『デジタルマネー』による賃金支払いが可能に

目次

  1. はじめに
  2. 従来の賃金支払のあり方
  3. 『デジタルマネー』による賃金支払いの枠組み
  4. 資金移動業者の審査・指定と公表
  5. さいごに

1. はじめに

『デジタルマネー』による賃金支払いが解禁されます。

令和4年11月28日に、労働基準法施行規則の一部を改正する省令(令和4年厚生労働省令第158号)が公布されました(施行期日:令和5年4月1日)。

労働者の同意を得た上で、一定の要件を満たした場合には、キャッシュレス決済口座(「〇〇ペイ」など)への払込にて賃金を支払うことが可能になります。

労働者は賃金の一部のみをデジタルマネーで受け取り、残りを銀行口座で受け取ることも可能です。

2. 従来の賃金支払のあり方

(1) 原則

賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならないのが原則です(労働基準法24条1項本文)。

つまり、現金手渡しが一応の原則となっています。

(2) 例外

労働者の同意を得た場合には、労働者が指定する、銀行等の口座や一定の要件を満たす証券総合口座への払込にて支払うことが可能です(労働基準法施行規則7条の2第1項1号・2号)。

ほとんどの場合は銀行口座への払込ですので、法令上の例外が実社会では通例になっています。

3. 『デジタルマネー』による賃金支払いの枠組み

(1) 労働者の同意

使用者側は過半数労働組合もしくは過半数代表者と賃金デジタル払いの対象となる労働者の範囲、取扱指定資金移動業者の範囲等を盛り込んだ労使協定を締結する必要があります。

これは銀行口座への振込払いの場合と同様です。

その上で、使用者側は、個々の労働者に留意事項を説明し、労働者本人の同意を得ることが必要になります。

同意書の様式例や労働者に説明を要する留意事項の例が公開されており、要点がまとめられています。

厚生労働省ウェブサイト:同意書の様式例(局長通達2の別紙)

(2) 対象事業者について

賃金支払が可能となるのは、第二種資金移動業(資金決済に関する法律36条の2第2項)を営む資金移動者(同法2条3項)であり、次の①から⑧の要件を満たすものとして厚生労働大臣の指定を受けた者(『指定資金移動業者』)の口座です。

  • ① 賃金支払に係る口座の残高の上限額を100万円以下に設定していること又は100万円を超えた場合でも速やかに100万円以下にするための措置を講じていること。
  • ② 破綻などにより口座残高の受取が困難となったときに、労働者に口座残高の全額を速やかに弁済することを保証する仕組みを有していること。
  • ③ 労働者の意に反する不正な為替取引その他の当該労働者の責めに帰すことができない理由により口座残高に損失が生じたときに、その損失を補償する仕組みを有していること。
  • ④ 最後に口座残高が変動した日から、特段の事情がない限り、少なくとも10年間は労働者が口座残高を受け取ることができるための措置を講じていること。
  • ⑤ 賃金支払に係る口座への資金移動が1円単位でできる措置を講じていること。
  • ⑥ ATMを利用すること等、通貨で賃金の受取ができる手段により、1円単位で賃金の受取ができるための措置及び少なくとも毎月1回はATMの利用手数料等の負担なく賃金の受取ができるための措置を講じていること。
  • ⑦ 賃金の支払に関する業務の実施状況及び財務状況を適時に厚生労働大臣に報告できる体制を有すること。
  • ⑧ 賃金の支払に係る業務を適正かつ確実に行うことができる技術的能力を有し、かつ、十分な社会的信用を有すること。

これらの要件は、賃金の確実な支払等の労働者保護を図ったものです。

事業者が破綻した場合の口座残高全額保証の仕組み(②)、口座の資金が不正に出金等された場合の補償(③)、現金化できないポイントや仮想通貨での賃金支払は認められていないこと(⑥)などが特徴的です。

また、賃金支払が認められる資金移動業者口座は、受入上限額が100万円以下となっています(①)。賃金支払にあたり受入上限額を超えた場合の送金先口座として、銀行や証券会社の口座情報をあらかじめ登録しておく必要もあります。

4. 資金移動業者の審査・指定と公表

施行日の令和5年4月1日以降、資金移動業者からの申請に基づき、厚生労働省が審査を開始します。

今後、指定資金移動業者に関する情報の一覧が公表される予定です。

5. さいごに

制度導入の趣旨のうち具体的なものとして、送金手数料負担の軽減や、日本国内の銀行口座開設の負担の大きい外国人労働者への賃金支払方法としての活用などが挙げられています。

これから政府による周知活動とともに制度が開始します。社会的な定着状況も見据えながらご検討いただければと思います。

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以上

文責:弁護士 堀内良

※上記記事は、本記事作成時点における法律・裁判例等に基づくものとなります。また、本記事の作成者の私見等を多分に含むものであり、内容の正確性を必ずしも保証するものではありませんので、ご了承ください。