侮辱罪の厳罰化。侮辱と名誉毀損の違いとは

目次

  1. はじめに
  2. 侮辱罪についての刑法改正案の概要
  3. 侮辱罪と名誉毀損罪の違いについて
  4. 弁護士の個人的な感想

1. はじめに

昨今、誹謗中傷が社会問題となっています。特に、SNSの誹謗中傷は無制限に広がり、対象者を傷つけ、命にまで影響を及ぼす重大問題として再認識され始めています。

誹謗中傷にかかわる法律も少しずつではありますが、改正の流れにあり、これまで法定刑が軽かった侮辱罪についても厳罰化しようという流れになっています。

侮辱罪の改正案の概要と侮辱罪と名誉毀損罪の違いについて、解説をしていきます。

2. 侮辱罪についての刑法改正の概要

侮辱罪に懲役刑を導入し、法定刑の上限を引き上げる刑法改正案が可決されて、令和4年7月7日より施行されています。

具体的には、以下のとおり、法定刑の上限が引き上げられて厳罰化されました。

【改正前】

(侮辱)

第二百三十一条 事実を摘示しなくても、公然と人を侮辱した者は、拘留又は科料に処する。

【改正後】

(侮辱)

第二百三十一条 事実を摘示しなくても、公然と人を侮辱した者は、1年以下の懲役若しくは禁固若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する。

拘留、科料という言葉は聞きなれないかと思いますが、以下のような意味です。

  • 拘留は、一日以上三十日未満とし、刑事施設に拘置すること。
    →有期の懲役・禁固ともに、一月以上二十年以下というルールが定められています。
  • 科料は、千円以上一万円未満の金額
    →罰金は、一万円以上(ただし、これを減軽する場合においては、一万円未満に下げることができます)です。

ちなみに、懲役・禁固の違いは、刑務作業が義務になっているかどうかの違いです(懲役の場合は、刑法で「刑事施設に拘置して所定の作業を行わせる」と明記されています)。

実際は、禁固刑の受刑者は少なく、禁固刑の受刑者の多くが自ら希望して刑務作業を行っており、懲役と禁固を分ける必要があるのかという問題もあります。

刑法改正案では、懲役や禁固の区別はやめて、拘禁刑として、「改善更生を図るため、必要な作業を行わせ、又は必要な指導を行うことができる」として、より鮮明に受刑者の更生に重点をおいた内容に改正される予定です。

3. 侮辱罪と名誉毀損罪の違いについて

侮辱と名誉毀損の大きな違いは「事実を摘示」しているかどうかという点です。ここでの事実というのは、真実かでっちあげた虚偽の事実かどうかを問いません。具体的な事実という意味です。

たとえば、「Aさんはバカだと思う」という発言があった場合、軽蔑するような発言ではありますが、具体的な事実は摘示していないので、名誉毀損とはいえず、侮辱罪が成立するかの問題となってきます。

他方で、「Aさんは会社のお金を持ち逃げしたことから会社をクビにされた」という表現の場合、その事実か真実かでっちあげた虚偽の事実かにかかわらず、名誉毀損罪が成立するかの問題となってきます。

ご覧のとおり、名誉毀損罪の方が侮辱罪よりも法定刑は重いです。

(名誉毀損)

第二百三十条 公然と事実を摘示し、人の名誉を毀き損した者は、その事実の有無にかかわらず、三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金に処する。

2 死者の名誉を毀損した者は、虚偽の事実を摘示することによってした場合でなければ、罰しない。
(公共の利害に関する場合の特例)

第二百三十条の二 前条第一項の行為が公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあったと認める場合には、事実の真否を判断し、真実であることの証明があったときは、これを罰しない。

2 前項の規定の適用については、公訴が提起されるに至っていない人の犯罪行為に関する事実は、公共の利害に関する事実とみなす。

3 前条第一項の行為が公務員又は公選による公務員の候補者に関する事実に係る場合には、事実の真否を判断し、真実であることの証明があったときは、これを罰しない。

(侮辱)

第二百三十一条 事実を摘示しなくても、公然と人を侮辱した者は、1年以下の懲役若しくは禁固若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する。

4. 弁護士の感想

これまで侮辱罪というのは法定刑が軽く、実際に拘留又は科料された例もあまり多くはなかったと思います。今回の改正案や社会全体の動きを受けて、そのような流れが変わる可能性もあります。

さきほどあげた侮辱と名誉毀損の例は分かりやすいものですが、「事実を摘示」しているか微妙なケースも多いです。そのため、侮辱なのか名誉毀損なのか判断に悩むケースもあります。

いずれにせよ、人を傷つけたり、侮辱する表現は控えるべきだと思います。SNSの発達で簡単に表現できる時代だからこそ、発信する前に相手の立場になって投稿が問題ないのか考える時間を設けるといいかもしれないですね。

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文責:弁護士 辻悠祐

※上記記事は、本記事作成時点における法律・裁判例等に基づくものとなります。また、本記事の作成者の私見等を多分に含むものであり、内容の正確性を必ずしも保証するものではありませんので、ご了承ください。