誤振込と法律

1. はじめに

先日、ある自治体が新型コロナウイルスに関連する給付金の振込について、1世帯に463世帯分の給付金を誤って振り込んでしまうという事件が起きました。

金額が大きかったことと、受け取った人が返金を拒否していることからかなりセンセーショナルな事件として取り上げられています。

当事務所でも個人の方や企業様を問わず誤って振込をしてしまったというご相談が稀にありますが、改めてこの事件に関連して誤振込をしてしまった場合の法律のお話をさせていただこうと思います。

2. 誤振込をした場合の対処法

(1) まず、誤振込とは送金先を誤って送金をしてしまうことを言います。

誤った送金先に着金する前であれば、手続きを取消してもらうことができるかもしれませんが、着金してしまった後は別の手続きを取る必要が出てきます。

(2) 組戻しによる返金

誤振込してしまった場合にお金を取り戻す方法として最初に考えられるのが、「組戻し」の手続きです。

組戻しとは、振込手続き完了後に、依頼内容に誤りがある場合や振込を取消したい等、振込を依頼した人のご都合でその振込を取り消すための手続きのことです。

この手続きは、受取人の同意を得た上で返金する手続きになりますので、上記の事件のように受取人が拒否している場合には返金を受けることができません。

(3) 訴訟手続による返金

組戻しの手続きによって返金を受けることができなかった場合、相手方から強制的にお金を返してもらうためには、不当利得等を理由として返金請求を行い、判決を得た上で受取人の財産に対して差押え等の強制執行手続きを取る必要があります。

(4) 強制執行によって返金は実現するのか?

強制執行手続きは相手方の財産に対して行っていく手続きになります。そのため、返金を拒否している受取人の預金にお金が入っていなかったり、その人が所有する不動産に抵当権が付いていたりすると、強制執行手続きを取ったとしても判決で認められた金額の全額を回収することができない場合があります。

3. 誤振込されたお金を返さないことは犯罪にならないのか

最高裁判所平成15年3月12日決定では、誤振込を受けた人がそのことを知りながら払い戻しの手続きを行った事案について、

「誤った振込みがあることを知った受取人が、その情を秘して預金の払戻しを請求することは、詐欺罪の欺罔行為に当たり、また、誤った振込みの有無に関する錯誤は同罪の錯誤に当たるというべきであるから、錯誤に陥った銀行窓口係員から受取人が預金の払戻しを受けた場合には、詐欺罪が成立する」

と判断しており、誤って振り込まれたものであることを知って払い戻しの請求をすると詐欺罪が成立する可能性があります。

また、窓口での払戻手続ではなくネットバンキングを使った送金やATMからの出金についても電子計算機使用詐欺罪や窃盗罪が成立する可能性もあります。

4. まとめ

上述のとおり、誤振込を受けた預金を引き出す行為は刑事上の犯罪が成立する可能性がありますので、誤振込を受けた方はすぐに返金することをおすすめいたします。

民事上の責任に関しては、誤振込を受けた預金はあくまでも受取人のものではありませんので、裁判を行えば誤振込を受けたお金を返金せよという内容の判決が出る可能性が高いと思います。

しかし、その一方で、判決を得ても相手方が任意に返金に応じてくれず、財産がないため強制執行をしても回収できないというパターンも十分に考えられます。

そのため、結局は誤振込をしないことが一番ですので、高額な振込をされる際は重々注意をしていただく必要があります。

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文責:弁護士 加藤貴紀

※上記記事は、本記事作成時点における法律・裁判例等に基づくものとなります。また、本記事の作成者の私見等を多分に含むものであり、内容の正確性を必ずしも保証するものではありませんので、ご了承ください。