この企業法務ブログでは、これまでも、有給取得の義務化、派遣法改正、残業時間の上限規制等、働き方改革関連法案についての記事を書かせていただきました。今回は、働き方改革の中でも重要な部分である、「同一労働同一賃金」のお話をさせていただきます。
1.同一労働同一賃金とは?
非常にざっくりと説明させていただきますと、「同じ仕事・責任の人には同じ給料を、違いがある場合には違いに応じた給料を支給しましょう」というルールです。
正社員-派遣・契約社員・パートの条件格差の問題などは、このルールによる規制の対象となります。ただし、このルールは、あくまでも「正社員-派遣・契約社員・パート」の間の格差を規律するものであり、正社員同士の待遇差は、本ルールの対象外となります。
これまでも、このような法的規制(労働契約法20条等)は設けられていましたが、今回の法改正により、規制の及ぶ範囲が拡大し、また判断要素等が明確になりました。また、労働者から求めがあった場合には、企業は、「なぜそのような待遇差が設けられているのか?」という説明をしなければならないこととなりました。
どのような基準により判断されるのか???細かい改正のポイントは???といった部分は、いくら紙面があっても足りないので、ここでは割愛させていただきます。
2.会社のなすべき対応は?
- ①待遇差の把握
まず会社としては、「正社員-派遣・契約社員・パート」のそれぞれにつき、労働条件に差がある場合には、「なぜそのような差を設けているのか?」という理由を考える必要があります(上述した説明義務との関係です)。これは、基本給だけでなく、各種手当についても同様です。 - ②仕事内容・責任等の違いの把握
上記①とも関連しますが、待遇差が生じている従業員間に、具体的な仕事内容・責任等の違いがあるかを考えます。「責任等」については、純粋な職務上の責任だけではなく、例えば転勤・配置転換の可能性の有無等についても考慮する必要があります。
もし、仕事内容・責任等が全く同じ場合には、そもそも差を設けること自体が、法律に反することとなります。 - ③差を設けることが許されるかの検討
仕事内容・責任等に違いがある場合には、待遇差が、その違いに応じたものとして許される範囲内か、ということを検討する必要があります。この点については、「厚生労働省が同一労働同一賃金ガイドライン」なるものを作成しており、参考になります。 - ④是正方法の検討
①~③のステップを踏み、差を是正する必要がある場合には、どのように是正するかを検討することとなります。㋐正社員以外の待遇を改善するベクトル、㋑正社員の待遇を引き下げるベクトル、㋒賃金制度全体の見直しを図るベクトルの3つが考えられます。
㋐が最も望ましいのは言うまでもありませんが、会社の財源の問題もあり、㋑㋒を選択せざるを得ない企業が多いのも実情です。
ただし、㋑㋒は正社員の(一部)条件の引き下げを意味します。これは、別の大きな問題(就業規則の不利益変更)を孕んでおり、どのベクトルを選択すべきかは非常に慎重に検討する必要があります。
また、「差」に着目するのではなく、仕事内容・責任等に着目し、こちらを明確に分けてしまうという方法もあります(職務分離などと呼ばれます)。ただし、この方法を取っても、そもそも差を設けることが許されない手当(通勤手当等)や、違いに応じた差異と評価できない場合(差を設けすぎな場合)には、なお許されないことになります。
3.ルールはいつから始まるのか?
同一労働同一賃金につき、改正法が施行されるのは、大企業が2020年の4月から、中小企業は2021年の4月からとなります。
ただし、現行の法律でも、同一労働同一賃金に関する規律(労働契約法20条等)は存在しており、現に格差が違法とされた裁判例も多数存在しているので、施行日前であっても、対応が必要となります。
4.おわりに
同一労働同一賃金の問題は、まさに会社の制度設計の問題であり、変更・是正には慎重な検討が必要となります。また、説明義務の関係からも、問題が発生してから検討するのではなく、事前の検討が重要になってきます。
お困りの際は、弁護士・社会保険労務士といった専門家に相談することをお勧めします。
※上記記事は、本記事作成時点における法律・裁判例等に基づくものとなります。また、本記事の作成者の私見等を多分に含むものであり、内容の正確性を必ずしも保証するものではありませんので、ご了承ください。