目次
1. 取引DPF消費者保護法の規制対象
今年5月1日、「取引デジタルプラットフォームを利用する消費者の利益の保護に関する法律」(以下「取引DPF消費者保護法」といいます。)」が施行されました。
つまりどういう法律かというと、「オンラインモールやアプリケーションストア、オークションサイト等のインターネット上の場を提供する事業者は、こういう努力義務・義務を負います」ということを定めた法律です。
こうした場を提供する事業者は、規模の大小を問わず全て規制の対象となります。
一方で、自社の商品だけを売るウェブサイト等は取引DPFに当たらないので、そのサイト運営者は規制対象外です。メルカリなど、消費者同士が取引する場の提供者も原則として規制対象外となります(ただし、消費者同士の取引であっても、売手が実質的に販売業者といえるような場合は、取引DPF消費者保護法の適用がありえます。)。
※参考
「取引DPF消費者保護法」に先立って施行された「特定DPFの透明性及び公正性の向上に関する法律」の方は、取引の透明性・公正性を高めることを目的としており、その規制対象を「特定DPF」だけに絞っています。経済産業大臣はこの「特定DPF」に当たる事業者として次の5つを指定しています。
- アマゾンジャパン合同会社
- 楽天グループ株式会社
- ヤフー株式会社
- Apple Inc.及びiTunes株式会社
- Google LLC
2. 規制の内容
さてこの「取引DPF消費者保護法」ですが、施行されたとはいうものの、現段階(2022年7月22日現在)では取引DPF提供者に対して厳しい規制が課せられているわけではありません。規制の内容は以下のとおりです。
(1) 取引DPF提供者の各種努力義務
以下の措置を講ずる努力義務を負います。あくまで努力義務なので、以下の措置を講じなくても、それ自体で行政処分の対象にはなりません。
① 販売業者等と消費者との間の円滑な連絡を可能とする措置
(例えばこのような措置)
- 特定商取引法11条 の販売業者等の氏名・住所等の表示義務遵守に資するために、販売業者向けの表示義務に関する専用ページを作る
- 販売事業者等が、連絡先を掲載しない場合には、消費者からの請求があり次第、連絡先を速やかに提供する旨の表示をするように徹底する。
- 専用のメッセージ機能を提供する
- 販売業者の表示している連絡先が機能しているかを定期的にパトロールしたり、連絡の可否に関する消費者からの情報受付窓口を設置したりして連絡手段が機能していることを確認する
② 販売条件等の表示に関し消費者から苦情の申出を受けた場合における必要な調査等の実施
(例えばこのような措置)
- 購入確認画面に、苦情申出のためのリンクを貼るなどして、消費者にとってわかりやすい方法で苦情を受け付けるようにする
- 商品の安全性や知的財産権の侵害等のリスクが高い商品について、製造業者、ブランドオーナー等にスムーズに照会できる仕組みを整える
- 不適正な表示が行われた場合について、利用規約に基づき、不適正の程度に見合った制裁を行う。
③ 販売業者等に対する身元確認のための情報提供の求める措置
(例えばこのような措置)
- アカウント登録時に、販売業者等を特定できる情報の提供を求める
- 販売業者が提供した情報が疑わしいと思われる場合は、裏づけの資料の提出を求める
(2) 実施した措置を開示する義務
上記(1)の措置は努力義務ですが、これらの措置を実施した場合には必ず開示しなければなりません。この開示については努力義務ではなく、義務になります。
開示の方法については、「ご利用ガイド」や「ヘルプ」等と題したページに記載する形で開示することが考えられます。
(3) 内閣総理大臣による出品の削除等の要請
内閣総理大臣は、商品の安全性の判断に資する事項等の重要事項の表示に著しい虚偽・誤認表示がある商品等が出品され、かつ、販売業者等が特定不能など個別法の執行が困難な場合、取引DPF提供者に対して出品の削除や販売業者の利用停止等といった措置をDPF提供者に対し要請することができます。
これもあくまで要請にすぎないため、必ずしも従う義務まではありません。
しかし一方で、内閣総理大臣は削除要請をしたことを公表することができます。そのため、プラットフォーム提供者が削除要請に従わずに安全性の疑わしい商品を掲示し続けていると、そのことが公に知られることになり、プラットフォームの評判が下がることになります。
また、取引DPF提供者は、この要請に応じたことによって販売業者に生じた損害については賠償の責任を負いません。
これまでも、省庁がプラットフォーム提供者に連絡して安全性を欠く商品の掲載を止めてもらう、といったことは行われてきました。今回、取引DPF消費者保護法が施行されたことで、プラットフォーム提供者が危険な商品を削除するインセンティブが一層増したといえます。
(4) 販売業者についての情報開示請求
消費者は、販売業者との間の売買契約等に係る損害賠償請求権(債権額1万円を超えるもの )を行使するために必要な場合に限って、取引DPF提供者に対し、その販売事業者等の氏名、住所、電話番号、FAX番号、メールアドレス等の情報を開示することを請求できます。
取引DPF提供者は、請求を受けた場合は当該販売業者の意見を聴取した上で、情報を開示するか否か判断することになります。
3. ECサイトを利用する販売業者が気を付けるべきこと
上記のとおり、現段階での取引DPF提供業者の義務は主として努力義務であり、内閣総理大臣による出品削除の要請に対しても応じる義務まではなく、罰則規定もありません。
しかし販売業者には、出品した商品に対して削除要請がなされた場合に商品名・販売業者名が公表されるリスクがあります。
また、削除された結果損害が生じてもプラットフォーム提供者に損害賠償が請求できません。
さらに、プラットフォーム提供者から消費者に対して販売業者の情報が開示され、その消費者から損害賠償を請求される可能性もあります。
こうしたリスクを避けるために販売業者は以下の点に気を付けなければなりません。
① 出品の際、商品情報は正しく記載する。
内閣総理大臣からの出品の削除等の要請が無いよう、特に以下の項目については過剰に良く見せないよう、正確な情報を記載する必要があります。
- 安全性に資する事項
- 商品や販売業者に関与する国、地方公共団体その他著名な法人・団体や著名な個人の関与
- 商品の原産地・製造地、商標、製造者名
- その他、商品の性能などに関する事項で、取引をするかどうかの判断に影響を与えるもの
なお、上記事項について何も表示しないことによって消費者が誤認するような状況であれば、それも「過剰に良く見せた」と判断されて出品削除の対象になる可能性がありますので気を付けてください。また、取引DPFの利用規約に従うことも大事です。
② 取引DPF提供者に対して、販売業者についての正確な情報を提供する。
出品削除要請が可能なのは、販売業者に連絡が取れないなど販売業者自身が商品表示を訂正することが期待できない場合に限られます。いきなり出品削除されることを防ぐためにも、販売業者の正しい連絡先が取引DPF提供者にわかるようにしておきましょう。
③ 取引DPF提供者による意見聴取にはきちんと対応する
消費者から取引DPF提供者に対して、販売業者の情報開示請求があると、まずは販売業者の意見が聴取されることになっています。
意見聴取の手段として、「販売業者等情報開示に係る意見照会書」といった通知が使われることがありますが、この通知が届いた場合には、無視せずきちんと回答する必要があります。
なぜなら、取引DPF提供者は、消費者の主張と販売業者の意見を踏まえて、情報開示すべきか否かを判断するからです。
回答しなかった場合は、回答しなかったという事実も踏まえて情報開示の是非が判断されることになります。
販売業者が情報開示に同意しない場合は、できるだけその理由(消費者が販売業者に対して損害賠償請求権を有しない理由等)も具体的に書いて説得力を持たせましょう。
4. 上手にウェブ上で取引を!
取引DPF消費者保護法は、取引DPF提供者全体を対象とした初めての国内法です。
取引DPF提供者に対する規制は現段階では強力なものではないかもしれませんが、今後の状況によっては規制が強化される可能性があります。そうなると、販売業者への影響もますます強まります。
コロナ禍がなかなか収まらず、ビジネスにもインターネットモールが無くてはならない時代。「そんな規制知らなかった」で出品削除などされないよう、上手に取引DPFを活用していきましょう。
※上記記事は、本記事作成時点における法律・裁判例等に基づくものとなります。また、本記事の作成者の私見等を多分に含むものであり、内容の正確性を必ずしも保証するものではありませんので、ご了承ください。