1(課徴金対象行為をやめた後、そのやめた日から6か月を経過する日までの間に、事業者がその課徴金対象行為の対象となる商品の取引をした場合):その課徴金対象行為をやめてから6か月経過する前に最後に当該取引をした日までの期間と(ⅰ)を足した期間
  • (ⅲ) 例外2(課徴金対象行為をやめた後、そのやめた日から6か月を経過する日より前に、事業者がその課徴金対象行為となる表示について一般消費者の誤認のおそれを解消する措置をとったとき):その措置より前に最後に当該取引をした日までの期間と(ⅰ)を足した期間
  • (ⅳ) (ⅰ)~(ⅲ)の期間が3年を超える場合は、その期間の末日から遡って3年間とする。

ややこしいですが、上記トロピカーナの場合、

「課徴金対象行為をした期間」が「令和2年6月9日から令和4年4月13日までの間」、
「課徴金対象期間」が「令和2年6月9日から令和4年9月28日までの間」

とされています。

一方、キリンが措置命令を受けてウェブサイトで公表を行ったのが令和4年9月28日 です。

そのため、(ⅲ)の「課徴金対象行為をやめた後、そのやめた日(令和4年4月13日)から6か月を経過する日(令和4年10月13日)より前に、事業者がその課徴金対象行為となる表示について一般消費者の誤認のおそれを解消する措置(上記公表)をとったとき」に当たった上で、「その措置より前に最後に当該取引をした日」が措置当日(令和4年9月28日)とされたと考えられます。

おそらくは、対象商品となるトロピカーナ自体の取引は続けられながら、令和4年4月13日以降はパッケージが景表法に違反しないものとなり、その半年後までにキリンが措置命令についての公表を行ったために、その日までが課徴金対象期間とされたという経緯だったと考えられます。

(3) 「相当の注意を怠った者でないと認められる」とは ?

「相当の注意を怠った者でないと認められる」場合には、課徴金の支払いを免れます。

これに当たるかどうかは、正常な商習慣に照らして必要とされる注意をしていたか否かによって、個別事案ごとに判断されます。

判断にあたって考慮される事情としては、①業態、②規模、③課徴金対象行為に係る商品の内容、④課徴金対象行為に係る表示内容、⑤課徴金対象行為の態様、等があります。

今回のトロピカーナの件では、キリンビバレッジが大企業であること等の事情から、「相当の注意を怠った者でない」とはいえないと判断されたものと考えられます。

5. まとめ

今回のトロピカーナの件では優良誤認表示が問題とされましたが、景品表示法は有利誤認表示やその他の不当表示も禁止しています。また、公正競争規約との関係も問題になる場合があります。

景品表示法やその他の消費者法で困ったこと、相談したいことがありましたら、ぜひ当事務所までご連絡ください。

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文責:弁護士 辻佐和子

※上記記事は、本記事作成時点における法律・裁判例等に基づくものとなります。また、本記事の作成者の私見等を多分に含むものであり、内容の正確性を必ずしも保証するものではありませんので、ご了承ください。