労基署が回転寿司チェーン店に是正勧告 賃金の支払いは1分単位?

目次

1. はじめに

中央労働基準監督署は、令和5年12月、回転寿司チェーン店に対して、是正勧告を実施しました。

この回転寿司チェーン店は、令和4年8月以前、5分未満の労働時間を切り捨てていて、切り捨て部分にあたる賃金を支払っていませんでした。

労働時間を切り捨て、その切り捨て部分の賃金を支払わないことは原則違法になります。

今回は、労働時間の切り捨てについてご説明します。

2. 労働時間の切り捨ては原則違法!

労働時間を切り捨てた場合、切り捨てた時間に対する賃金が支払われません。

これは、労働基準法24条1項に定められた「賃金全額払いの原則」に反し、違法になります。

10分単位や15分単位で切り捨てをする場合はもちろん、5分単位の切り捨てであっても違法です。

会社は、1分単位で労働時間を管理して、労働者に対して1分単位で賃金を支払わなければなりません。

3. 切り捨てが許される場合

割増賃金は、例外的に次のような処理が認められています。

時間外労働及び休日労働、深夜労働の1ヶ月単位の合計について、1時間未満の端数がある場合は、30分未満の端数を切り捨て、30分以上を1時間に切り上げること。

(昭和63年3月14日付通達 基発第150号)

例えば、月の時間外労働時間の合計が5時間31分だった場合、31分を繰り上げて、6時間分の残業代を支払うことになります。

一方で、月の時間外労働時間の合計が5時間29分だった場合、29分を切り捨てて、5時間分の残業代のみを支払うことが許されます。

このような処理が許される理由は、常に労働者の不利になるものではなく、事務処理上の便宜になるからです。

なお、このような処理ができるのは、「時間外労働及び休日労働、深夜労働」に限られます。

法定時間内労働の労働時間を切り捨てることは認められていないので注意が必要です。

また、「1ヶ月単位の合計」の端数を切り捨てることができるにとどまります。日ごとの端数を切り捨てることはできませんので注意が必要です。

4. 1分単位で賃金を計算する根拠

ところで、法律のどこを探しても、1分単位で賃金を支払えとは書いてありません。

厳密に考えれば、「労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができる」のであれば、たとえ1秒であっても労働時間にあたり、賃金を支払う必要があると考えられます。

実際、「原告らの就業時間外における労基法上の労働時間は、出勤1回あたり合計80秒(出勤点呼及び就業場所への移動が60秒、退社点呼が20秒)と認められる」と、秒単位で労働時間を認定した裁判例があります(東京急行電鉄事件)。

しかし、1秒単位で労働時間を管理するとなると、事務処理が煩雑になって非現実的です。

そこで、1分単位で労働時間を管理して、賃金を支払えば足りると解釈されていると考えられます。

 

5. 1分単位で賃金を支払うメリット

1分単位で賃金を支払うなんて、人件費がかかって仕方がないと思うかもしれません。しかし、1分単位で賃金を支払うことは会社にもメリットがあります。

まず、労働者が賃金の支払われるキリの良い時間まで会社に残る状況を防ぐことができます。労働者からすれば、賃金を切り捨てられたくありません。

その結果、労働者が、特に仕事はないけれど、キリの良い時間まで会社に残る可能性があります。

この場合、労働者は早く帰りたいのに帰れない、会社は無駄な賃金は払いたくないから早く帰ってほしい、という事態が生じます。

会社が1分単位で賃金を支払えば、会社と労働者、双方にとって好ましくない状況を回避することができます。

また、1分単位で賃金を支払うことにより、労働者のモチベーションの向上、離職防止につながります。

支払うべき賃金を切り捨てずに支払うことは、会社が労働者を大切にしていることの現れです。

その結果、労働者は「良い会社に入ったな。会社のために頑張ろう。」という気持ちになり、モチベーションの向上、労働者の離職防止につながります。

6. おわりに

労働者のためにも、会社のためにも、1分単位で賃金を支払うことが大切です。

この機会に労働時間の管理を見直してみてはいかがでしょうか。

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監修者:弁護士 米井舜一郎

※上記記事は、本記事作成時点における法律・裁判例等に基づくものとなります。また、本記事の作成者の私見等を多分に含むものであり、内容の正確性を必ずしも保証するものではありませんので、ご了承ください。