東京五輪組織委員会で談合。独禁法の「不当な取引制限」とは?

目次

  1. 事件の概要
  2. 独占禁止法はこんな法律
  3. 「不当な取引制限」とは?
  4. 企業側との共同正犯として立件された理由
  5. 罰則等
  6. さいごに

1. 事件の概要

2023年2月8日、東京オリンピック・パラリンピックのテスト大会事業をめぐる入札談合事件で、受注企業を事前に決めていた疑いが強まったとして、大会組織委員会大会運営局元次長らが独占禁止法違反(不当な取引制限)の疑いで逮捕されました。

具体的には、組織委員会が、テスト大会の計画立案の委託先を選ぶために実施された26件の入札で、競技ごとの企業の受注実績や意向調査を広告代理店に依頼し、入札の参加に合意した企業の一覧表を作成していたということです。

そして、今回逮捕された元次長は、競技会場ごとに受注する企業が決まっていることを一部の企業に伝えるなどして受注調整を差配していた疑いがもたれています。

東京地検特捜部は、発注側の元次長が、受注を希望する各社の落札希望を調整するなど談合に協力したとして、企業側との共同正犯として立件したということです。

2. 独占禁止法はこんな法律

問題となっている「独占禁止法」とは、事業者の不当・不公正な取引方法を禁止して、公正かつ自由な競争を促進するための法律です。正式名称は、「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律」といいます。

独占禁止法は、以下を規定しています。

  • ①私的独占の禁止
  • ②不当な取引制限(カルテル、入札談合など)の禁止
  • ③事業者団体の規制
  • ④企業結合の規制
  • ⑤独占的状態の規制
  • ⑥不公正な取引方法の禁止

過去の独占禁止法違反の事件としては、以下のようなものが挙げられます。

  • 世界大手の半導体メーカーが、他社製CPUをPCメーカーに採用させないためにリベートを支払ったことが私的独占(上記①)に当たるとされ、公正取引委員会がその行為を止めるよう勧告をした件
  • 市立中学校の修学旅行代金について、旅行会社が価格カルテルを結んでいた(一定以上の金額を設定するよう互いに話をつけていた。上記②)として、公正取引委員会が旅行会社3社に排除措置命令を実施した件

なお、独占禁止法を補完する法律として、「下請法」(下請代金支払遅延等防止法)という法律もあります。

この下請法では、親事業者と下請業者との取引の公正を図るべく、支払代金の支払遅延や、買いたたき行為等を禁止しています。

3. 「不当な取引制限」とは?

今回問題となっているのは、独占禁止法が規制する上記②「不当な取引制限」です。

独占禁止法

第2条第6項

この法律において「不当な取引制限」とは、事業者が、契約、協定その他何らの名義をもつてするかを問わず、他の事業者と共同して対価を決定し、維持し、若しくは引き上げ、又は数量、技術、製品、設備若しくは取引の相手方を制限する等相互にその事業活動を拘束し、又は遂行することにより、公共の利益に反して 、一定の取引分野における競争を実質的に制限することをいう。

第3条

事業者は、私的独占又は不当な取引制限をしてはならない。

簡単に説明すると、事業者同士が互いの事業活動の内容・方法について約束することで、企業間等の自由競争を制限することを指します。

例えば、公正取引委員会が公表しているガイドライン(流通・取引慣行に関する独占禁止法上の指針)においては、事業者が他の事業者と共同して、以下のような行為を行ったことにより、事業者間の顧客の争奪が制限され、市場における競争が実質的に制限する場合には、「不当な取引制限」に該当すると記載されています。

(1) 取引先の制限

  • ①メーカーが共同して、相互に他の事業者の顧客と取引しないことを取り決めること
  • ②流通業者が共同して、相互に他の事業者の販売価格を下回る価格で売り込むことによって顧客を奪取することを制限すること
  • ③流通業者が共同して、他の事業者の顧客と取引した場合には調整金を支払うことを取り決めること
  • ④メーカーが共同して、各事業者が顧客を登録し、登録した顧客以外とは取引しないことを取り決めること
  • ⑤流通業者が共同して、各事業者別にその販売先を制限すること

(2) 市場の分割

  • ①メーカーが共同して、各事業者別にその販売地域を制限すること
  • ②流通業者が共同して、相互に他の事業者が既に販売活動を行っている地域で新たに販売活動を行わないことを取り決めること
  • ③メーカーが共同して、各事業者別にその製造する商品の規格・品種を制限すること
  • ④メーカーが共同して、相互に他の事業者が既に製造している種類の商品を新たに製造しないことを取り決めること
※公正取引委員会「流通・取引慣行に関する独占禁止法上の指針」

4. 企業側との共同正犯として立件された理由

ここまで読んでいただいた方はおわかりかもしれませんが、「不当な取引制限」の主体として、本来、対象とされているのは入札に参加する側の事業者です。発注者側の元次長ではありません。

では、なぜ元次長が逮捕されるのでしょうか。

その理由は、刑法には共犯の規定があるからです。入札参加側の事業者の不当な行為を主導したり助けたりすることで、発注者側の元次長も共犯として処罰されます。

また今回は、元次長が入札談合において重要な役割を果たしたと考えられているからか、共犯の中でも正犯である共同正犯として立件されています。

過去にも、下水道事業団(公共法人)が発注した、下水道処理施設の電気設備工事の入札に関連して、受注したメーカー各社だけでなく、発注者の担当者(工事部次長)が共同正犯としての責任を問われたケースもあります。

5. 罰則等

「不当な取引制限」を行った場合は、以下の罰則が適用されます。

独占禁止法第89条

第1項

(1) 次の各号のいずれかに該当するものは、五年以下の懲役又は五百万円以下の罰金に処する。

一 第三条の規定に違反して私的独占又は不当な取引制限をした者

第2項

前項の未遂罪は、罰する。

このように未遂犯も罰されることになっています。

また、「不当な取引制限」に対しては、その行為をやめるよう命じられたり(排除措置 )、課徴金を課されたりすることもあります。

今回の件では、大手広告会社が、入札前に受注調整があったことを認め、課徴金が減免される制度を使って違反を自主申告しました。

6. さいごに

特捜部は、大会運営を担当していた元次長や広告代理店担当者らが、テスト大会だけでなく本大会の運営も含め、400億円規模の事業を対象に談合を行っていたとみて、さらなる捜査を進めているとみられています。

これだけ大規模な独占禁止法違反事件は珍しいと思われますが、独占禁止法の禁止する行為は多岐にわたることから、事業を行っている方であれば、規制を知らずに違反してしまうといったこともあるかもしれません。

リスク管理で心配なことがありましたら、弊所の弁護士までご相談ください。

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文責:弁護士 辻佐和子

※上記記事は、本記事作成時点における法律・裁判例等に基づくものとなります。また、本記事の作成者の私見等を多分に含むものであり、内容の正確性を必ずしも保証するものではありませんので、ご了承ください。