大手衣料品ブランドが賞与不支給決定・法的な問題点は?

目次


事案の概要

大手衣料品ブランドの株式会社サマンサタバサジャパンリミテッドが、2023年の冬季賞与を不支給にする旨発表しました。

同社の発表によれば、2024年2月の業績予想では約10億円程度の赤字が生じているだろうとのことでした。
雇用契約においては賞与の支給は広く一般的に行われているものですが、不支給にすることで何か法的な問題点は生じるのでしょうか。

今回は、賞与の支給・不支給にまつわる法律上の問題点について弁護士が解説します。


法律上の問題点

1. 賞与の法的性質

前提として、賞与の法的性質とはどのようなものなのでしょうか。

労働基準法11条によれば「この法律で賃金とは、賃金、給与、手当、賞与その他名称の如何を問わず、労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてもの」としており、賞与は賃金の一部に含まれることになります。

賞与は通常、対象者や支給要件、支給時期、算定方法などは当事者間の合意で自由に定めてよく、毎月の賃金とは異なり、必ず支給しなければならないものではありません。

通達によれば、賞与は「定期又は臨時に、原則として労働者の勤務成績に応じて支給されるものであって、その支給額が予め確定されていないもの」(昭和22年9月13日発基17号)です。

つまり、会社の業績や労働者の勤務成績、勤務期間などの基準や制限を設け、達成できない場合には賞与を不支給と定めることも可能です。

また、通達によれば「定期的に支給され、かつその支給額が確定しているものは、名称の如何にかかわらず、これを賞与とはみなさない」ため、賞与という名目であっても実際には賞与に該当しない可能性がある点は注意が必要です。

2. 賞与不支給にまつわる問題点

以上のとおり、賞与は賃金の一部として位置づけられていますが、賞与の支払いを義務付ける法令はありません。

したがって、賞与を不支給と会社が決定すること自体は違法なことではないといえ、賞与を支給しないことを就業規則に規定しても基本的に有効となります。

もっとも、社内規則の規定方法によっては法的問題を生じる可能性があります。

賞与を支給する制度がある場合には、労基法89条4号における臨時の賃金としてその旨を就業規則に明記する必要がある「相対的必要記載事項」となっています。

規定をした場合賞与は、就業規則などに規定したとおりに支払う義務があります。例えば、「賞与を年3回支給する」と規定した場合には、そのとおりに支給する義務を負う可能性があります。
計算方法などを規定した場合には、そのとおりに計算しなければなりません。

就業規則には、「賞与を支給することがある」や「業績や勤務成績によっては賞与を支給しない」などと記載しておくことでトラブルが生じるリスクを低減できるでしょう。

まとめ

今回は、大手衣料品ブランドの冬季賞与不支給決定に関連して、賞与の法的な側面から弁護士が解説しました。

同社の就業規則の内容は明らかになっていませんが、一定時期に必ず賞与を支給するといった規定や労使の合意などがない場合には会社の不支給の判断は適法であると考えられます。

もっとも、支給予定日に突然賞与不支給とされてしまうと労働者にとって不意打ちになってしまい、会社に対する不信感を募らせる原因になるかもしれません。

そのため、賞与の減額や不支給を行う場合には、事前に労働者に説明しておくと良いかもしれません。

賞与を含む賃金関係の法制度は複雑で、法的な専門知識が要求されることも多いです。

自社の制度は法的な問題がないか、一度法律専門家である弁護士に相談することをおすすめします。

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監修者:弁護士 川田啓介

※上記記事は、本記事作成時点における法律・裁判例等に基づくものとなります。また、本記事の作成者の私見等を多分に含むものであり、内容の正確性を必ずしも保証するものではありませんので、ご了承ください。