従業員から未払残業代を請求されるケースが増えています。昨今の弁護士の増加や働き方改革により、さらに未払残業代の増加ペースが加速しています。
未払残業代請求対策は、経営者様から「うちはまだ何も問題起きてないし、ひとまず何もしなくても大丈夫でしょ」というお声を聞くこともあります。
とはいえ、同業他社から残業代請求の事例を聞くなどし「本当にこのままでよいのだろうか」と不安を感じる経営者様もいるのではないでしょうか?
不安に思った今こそ対策に着手すべきです。弁護士などの専門家にご相談下さい。
※本記事は中小企業の皆様を想定しています。
1.残業代請求は従業員一人の問題にとどまらない
トラブル対策は後ろ向きな雰囲気もあり、考えていてあまり楽しい話ではありません。これまでトラブルが発生していないなら「後でいいか」という気持ちになるのもよくわかります。
しかし、未払残業代トラブルは、事後的な対応では大きなリスクとなります。
なぜなら、未払残業代は基本的に「従業員×未払期間」の分だけリスクが増えるからです。
つまり、時間が経過して従業員が増え、従業員の在籍期間が増えるほど、知らない間にリスクが増大します。
一人の従業員との未払残業代に関するトラブルは、必ずしもその従業員だけの問題ではありません。
類似の雇用条件や勤務態様の従業員がいるからです。
他の従業員が残業代請求の件を全く知らないまま全て解決すれば問題が大きくならないかもしれません。
しかし、従業員がかなり前に退職しているという例外的な場合を除き「知らないまま」で終わる可能性は低いのではないでしょうか。
人の口に戸は立てられないといいますし、法的に考えても紛争中に請求側の従業員に口外を禁止することも困難だからです。
他の従業員も一定の関心をもって請求の行く末を注視していると考えるのが自然です。
多くの場合、同様の働き方をしている従業員全員を対象に未払残業代リスクを抱えてしまいます。
従業員数や一人当たりの未払残業代の金額が多ければ多いほど、従業員側に納得してもらうハードルは上がります。
従業員数が少なく、一人一人への丁寧な説明や同意の取得が可能なうちに対策を取ることが望ましいです。
「だったら話が社内で広がる前にすぐ和解してしまえばよいのでは」という考え方もありえます。
しかし、あまりおすすめできません。
会社が法的に反論できる部分があるにもかかわらず、言われたまま支払ってしまうと「なんだすぐ支払ってもらえるのか」と他の従業員による同様の請求を誘発するおそれがあります。
中には、残業代の請求に対して会社側が不誠実な対応を取ったことで「会社vs従業員」という全体を巻き込んだ対立になることもあります。
この場合、転職サイトに書き込みがされたり、従業員が次々退職して残業代請求をされたりすることもあります。
2.今すぐ対応しないとどうなる?
少し前に話題になった働き方改革関連法案では、中小企業は既に残業時間の上限規制を受けています。
労働時間の把握も会社の義務となっています。
労働時間管理を適切に行わないと、残業代請求のみならず、過労死の責任を問われるリスクや刑事・行政上の責任を問われるリスクを抱えることになります。
また、2023年4月以降、中小企業の猶予措置が撤廃されて、60時間超の割増率が50%に上がっています。残業代の時効も既に2年から3年へ変更されています。
今後時効期間が5年になる可能性もあります。
将来のどこかのタイミングで、同じ残業時間でも割増率が変わる可能性もあります。
なお、過去に一定の労働時間数に対応した定額(固定)残業代を導入している企業様も多いかと思います。
しかし、定額残業代は様々な新しい裁判所の判断が出ています。
最新の裁判例にアップデートしていないと有効性が怪しい場合があります。ご注意ください。
3.どのような対応をすべきか?
まずは実態の把握が何より必要です。どの程度のリスクがあるかわからなければ、どれくらいの緊急性があるかもわかりません。
そもそも何を調べたらよいかわからなければ、社会保険労務士や弁護士などの専門家に相談してみましょう。
雇用契約書や就業規則、勤怠記録などの一定の資料があれば、ある程度の見通しがつく可能性が高いです。
後は緊急度に応じて対応するのが望ましいです。
いかがでしょうか。未払残業代対策をするか悩まれているということは、心のどこかで従業員の残業に不安な部分があるはずです。
早く対応するに越したことありません。ご不安な気持ちも含めて弁護士などの専門家にご相談下さい。
※上記記事は、本記事作成時点における法律・裁判例等に基づくものとなります。また、本記事の作成者の私見等を多分に含むものであり、内容の正確性を必ずしも保証するものではありませんので、ご了承ください。