【令和5年6月施行】消費者契約法改正のポイント

目次


1. はじめに

よつば総合法律事務所の弁護士の大友です。

2023年6月1日から改正消費者契約法が施行されています。今回の企業法務ブログでは、改正された消費者契約法のポイントについてご説明します。

2. 消費者契約法とは

消費者が事業者と契約をするとき、両者の間には持っている情報の量・質や交渉力に格差があります。このような状況を踏まえて、消費者の利益を守るために定められた法律が消費者契約法です。

消費者契約法は、消費者と事業者との契約について、不当な勧誘による契約の取消しと不当な契約条項の無効等を規定しています。

今回の消費者契約法の改正の背景には、①超高齢化社会の進展により高齢者である消費者の保護の必要性が高くなっていること、②若年者である消費者が巻き込まれる消費者被害が多様化しており、若年成人である消費者の保護の必要性が高くなっていること、③情報通信技術の進展とコロナ渦でオンライン取引が拡大したことで、消費者や消費者契約を取り巻く環境が急激に変化しており、環境の変化に対応した法の規律の在り方を改めて考える必要性があること、などが挙げられています。

今回の消費者契約法の主な改正事項は以下の4つです。

  1. 契約の取消しができる場合の追加
  2. 解約料の説明をする努力義務の追加
  3. 免責の範囲が不明瞭な条項の無効
  4. 事業者の努力義務の拡充

いずれも、消費者の権利をより守る方向の改正になります。それでは、改正事項の内容について、一つずつ確認していきましょう。

3. 改正のポイント

(1) 契約の取消しができる場合の追加

消費者契約法では、不当な勧誘により締結させられた契約を、後から取り消すことができると定めています。今回の改正前までは、以下のような場合等には、契約を後から取り消すことができると定められていました。

うそを言われた(不実告知)

例)真実に反して「瓦がとても痛んでいて、このままにしておくと危険だ、新しい屋根にすることが不可欠」と告げ、屋根のリフォームを勧誘。

不利になることを言われなかった(不利益事実の不告知)

例)眺望を阻害するマンションが隣に建設されることを知りながら、そのことを説明されずに「眺望良好」と説明してマンションを販売。

必ず値上がりすると言われた(断定的判断の提供)

例)将来値上がりすることが確実でない金融商品を「必ず値上がりする」と説明して販売。

契約前なのに強引に代金を請求される(契約締結前に債務の内容を実施)

例)注文する前に物干し台の寸法どおりにさお竹を切られ、代金を請求された。

通常の量を著しく超える物の購入を勧誘された(過量契約)

例)着物をあまり着ることのない高齢の消費者に対して、それを知りながら、勧誘して着物を何十着も販売。

お願いしても帰ってくれない(不退去)

例)自宅の玄関先で、消費者が何度も帰ってほしいとお願いしているのに勧誘を続けて販売。

帰りたいのに帰してくれない(退去妨害)

例)店舗において、消費者が何度も帰してほしいとお願いしているのに勧誘を続けて販売。

今回の改正では、上記に加えて、以下の3つの場合にも後から契約を取り消すことができるようになりました。

① 退去困難な場所へ同行

例)旅行に連れて行ってあげると告げて消費者を山奥の別荘に連れて行って商品を販売。

②威迫する言動を交えて相談の連絡を妨害

例)布団を買うか親に相談したいと消費者が言ったのに、それを許さず相談を妨害して勧誘。

③契約前に目的物の現状を変更

例)貴金属の買取の際に、指輪に付いていた宝石を鑑定のために取り外し、元に戻すことを著しく困難にして勧誘。

(2) 解約料の説明をする努力義務の追加

今回の改正前までは、契約の解除に伴う解除料の説明に関する規定はありませんでした。

今回の改正により、事業者は、解約料を請求する際に消費者から求められたら、解約料の算定根拠の概要を説明するよう努めなければいけなくなりました。

具体的には、解除料の設定時に使用した算定式やその算定式を採用した理由、解除料の金額の妥当性の根拠などです。

(3) 免責の範囲が不明瞭な条項の無効

消費者契約法は、損害賠償責任の全部を免除する契約条項や事業者の重大な過失による場合に損害賠償責任の一部を免除する条項は無効と定めています。

例)「当社のコンピューターシステム、ソフトウェアの故障、誤作動により生じた障害について、当社は免責されるものとします」とする条項
例)「当ジムは、会員の施設利用に際し生じた傷害、盗難等の人的・物的ないかなる事故についても一切責任を負いません」とする条項

このような規定があることから、実際の契約書には、「当社は、法律上許される限り、10万円を限度として損害賠償責任を負います」などと規定されることがあります。

しかし、事業者に重大な過失がある場合には全額を賠償してもらうことができるのに、「法律上許される限り」と記載があることでそのことが分からず、消費者は賠償を受けられないと誤解してしまいます。

そこで、今回の改正で、以下のように軽過失の場合にのみ適用されることを記載していない契約条項は無効となると定められました。

「当社は、軽過失の場合には、10万円を限度として損害賠償責任を負います」

(4)事業者の努力義務の拡充

今回の改正により、事業者は、消費者を勧誘するに際して、事業者が知ることができた個々の消費者の年齢、心身の状態、知識及び経験を総合的に考慮した上で消費者契約の内容についての必要な情報を提供するよう努める必要があります。

また、消費者から求められたら解除権の行使に必要な情報を提供するよう努めなければいけなくなりました。その他にも、事業者は、消費者の理解を深めるために必要な情報を提供するよう努める必要があることが明確化されました。

4. おわりに

消費者契約法の改正により、消費者の保護が一層強化されています。

企業としては、改正消費者契約法の内容に合致した取引となるよう、契約書の文言や契約締結方法などについて、見直しをすることが重要です。

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文責:弁護士 大友竜亮

※上記記事は、本記事作成時点における法律・裁判例等に基づくものとなります。また、本記事の作成者の私見等を多分に含むものであり、内容の正確性を必ずしも保証するものではありませんので、ご了承ください。