飲食店の無断キャンセル問題とその対策

目次

はじめに

新型コロナウイルスの感染症法上の分類が第5類に移行したことを受けて、忘年会や新年会といった大人数での宴会が解禁された企業も多いのではないでしょうか。

そのような流れを受けて、飲食店を予約したにもかかわらずお客様が当日に来ない、無断キャンセル問題が再び話題となっています。

2018年11月1日に経済産業省が公表した「No Show(飲食店における無断キャンセル)対策レポート」によれば、飲食店の無断キャンセルによる年間被害額は推定2000億円に上ります。

今回は、飲食店の無断キャンセルによってどのような法的責任が生じるのか、飲食店側はいかなる対策をすべきかについて、解説させていただきます。

No show(飲食店における無断キャンセル) 対策レポート

法律上の問題点

1. 予約の法的性質

無断キャンセルによってどのような法的責任が生じるかをお話しする前に、その前提として、飲食店の予約が法律上いかなる意味を持つかについて、整理しておきましょう。

飲食店の予約は、お客様が料理の提供と飲食をするために必要なサービス(接客、配膳など)を受けることに対して代金を支払うことをあらかじめ申し込み、店側がこれに承諾する契約です。

店側がお客様からの申し込みを受け入れた時点で、この契約は成立することになります。

2. 無断キャンセルによって生じる法的責任

さて、予約したお店を当日に無断でキャンセルすることは、上記契約の債務不履行または不法行為に該当する可能性があり、店側はお客様に対して損害賠償を請求することができます(予約当初から来店するつもりがなかったなどの悪質な場合は、刑事上の偽計業務妨害罪に該当する場合もあります)。

ここでいう「損害」には様々なものが考えられます。

コースで予約していた場合に用意していた食材費や、大人数の予約に備えて増員していた従業員の人件費、予約の時間が経過した後に予約のお客様がくることを前提に飛び込み客を断った分の売り上げなどです。

しかし、これらの損害を実際に賠償してもらうことは、実際上困難な場合が多いです。

まず、無断キャンセルしたお客様とは連絡が取れなくなることが多いため、任意の支払いはあまり期待できません。

そのような場合、裁判といった法的手続に移行することになりますが、回収できる賠償額が裁判にかける労力・費用に見合っているか、という問題も生じます。

また、裁判を行ったとしても、損害額の立証が困難な場合もあります。

例えば、予約されていたコースにおける飲み放題相当額(実際に注文されていないのでロスが出たとは認められにくいです)や、空きが出た席に偶然他のお客様が入って売り上げがあった場合などです。

上記の通り、無断キャンセル後の対応では、損害を賠償してもらうことは相当難しいと考えておいたほうが良いでしょう。

飲食店側がとるべき対策

無断キャンセルによる被害を防ぐためには、事前に対策をしておくことが重要です。

それでは、どのような手段が考えられるのでしょうか。

まず、予約の際にキャンセル料の取り決めをしておくことが考えられます。

「当日及び無断のキャンセルの場合には、キャンセル料として〇〇〇円を頂戴いたします。」といった内容を事前に伝えておくことで、無断キャンセルに対して一定の心理的効果が期待できます。

ただ、この方法のみでは実際に無断キャンセルが起きてしまった場合には損害を賠償してもらうことが困難という問題は払拭できません。

確実にキャンセル料を回収する手段として、予約時にお客様からデポジットをもらうという方法が考えられます。

当日に無断キャンセルをされたとしても、事前にもらっていたデポジット相当額をキャンセル料として回収できるというわけです。

もっとも、この制度を導入している飲食店をお客様が敬遠してしまうというおそれがあります。

また、クレジットカードの登録を予約の条件とするという方法もあります。

こちらも無断キャンセルがされた際には、登録されたクレジットカードからキャンセル料が支払われるというものです。

しかし、この方法でもデポジットをもらう方法と同様の問題や、インターネットを通じて予約ができるシステムを導入している店舗でしか使えないといったデメリットがあります。

まとめ

以上に述べた通り、現状では何のデメリットもなく無断キャンセルに対応することは難しいです。

そうだとしても、被害を少しでも抑えるために、飲食店側で事前の対応策を講じておくことをおすすめします。

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監修者:弁護士 大竹裕也

※上記記事は、本記事作成時点における法律・裁判例等に基づくものとなります。また、本記事の作成者の私見等を多分に含むものであり、内容の正確性を必ずしも保証するものではありませんので、ご了承ください。