動物病院における診療費の未払い対策

1. はじめに

動物病院で治療を行い、診療報酬の支払いを求めた際に、「手持ちが足りないので後日払います」などと言って、その場で回収できないことがあります。

後日、飼い主さんに請求するも結局手持ちがないので待ってほしいと再度言われて回収出来ないことがあります。

このような場合に、動物病院は飼い主さんから回収する方法がないのか、本日は回収のポイントをご紹介させていただきます。

2. ポイント① 診療報酬を請求できる期間に注意

動物病院が、飼い主から依頼を受けて治療を行い、その治療行為に基づいて報酬を請求できる期間には、民法上の期間制限があります。

民法には、動物病院の診療報酬債権の消滅時効について明文上の規定はありませんが、動物病院の診療報酬債権についても、医師等の診療報酬債権と同様に3年間権利を行使しないときには消滅時効が完成すると考えられていましたが、動物病院の診療報酬債権の消滅時効についても、2020年4月1日より施行された改正民法によって、短期消滅時効の適用はなくなり、原則5年の時効期間が適用されると考えられます。

詳細は、下記ブログにてご紹介させていただいておりますので、是非ともご参照ください。

改正民法に基づくと、基本的には、2020年3月診療分までの診療報酬は3年以内に、2020年4月診療分以降は5年以内に診療報酬を回収する必要があります。

3. ポイント② 支払督促を活用する

債権を回収したいと考えている場合は、内容証明郵便等を発送し、飼い主さんに対して裁判等の手続きを利用せずに任意に支払うように求めていくことが多いですが、残念ながら内容証明郵便を送っても無視されることが多いです。

そこで、飼い主さんから報酬を回収する方法として、支払督促を利用することが考えられます。

支払督促とは、貸したり立て替えたりしたお金や家賃、賃金などを相手方が支払わない場合に、申立人側の申立てのみに基づいて、簡易裁判所の書記官が相手方に支払いを命じる略式の手続をいいます(民事訴訟法382条)。

この手続きは書類審査のみで行われることから、利用者が訴訟などのように裁判所に出向いたり、証拠を提出したりする必要がありません。また、裁判所に納める手数料も、訴訟の半分になります。さらに、申立人の申立てのみに基づいて、簡易裁判所の書記官が金銭の支払いを命じますので、民事裁判とは異なり簡略化された方法で債権回収を行うことが可能となります。

申立人から支払督促の申し立てがあった場合、裁判所は、債務者(本件でいうと飼い主)に対して金銭の支払いを命じる督促状を送達します。その後、2週間以内に、債務者(飼い主)が異議の申立てを行わなければ、裁判所は、債権者の申立てにより、支払い督促に仮執行宣言を付さなければならず、債権者はこれに基づいて、強制執行の申立てを出来るようになります。

このように支払督促は、裁判と比較して簡易迅速に処理をすることが可能になると言えます。他方で、支払督促の手続にもデメリットがあります。支払督促に対して相手方が異議を申出ると、支払督促の効力は失われ、通常の民事裁判に移行してしまいます。

相手方が異議の申立てを行い争ってくることが予想されるようなケースであれば、結局通常裁判となってしまうことから、あまりお勧めは出来ません。

4. ポイント③ 少額訴訟を活用する

少額訴訟とは、60万円以下の金銭の支払を求める場合に限って利用できる、簡易裁判所における訴訟手続をいいます(民事訴訟法第368条第1項)。

この制度は、簡易迅速に紛争を処理することを目的として設けられた制度であり、通常の訴訟手続とは異なる特徴があります。

  • ア 裁判所は原則1回の期日で審理を終えて即日判決します
  • イ 被告は、最初の期日で自分の言い分を主張するまでの間、少額訴訟手続ではなく、通常の訴訟手続で審理するように裁判所に求めることができる。
  • ウ 少額訴訟手続によって裁判所がした判決に対して不服がある場合は、判決又は判決の調書の送達を受けてから2週間以内に、裁判所に対して「異議」を申し立てることができます(同法第378条第1項)。
    この「異議」があったときは、裁判所は、通常の訴訟手続によって、引き続き原告の請求について審理を行い、判決をしますが(同法第379条第1項)、この判決に対しては控訴(この場合は地方裁判所に対する不服申立て)をすることができません(同法第377条)。

5. ポイント④ 回収可能性を検討する

裁判所を利用する手段の利点として、強制執行によって回収が可能になるという点があります。

もっとも、相手方が資産を全く有していないような場合は、強制執行を行って相手の預貯金などを差し押さえたとしても、結局回収できない可能性があります。

そのため、裁判所を利用する手続きを選択する前に、回収可能性をしっかりと検討して、費用対効果についてよく考える必要があります。

6. 最後に

診療報酬の未払いについては、動物病院様からよくご相談をいただくことが多いです。

しかし、弁護士を入れて回収する場合は、弁護士費用が必要となってしまいます。

そこで、債権回収のフローを自社で準備して運用する方法をお勧めいたします。ご興味がございましたら、一度当事務所までご相談いただければと思います。

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文責:弁護士 松本達也

※上記記事は、本記事作成時点における法律・裁判例等に基づくものとなります。また、本記事の作成者の私見等を多分に含むものであり、内容の正確性を必ずしも保証するものではありませんので、ご了承ください。