カスハラには「対応いたしません」。JR東日本が発表した「方針」とは

目次

1. JR東日本が公表したカスハラに対する方針

令和6年4月、JR東日本グループカスタマーハラスメントに対する方針をJR東日本は公表しました。

この方針の中で、JR東日本は「お客さまからのご意見・要望に対して、これからも真摯に対応」するとしている一方、「カスタマーハラスメントに該当する行為に対しては、毅然とした対応」をすると表明しています。

このJR東日本の表明にはどのような意味があるのでしょうか?

本記事では、カスハラに関する問題を、厚生労働省が公開しているカスタマーハラスメント対策企業マニュアルに基づいて解説します。

カスタマーハラスメント対策企業マニュアル

2. カスタマーハラスメントとは

カスタマーハラスメントとは、「顧客等からのクレーム・言動のうち、当該クレーム・言動の要求の内容の妥当性に照らして、当該要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当なものであって、当該手段・態様により、労働者の就業環境が害されるもの」をいいます。

商品・サービスに瑕疵・過失が認められないなど、顧客等の要求の内容が妥当性を欠く場合は、カスハラに該当します。

また、要求の内容が妥当であっても、攻撃的な言動や、執拗な要求をするなど、手段・態様が社会通念上不相当な場合は、カスハラに該当します。

3. 具体的なカスハラ対策

では、実際にカスハラが起こった場合、どのように対応すれば良いのでしょうか?

カスタマーハラスメント対策企業マニュアルを参考に、代表的な類型をご紹介します。

① 「長時間にわたって従業員を拘束する、長時間の電話を続ける」行為への対策

対応できない理由を明確に告げた後、一定時間が経過したら退去を求めるか、切電をする。

② 「理不尽な要望を繰り返し要求してくる」行為への対策

次回以降は対応できないことを明確に伝える。

それでも繰り返し要求がくる場合には、内容を記録し、窓口を一本化して要求を止めるように伝える。

③ 「大声を出す、侮辱的・人格否定・名誉を棄損する発言をする」行為への対策

周囲の迷惑になるので止めるように告げ、退去を求める。

侮辱的・人格否定、名誉を棄損する発言の場合は録音をし、退去を求める。

④ 「文書等での謝罪や土下座を要求してくる」行為への対策

対応を上位者と交代し、要求には一切応じない。

複数名や組織での対応が重要

どのような類型のカスハラであっても、複数名で対応すること、手に負えない場合は速やかに上位者と交代することが大切です。

悪質な場合は、会社が組織として対応をすることも重要です。

4. カスハラが従業員に与える影響

JR東日本が公表した指針には、カスハラは「安全で質の高いサービスの提供を担う当社グループで働く社員の尊厳を傷つけ、安全で働きやすい職場環境の悪化を招く」と記載されています。

カスハラが従業員に与える影響は深刻です。カスハラは従業員の心身を疲弊させ、人間としての尊厳を深く傷つけます。

被害を受けた従業員は、仕事に対するやりがいを見失ったり、心身の不調を訴えたりして、休職・退職に追い込まれる可能性があります。

5. カスハラが会社に与える影響

会社がカスハラについて適切な対策を講じていない場合、被害を受けた従業員から責任を追及される可能性があります。

カスハラに関して争われた裁判例を3つ紹介します。

市立小学校の教諭が、保護者から理不尽な言動を受けていたところ、校長が不適切な対応を行ったとして、教諭が市と県を訴えた事例

① 保護者からの謝罪要求は理不尽であったにもかかわらず、校長は教諭に対し何ら理由のない謝罪を強いた。

② 校長は、保護者の理不尽な要求に対し、事実関係を冷静に判断して的確に対応しなかった。

③ 校長の行為は、教諭の自尊心を傷つけ、多大な精神的苦痛を与えた。

請求を一部認容(甲府地方裁判所平成30年11月13日判決)

電話オペレーターである従業員に不適切な発言・要求を繰り返す顧客に対し、会社が適切な対応を取らなかったとして、従業員が会社を訴えた事例

① 不適切な発言・要求から従業員の心身の安全を確保するためのルールを策定した上、これに沿って対処をしていた。

② 刑事告発や損害賠償請求等の法的措置のような強硬な手段をとることは、かえって反感や反発を招くから、会社が刑事告発や損害賠償請求等の法的措置を採る必要はなかった。

請求を棄却(東京高等裁判所令和4年11月22日判決)

店舗で働く従業員が、客から暴言等を受けたにもかかわらず、会社が適切な対応を取らなかったとして、従業員が会社を訴えた事例

① 会社が従業員に対して、「入社テキスト」を配布して、苦情を申し出る客への初期対応の指導をしていた。

② 店舗には、緊急連絡先や近隣店舗の連絡先が掲示されており、トラブルに対して正社員に相談して、指導を受けたり対応を求めたりする体制が整えられていた。

③ 深夜の従業員を1名ではなく必ず2名以上の体制としていた。

④ 顧客に、トラブルが再発した場合は入店拒否措置の可能性がある旨伝えたところ、顧客は来店しなくなった。

請求を棄却(東京地方裁判所平成30年11月2日判決)

会社を守る観点からもカスハラ対策が必要

カスハラ対策を怠ったことを理由に、会社が従業員から訴えられた事案を紹介しました。

事例によっては会社の責任が認められる場合もあります。

従業員を守るのみならず、会社を守るという観点からもカスハラ対策を講じる必要があるといえるでしょう。

6. おわりに:行き過ぎたクレームには毅然とした対応を

お客様からのクレームは、サービスや商品の改善を検討する良い機会となります。

一方で、お客様からの行き過ぎたクレームは、就業環境を害するため、厳しく対応しなければなりません。

JR東日本は、カスハラに対する指針を発表したことにより、自らの立場を明確にしました。

カスハラから従業員を守るという方針が会社内外に共有されたことによって、従業員は安心して業務を行うことができます。その意味で、JR東日本の表明には大きな意義があったと考えられます。

今後、カスハラに対して毅然とした対応をする企業が増えることが予想されます。

よつば総合法律事務所では、カスハラに関するサポートができます。

顧客対応でお悩みの企業様や、カスハラ対策をご検討されている企業様は、お気軽にご相談ください。

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監修者:弁護士 米井舜一郎

※上記記事は、本記事作成時点における法律・裁判例等に基づくものとなります。また、本記事の作成者の私見等を多分に含むものであり、内容の正確性を必ずしも保証するものではありませんので、ご了承ください。