定年年齢引下げと就業規則変更と是正勧告

非常勤教員の定年年齢引下げに関する就業規則を周知せずに変更した等として、甲府労働基準監督署がある大学に対し是正勧告を行ったとの報道が昨年ありました。

1.報道によると

報道によると、非常勤職員の定年を慣例であった70歳から原則65歳に変更し、定年に達した年度末に退職するという就業規則を大学が作成しました。大学は就業規則を変更するにあたり、労働者への周知や労働者の代表者からの意見聴取等の労働基準法が定める手続きを踏んでいませんでした。そのため、甲府労働基準監督署は立ち入り調査を実施し、是正勧告を行ったとのことでした。

2.就業規則の変更について(手続に関する規律)

では就業規則を変更するにあたっては、どの様な手続きが必要になるのでしょうか。

労働者の意見聴取義務

就業規則を変更した場合、所轄の労働基準監督署長に届け出の義務があります。そして届出の際に、労働者の意見を聴取した結果の書面を添付する必要があります。

労働者の意見聴取義務について、労働基準法は「使用者は、就業規則の作成又は変更について、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者の意見を聴かなければならない。」「使用者は、前条の規定により届出をなすについて、前項の意見を記した書面を添付しなければならない。」(労働基準法90条)と定めています。

そのため、労働組合がある場合は労働組合、労働組合がない場合は労働者の代表者の意見を聞かなければなりません。ただし、「意見を聴かなければならない」は意見を聞けばよいのであって、同意を得るとか協議をすることまでは要求されません。そのため、「全面的に反対する」との意見が述べられても構わないこととなります。

変更の周知義務

就業規則を変更した場合、従業員に周知することが義務付けられています。そのため、作業場の見やすいところに掲示したり、備え付けたり、書面を交付したり、パソコンを使用した方法で周知を行う必要があります。

変更の周知義務について、労働基準法は「使用者は、…就業規則…を、常時各作業場の見やすい場所へ掲示し、又は備え付けること、書面を交付することその他の厚生労働省令で定める方法によって、労働者に周知させなければならない。」(労働基準法106条1項)と定めています。

3.報道の事案では

報道の事案では、大学には労働者の過半数が所属する労働組合がなかったため、労働者の過半数を代表する者の意見を聴かなければならなかったのですが、手続が経られていませんでした。また非常勤講師たちは、このような就業規則の存在を全く知らなかったとのことでした。

そのため、就業規則変更に関する労働基準法で定められた手続きを踏まなかったため、甲府労働基準監督の是正勧告が行われました。

4.最後に

就業規則変更においては、上記の必要な手続きが法律で定められています。さらに、手続面だけにとどまらず、内容についても労働者に不利益に変更する場合について労働契約法という別の法律に規定があります。

そのため就業規則変更については、細かい判断が必要となります。就業規則変更については、お気軽に弁護士までご相談をいただければと思います。

文責:弁護士 根來真一郎

※上記記事は、本記事作成時点における法律・裁判例等に基づくものとなります。また、本記事の作成者の私見等を多分に含むものであり、内容の正確性を必ずしも保証するものではありませんので、ご了承ください。