労災の発生を隠すと会社と労働者にどのような影響が?

労働災害は、働いている方であれば誰もが遭遇する可能性がありますし、会社側が労働災害に関する問題に直面する場面も多いです。そこで本日は、労働災害の中から、いわゆる労災隠しと労災隠しが会社と労働者に与える影響についてお話しさせていただきます。

1. 労働災害とは?

そもそも労働災害とは、労働者の業務上または通勤途上の負傷・疾病・障害・死亡のことをいい、大きく「業務災害」と「通勤災害」の二つに分けることができます。

「業務災害」とは、業務が原因となって発生した事故による負傷・疾病・障害・死亡のことをいい、「業務災害」として認められるには、「業務遂行性」が認められることを前提に、「業務起因性」が認められることが必要となります。

簡単に言いますと、仕事中に発生したケガ・病気で、仕事がケガ・病気の原因になったかどうかというのが「業務災害」として認められるためのポイントとなります。

他方、「通勤災害」は、労働者の通勤に伴う負傷・疾病・障害・死亡のことを言います。

2. 労災隠しとは?

(1) 労働災害が発生した場合の事業主の義務

事業主は、労災事故が発生した場合、労働安全衛生法第100条及び同法施行規則第97条に基づいて、現場の状況や被災状況などを「労働者死傷病報告」によって、所轄労働基準監督署長に報告することが義務づけられています。

(2) 労災隠しの一例

労災隠しとは、事業主が、労災事故の発生を隠すために、死傷病報告の届出を行わなかったり、虚偽の内容で届出を行ったりすることを言います。

労災隠しの一例

  • 労働基準監督署への死傷病報告の届出を行わない
  • 労災事故の発生状況や発生場所を偽って届け出る
  • 建設現場の労災事故を「下請業者の労災事故」として届け出る

3. 労災隠しが会社に与える影響

(1) 労災隠しは犯罪行為となります!

会社が労災隠しを行った場合、労働安全衛生法120条に基づいて、50万円以下の罰金となる可能性があります。労災隠しが犯罪行為に該当する可能性があることに会社は注意が必要です。厚生労働省のHPでも、労災隠しが犯罪であることが周知され、労働者に労働基準監督署への相談を呼び掛けています。

(2) 労災保険が使用できないことによる会社側のデメリット!

会社が労災隠しを行ったことが原因で労災保険を使用しなかった場合は、労災保険から労働者に対して治療費や休業損害の一部などのお金が支払われることは通常ありません。そのため、治療費や休業損害の一部などについて会社が労働者から直接請求を受け、会社が全額を負担する可能性があります。

また、会社は労働者から、労災支給による既払いがなく、かつ、労働基準監督署による残存した後遺症に関する公的な判断もない状況で過剰な賠償請求を求められることもあり、紛争が長期化・複雑化することがあります。

4. 労災隠しが労働者に与える影響

労災保険を使用していないことから、労災保険から労働者に対して治療費や休業損害の一部などのお金が支払われることは原則としてありません。

また、通常労災保険を使用して治療を継続し、最終的に何らかの後遺症が残ってしまった場合は、労働基準監督署が、その残存した後遺症が労災保険上の後遺障害に該当するかについて公的な判断をおこなうこととなりますが、労災保険を使用しなかった場合は、残存した後遺症に関する労働基準監督署の公的な判断を受けることが出来ず、残存した後遺症に対する給付も受けることが出来ません。

5. 最後に

以上のように、労災隠しは会社に罰金などのリスクがあるだけでなく、その後の紛争の長期化や複雑化を招く要因にもなり得ます。会社も労働者も安易に労災隠しを行うべきではありません。

労災問題についてはその他にも様々な問題が発生することがあります。労災問題についてお困りの際は、出来るだけ早く一度弁護士などの専門家にご相談されることをおすすめいたします。

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文責:弁護士 松本達也

※上記記事は、本記事作成時点における法律・裁判例等に基づくものとなります。また、本記事の作成者の私見等を多分に含むものであり、内容の正確性を必ずしも保証するものではありませんので、ご了承ください。