【懲戒処分】自宅待機の場合、給与は支払う?

営業担当の従業員が横領をしているらしい…

そんな告発がなされました。会社は、その営業担当者の行為を調査したいのですが、調査中にパソコン等の記録を改ざんされたりする恐れがあるので、営業担当者へ自宅待機の指示を出したいと思います。

1. 自宅待機の指示はあり?なし?

懲戒処分の前提として、会社はその事実を調査する必要があります。

横領行為が事実の場合、本人が出社していると証拠の隠滅等の可能性があり、調査に支障をきたすことがあります。

そもそも会社は、従業員へ自宅待機の指示をしてもいいのでしょうか?

就業規則に、懲戒処分の調査のための自宅待機の規定がある場合には、自宅待機を指示することは可能です。

自宅待機の規定がない場合も、懲戒処分のために本人を自宅待機させる必要性はありますので、業務命令として指示することは可能です。

懲戒処分の手続は明確化されていたほうがいいので、就業規則に自宅待機指示が記載されていない場合は、修正することをお勧めします。

ただし、懲戒処分の原因となる行為が極めて軽微であるにもかかわらず、自宅待機の期間が長期間である場合は自宅待機の指示が権利濫用となりうるので、ご注意ください。

2. 自宅待機中の給与について

横領が疑われる従業員に対して、自宅待機の指示をしました。その従業員は、自宅待機の間は労務を提供していません。会社として自宅待機の期間の給与は支払わなくてもいいのでしょうか?

民法536条2項前段

「債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができない。」

となっております。

平たくいうと、会社の都合によって従業員が労務の提供をできなかったとしても、会社は賃金を支払う必要があると規定されています。

従業員が疑われるようなことをするのが悪い!となり、懲戒処分の調査のための自宅待機の場合には給与を支払わなくてもいいとも思えます。

ただし、自宅待機の指示は調査のためにすぎないため、会社は給与を支払うことが原則となります。

裁判例:名古屋地裁平成 3年 7月22日(判タ 773号165頁)も、会社が自宅待機期間中の従業員に対し、給与を支払わなくてもいい場合は、緊急かつ合理的な理由があるか、実質的な出勤停止処分に転化させる懲戒規定上の根拠がある場合に限定されているとしています。

自宅待機は無給である旨の就業規則がある事件ですが

裁判例:東京地裁平成30年1月5日判決(労働法令通信2502号18頁)は、

使用者が労働者に自宅待機や出勤禁止を命じて労働者から労務提供を受領することを拒んでも当然に賃金支払義務を免れるものではないが、使用者が労働者の出勤を受け入れないことに正当な理由があるときは、労務提供の受領を拒んでも、これによる労務提供の履行不能が使用者の「責めに帰すべき事由」(民法536条2項)によるとはいえないから、使用者は賃金支払い義務を負わない

としています。

仮に、自宅待機期間は無給であるという就業規則があった場合も、上記裁判例の中に記載された「正当な理由」に該当するかどうかについては、過去の経緯や懲戒処分の見込み等、慎重な判断が求められます。

就業規則に無給であるという規定があったとしても、会社は賃金の支払い義務を必ず免れるものではないので、ご注意ください。

尚、自宅待機の期間を無給とする場合、その旨の就業規則は当然必要となります。

就業規則の条項については、専門性が求められますので専門家にご相談ください。

監修者:弁護士 大澤一郎

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※上記記事は、本記事作成時点における法律・裁判例等に基づくものとなります。また、本記事の作成者の私見等を多分に含むものであり、内容の正確性を必ずしも保証するものではありませんので、ご了承ください。