1.デューデリジェンスとは
そもそも、デューデリジェンス(以下、「DD」と言います。)とは、企業がM&Aや合併等を行う際に、対象となる会社の企業価値や法的なリスク等を把握するために行われる調査のことで、調査結果を元に実際にM&A等を実施するのか、あるいは具体的な取引の内容をどのようにするのかという点を検討していくことになります。
DDは、公認会計士や弁護士等の専門家が様々な視点から対象企業を調査するもので、一般的には、公認会計士が主体となって財務・税務部門を調査する財務・税務DDを行うことが多いのではないかと思います。
その他にも、法務DDや不動産DD、ビジネスDD等様々なものがあります。
では、法務DDでは実際にどのようなことを調査するのでしょうか。
とても簡単に言うと、対象となる企業を買収する際に法的なリスクが潜んでいないかを調査することです。
以下、典型的なポイントをご説明させていただきます。
2.実際の株主は違う人?
会社法上、株券発行会社においては、株式を譲渡する際に、会社が発行した株券を実際に買主に交付しなければ株式譲渡が有効にならないというルールになっています(会社法128条1項)。
しかし、実際には株式譲渡の約束をして金銭のやり取りをして終わり、という会社も中にはあります。
そうすると、会社が設立されてから現在まで何度も株式譲渡が行われてきたものの、株券の交付が無いためにそれらは全て無効となり、現在株主であると考えられていた株主が実は株主ではなかったということもありえます。
その様な場合には、株券交付をやり直しやM&Aの具体的な方法の変更等を検討する必要があります。
3.決算書には現れない簿外債務の存在
決算書上表れている債務が会社の負っている全ての債務とは限りません。
では、決算書上表れない債務とはどのようなものでしょうか。一般的に法務DDで最も問題になるものは、未払時間外手当(残業代)です。
固定残業代制度や管理監督者制度、裁量労働制等の制度を採用しているため残業代はないと言われている場合であっても、それらの制度が法的に有効でない場合も往々にしてあります。
そうすると、実際に残業代の計算を行ってみると思っていたよりも高額な未払時間外手当が潜在的に認められ、実際の会社の資産価値に影響を及ぼすこともありえます。
4.COC条項
COC条項とは、チェンジ・オブ・コントロール条項の略で、M&A等を理由として一方当事者に支配権の変更があった場合に相手方が契約を解除する権限を認める条項になります。
重要な契約にCOC条項が付いている場合、M&A等の後にその契約を維持していくことができなくなるというリスクがつきまとってしまいます。
そのため、法務DDでは、契約書のチェックを通してCOC条項の有無が無いかを確認し、COC条項がある場合にはM&A等の前にフォローする必要があります。
今回は法務DDを行う上で一部のリスク等をご紹介させて頂きました。
実際には法務DDで行う調査の範囲は多岐にわたり、他にも重要な点はいくつもあります。
M&A等をしたものの、考えてもいなかった法的なリスクが後で出てきてしまったということをできるだけ防ぐために、M&A等をされる際には法務DDを入れて法的なリスクの調査を行うことをおすすめいたします。
※上記記事は、本記事作成時点における法律・裁判例等に基づくものとなります。また、本記事の作成者の私見等を多分に含むものであり、内容の正確性を必ずしも保証するものではありませんので、ご了承ください。