森永で異物混入騒動?飲食店も関係する食品にまつわる法律。

目次

  1. 森永乳業がチーズを自主回収
  2. 異物混入があった場合の行政との関係―食品衛生法
  3. 異物混入があった場合の消費者との関係―製造物責任法(PL法)
  4. まとめ

1. 森永乳業がチーズを自主回収

森永乳業は2023年1月31日、金属片が混入した可能性があるとして、チーズ「フィラデルフィアme6P クリームチーズ&ピスタチオ」を自主回収すると発表しました。

2023年1月31日時点では、健康被害は報告されていないということです。

製造・販売した食品に異物が混入していた場合、行政や消費者との関係ではどのような問題が生じるのでしょうか。

2. 異物混入があった場合の行政との関係―食品衛生法

食品衛生法は、食品の安全性の確保のために公衆衛生の見地から必要な規制その他の措置を講じている法律です。

過去の食品衛生法適用の事例としては、以下のものが挙げられます。

  • 味付ゆで卵の製造過程で、食品添加物として認められていない薬品「塩化ジデシルジメチルアンモニウム」を使っていた事例
  • 宅配の牛乳から大腸菌群が検出された事例

(1) どの規定に違反する?

食品衛生法6条4号は、「不潔、異物の混入又は添加その他の事由により、人の健康を損なうおそれがある」食品を「販売し」又は「販売の用に供するために、採取し、製造し、輸入し、加工し、使用し、調理し、貯蔵し、若しくは陳列」することを禁止しています。

食品製造業者や飲食店は、食品(料理)を扱う以上、当然ながら食品衛生法の適用を受けます。

万が一、今回のケースで、販売した商品の中に金属片等の異物が混入していたとしすると、「異物の混入」した食品を「販売」したことになるため、この規定に反することになります。

(2) 行政が取りうる対応

営業者(商売として食品を製造・販売する人又は法人等)が、異物の混入した食品を販売した場合、行政は以下の対応を取りえます。

① 廃棄や回収を命じる

厚生労働大臣又は都道府県知事は、営業者が異物の混入した食品を販売した場合においては、営業者若しくはその職員にその食品を廃棄させたり、回収させたりといった食品衛生上の危害を除去するために必要な処置をとることを命ずることができます。

② 営業許可の取消し等

都道府県知事は、営業者が異物の混入した食品を販売した場合は、その営業許可を取り消したり、営業の全部・一部を禁止したり、期間を定めて営業を停止することができます。

③ 名称の公表

厚生労働大臣、内閣総理大臣及び都道府県知事は、食品衛生上の危害の発生を防止するため、食品衛生法又はそれに基づいた処分に違反した者の名称等を公表し、食品衛生上の危害の状況を明らかにするよう努めるものとされています。

今回のケースでは、実際に異物が混入した食品が販売されていた事実は確認されていないので、当然ですが上記のような対応はなされていません。

また、上記①~③は行政が「できる」または「努める」といった対応なので、要件にあてはまったからといって必ずこのような対応がなされるとは限りません。

(3) リコール(自主回収)する場合は行政に届出が必要(令和3年6月1日より)

営業者が、「流通食品の食品衛生法違反又はそのおそれ」を探知した場合、消費者に危害が加わることを防ぐために、自主回収に踏み切るのが一般的です。

今回のケースで森永も自主回収を行っています。

上記のように食品衛生法違反又はそのおそれがある食品を自主回収する場合のルールとして、都道府県知事への届出が義務付けられました。

この制度の目的は、事業者による食品等のリコール情報を行政が確実に把握し、的確な監視指導や消費者への情報提供につなげ、食品による健康被害の発生を防止することにあります。

届出がなされると、その内容は厚生労働省への報告を経て国民に公表されます。公表されている情報は、厚生労働省の「公開回収事案検索 」というウェブページで検索することができます。

また、届出された自主回収情報については、健康被害発生の可能性を考慮して以下のとおりにクラス分けがなされます。

  • CLASSⅠ:喫食により重篤な健康被害又は死亡の原因となり得る可能性が高い場合(主に食品衛生法第6条に違反する食品等)
  • CLASSⅡ:喫食により重篤な健康被害又は死亡の原因となり得る可能性が低い場合
  • CLASSⅢ:喫食により健康被害の可能性がほとんどに場合

今回のケースは、金属片の混入の可能性があるということで、CLASSⅠに分類されています。

(4) 罰則

故意で異物の混入した食品を製造・販売した者は、3年以下の懲役又は300万円以下の罰金に処せられます 。

過失犯を処罰する規定はないため、過失によって異物を混入させてしまった場合には、食品衛生法の刑事罰の適用はありません(これとは別に、刑法の業務上過失致傷罪等の罪に問われる可能性はあります。)。

3. 異物混入があった場合の消費者との関係―製造物責任法(PL法)

幸い、今回のケースでは確認されていませんが、万が一、消費者が異物の混入した食品を食べたことによって健康被害を生じた場合には、食品の製造者は製造物責任法(PL法)により「製造物責任」を負うことになります。

製造物責任とは、「製造物の欠陥により人の生命、身体又は財産に係る被害が生じた場合における製造業者等の損害賠償の責任」 です。

平たく言うと、モノを作った人は、そのモノのせいで被害が生じた場合は損害賠償をしなければならないという責任のことです。

製造物責任法が適用された例としては、以下のものが挙げられます。

  • ファストフード店のオレンジジュースに異物が混入し、店内でこれを飲んだ人が喉に受傷した事例
  • 輸入瓶詰めオリーブからボツリヌス菌が検出され、レストランの客等に食中毒が発生した事例

「製造物の欠陥により人の生命、身体又は財産に係る被害が生じた場合における製造業者等の損害賠償の責任」の内容を以下で簡単に見ていきましょう。

(1) 製造物

「製造物」とは、「製造又は加工された動産」です。これには食品も含まれます。

(2) 欠陥

「欠陥」とは、「通常有すべき安全性を欠いていること」です。

欠陥があるかどうかの判断に当たっては、製造物の特性、通常考えられる使用形態、製造物を引き渡した時期、その他の事情が考慮されます。

今回の森永のケースでは、対象となる製造物が食品であり、消費者の体内に入ることが当然想定されているものなので、これに異物が混入していた場合は明らかに「通常有すべき安全性を欠いている」といえ、「欠陥」にあたるでしょう。

(3) 製造業者

食品を作った人・会社は当然「製造業者」にあたります。料理も製造物に含まれる以上、飲食店も製造物責任法の「製造業者」に含まれます。

(4) 無過失責任

製造物責任の特徴は、無過失責任であることです。

つまり、製造物の欠陥によって他人に損害を与えると、「ちゃんと注意は払っていた」と認められた場合でも損害賠償責任を負うことになります。

ただし、以下のいずれかを証明した場合には損害賠償の責任を負いません。

  • 製造物をその製造業者等が引き渡した時における科学又は技術に関する知見によっては、当該製造物にその欠陥があることを認識することができなかったこと。
  • 製造物が他の製造物の部品又は原材料として使用された場合において、その欠陥が専ら当該他の製造物の製造業者が行った設計に関する指示に従ったことにより生じ、かつ、その欠陥が生じたことにつき過失がないこと。

こと食品の異物混入に関しては上記を立証するのは難しいといえるでしょう。

4. まとめ

食の安全に対する消費者の意識は年々高まっています。そのため、食品を取り扱う業者の方としては、日頃から衛生管理等に注意を払うのはもちろんのこと、万が一の場合にどのような対応をすべきなのか(事実確認、謝罪、再発防止の取り組み等)、事前に確認しておくことも大事になってくるでしょう。

食品の安全に関してお困りの事業者様がいらっしゃいましたら、弊所までご相談ください。

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文責:弁護士 辻佐和子

※上記記事は、本記事作成時点における法律・裁判例等に基づくものとなります。また、本記事の作成者の私見等を多分に含むものであり、内容の正確性を必ずしも保証するものではありませんので、ご了承ください。