目次
1. はじめに:社会保険の適用範囲の拡大
社会保険の適用範囲が、令和6年10月から一部拡大されます。
今回は、使用者にとってどのような影響があるのかを中心に、法改正のポイントを弁護士が解説します。
2. 令和6年10月改正の趣旨
今回の年金制度改正法の改正は、主にアルバイト・パートなどの短時間労働者の保護を手厚くしようという社会背景からなされています。
厚生労働省は、以下の考え方を公表しています。
① 被用者にふさわしい保障の実現
- 被用者でありながら国民年金・国民健康保険加入となっている者に対して、被用者による支え合いの仕組みである厚生年金による保障や健康保険による保障が確保される。
- 保険料についても、被用者保険では労使折半の負担となる。
② 働き方や雇用の選択を歪めない制度の構築
- 労働者の働き方や企業による雇い方の選択において、社会保険制度における取り扱いによって選択を歪められたり、不公平が生じたりすることがないようにする。
- 適用拡大などを通じて働き方に中立的な制度が実現すれば、働きたい人の能力発揮の機会や企業運営に必要な労働力が確保されやすくなることが期待できる。
③ 社会保障の機能強化
- 適用拡大によって厚生年金の適用対象となった者は、定額の基礎年金に加え、報酬比例給付による保障を受けられるようになる。
- 適用拡大はどのような働き方であっても共通に保障される給付である基礎年金の水準の確保につながり、これによる年金制度における所得再配分機能の維持にも資する。
3. そもそも社会保険とは?
社会保険とは、健康保険や厚生年金保険、介護保険などの公的保険の総称です。
前提として、社会保険は一定の要件を満たす場合には本人の希望や意思にかかわらず、被保険者となる必要があり、使用者には対象となる労働者を社会保険に加入させる義務があります。
健康保険や厚生年金保険であれば、フルタイム労働者については原則加入させる義務があります。
アルバイト・パートなどの労働者については、一定の要件を満たす場合には加入させる義務があります。
4. 今回の法改正の内容
令和6年10月から施行される改正法では、主にアルバイト・パートなどの労働者に関する社会保険加入の適用対象となる要件が変わりました。
具体的には、従業員数(厚生年金保険の被保険者数)が「51~100人」の企業等で働くアルバイト・パートの労働者が、新たに社会保険の適用対象となりました。
なお、従業員数が「50人以下」の企業等であっても、労使が合意することで51人以上の企業等と同等の加入用件にすることも可能です。
従業員数の数え方については、「フルタイムで働く従業員数と、1週間の所定労働時間及び1月の所定労働日数がフルタイムの4分の3以上の従業員数を合計したもの」を基準に考えます。
もちろん、従業員数としては上記の要件を満たす正社員や有期職員等だけではなく、アルバイト・パートも含まれます。
そして、原則として従業員数の基準を常時上回る場合に、適用対象となります。
5. 適用の対象者
従業員数51人以上の企業で働いていたとしても、すべての労働者が社会保険加入の対象となるわけではありません。
要件を満たしていない場合には、社会保険の適用外となります。
具体的には、令和6年10月以降、従業員数51人以上の企業で働く従業員のうち、以下の4条件すべてに該当する人のみが対象です。
- 週の所定労働時間が20時間以上
- 月額賃金が8.8万円以上(基本給、諸手当含むが残業代等は含まない)
- 継続して2か月以上の雇用見込みがある
- 学生でない(休学中や夜間学生は除く)
6. 使用者側の注意点
まずは、ご自身の会社が今回の改正によって、社会保険加入状況に影響があるかを確認することが重要です。
前提として、健康保険と厚生年金保険は、事業者が法人である場合には社会保険の適用事業所となります。
個人事業主であっても、以下に列挙されている事業の事業所または事務所であって、常時5人以上の従業員を使用する場合には、適用事業所となります。
- 製造業
- 土木建築業
- 鉱業
- 電気ガス事業
- 運送業
- 清掃業
- 物品販売業
- 金融保険業
- 保管賃貸業
- 媒介あっ旋業
- 集金案内広告業
- 教育研究調査業
- 医療保険業
- 通信報道業
- 士業等
事業者は、適用事業所で使用する従業員が社会保険の適用対象者に該当する場合、雇用している従業員については、社会保険に加入させる必要があります。
事業者が社会保険の適用対象者であるにもかかわらず、正当な理由なく社会保険の保険者に届出を行っていない場合には、刑事罰の対象となったり、遡って未納金の徴収を受ける可能性があるほか、追徴金が発生する恐れもあります。
7. まとめ:新たに社会保険への加入が必要な労働者の有無を確認
今回は、社会保険の適用範囲拡大について概要を解説しました。
使用者としては、今回の法改正で新たに社会保険に加入させるべき労働者がいないかを確認することが重要です。
労使トラブルを避けるほか、健全な会社経営にとっても、関係法令や諸制度等の動向をチェックすることをおすすめします。
※上記記事は、本記事作成時点における法律・裁判例等に基づくものとなります。また、本記事の作成者の私見等を多分に含むものであり、内容の正確性を必ずしも保証するものではありませんので、ご了承ください。