「ステルスマーケティング」が規制されます。

目次

  1. ステルスマーケティングとは?
  2. ステマが規制される理由
  3. 規制の方法
  4. 今後について

1. ステルスマーケティングとは?

「ステルスマーケティング」という言葉を最近よく耳にします。

「ステマ」と略されることもあるこの「ステルスマーケティング」とは、実際には広告なのに、純粋な個人の感想や口コミに見せかけている宣伝のことを指します。

これまで日本には、ステマであることを理由に表示を規制する法令はありませんでした。

今回、消費者庁の有識者検討会が、規制強化を求める提言を取りまとめ、2023年夏頃の施行を目指して運用基準の策定に取り組んでいます。

2. ステマが規制される理由

では、このステルスマーケティングは、なぜ問題視されているのでしょうか。

それは、消費者を不当に誘引する表示だからです。

個人が素直な感想として述べたことと、企業に対価をもらって宣伝していることでは、受け取る側がその内容を信用する度合や受ける印象が全く違います。広告だとわかっていれば、消費者は多少の疑いをもってその言葉を見ます。

ステルスマーケティングは、広告を個人の素直な感想に見せかけることでこの疑いの目を除去し、消費者を不当に誘引する手法なのです。

多くの人が種々のSNSを使う現代においては、一定範囲の人々に対して大きな影響力をもつ「インフルエンサー」という個人が多く登場しており、事業者がインフルエンサーを介してステマを行うことが容易な環境が整っていたため、ステマは近年問題となっていました。

3. 規制の方法

 消費者庁の有識者検討会は、令和4年12月27日、ステマを景品表示法の「不当表示」に追加し、景品表示法に違反してステマを行った場合には広告主を処分の対象とする方針を固めました。

(1) 景品表示法の不当表示

そもそも景品表示法に定められている「不当表示」は、以下の3つです。

  • ①優良誤認表示(商品の品質等、内容について、実際より著しく良いもののように表示すること)
  • ②有利誤認表示(取引条件について、実際より著しく有利なもののように表示すること)
  • ③その他、商品について誤認されるおそれがある表示で、消費者の自主的・合理的選択を阻害するおそれがあるとして内閣総理大臣が指定するもの

今回の有識者委員会では、ステマを③に加えることが提言されました。

この③は、告示によって指定されます。2023年12月28日現在、③に指定されたものとしては以下の6つがあります。

  • 商品の原産国に関する不当な表示
  • 無果汁の清涼飲料水等についての表示
  • 消費者信用の融資費用に関する不当な表示
  • おとり広告に関する表示
  • 動産のおとり広告に関する表示
  • 有料老人ホームに関する不当な表示

ここに、「ステマ」が加えられるということです。

(2) 不当表示をした事業主(広告主)はどうなる?

上記①~③に当たる不当表示をすると、その行為の差止めや、消費者に生じた誤認を排除するための措置を命じる措置命令がなされます。

そのため、法改正でステマが③に加えられると、以後、ステマの広告主は行為の差止めや誤認排除措置を命じられることになります。

さらに、この措置命令に違反すると、罰則として2年以下の懲役又は300万円以下の罰金が科せられます。また、情状によっては懲役と罰金の両方が科せられる可能性もあります。

加えて、法人の代表者又は法人・人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人又は人の業務又は財産に関して措置命令違反をした場合は、その違反した人を罰するのに加えて、その法人又は人に対しても3億円以下の罰金が科されます。

※参考:①②については課徴金の納付が命じられることもありますが、③については課徴金の納付を命じる規定はありません。そのため、ステマについて課徴金が科されることはありません。

(3) インフルエンサーはどうなる?

事業主(広告主)に依頼されてステマをしてしまったインフルエンサーはどうなるのでしょうか。

規制対象になっている表示は、「自己の供給する商品又は役務」について行うものとされています。
つまり、「自己の」商品を宣伝するわけではなく、広告を作成しただけのインフルエンサーであれば、広告代理店や出版社等と同様に表示規制の対象にはならないと考えられます。

ただし、消費者庁は、広告を企画立案したり提示したりする立場の人たちに対しても、不当な表示がされないように十分注意を払うことを求めています。

(4) 不当表示をしないために注意すべきこと

表示方法については、消費者が事業者の表示であることを判別できるものであれば、問題とはならないとされています。
「広告」と表示するのがいいのではないかという意見が有識者検討会では複数出たようです。
他にも、多くの人が広告と識別できる言葉である「PR」「宣伝」といった文言を表示することが考えられます。

そのため、インフルエンサーなどに商品の宣伝を依頼する際には、文章であれば文言中に「広告」と入れてもらうよう頼んだり、動画であればテロップで「広告」と表示してもらったりすれば、「不当表示」とされる可能性はほとんどなくなると思われます。

もちろん、気を付けて見ないとわからないほど小さな字で表示したり、一瞬だけ表示したりするなど、方法が不適切な場合は仮に「広告」と表示しても不当表示とされる可能性があります。

また、不当表示となる表現の媒体は制限されない見通しです。つまり、SNSなどネット上の表示に限られず、テレビやラジオ、新聞、雑誌による表示も規制の対象になります。

4. 今後について

今回の有識者検討会で定められた方向性に従って、今後法改正がなされる可能性が高いです。

また、運用基準を策定する必要があるともされているため、具体的な運用基準も公表されるものと思われます。

不当表示をしてしまわないよう、第三者に宣伝を依頼している事業者の方は早めに「広告」といった文言を入れるように運用を統一するなど対策をとっていきましょう。

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文責:弁護士 辻佐和子

※上記記事は、本記事作成時点における法律・裁判例等に基づくものとなります。また、本記事の作成者の私見等を多分に含むものであり、内容の正確性を必ずしも保証するものではありませんので、ご了承ください。