交通事故と企業リスク

昨今交通事故による痛ましい事件が増えています。

先日発表された、平成30年の交通事故の概況に関する警察庁の発表によれば、死亡事故件数は年々減少しているものの、高齢者(75歳以上、80歳以上)が加害者となる死亡事故が増加しており、また携帯電話使用による事故が増えていることが特徴だそうです。

自動運転の普及により、交通事故自体は今後も減少していくものと考えられますが、一方で、一瞬の不注意により万が一交通事故の加害者となってしまった場合、大きな刑事上、民事上の責任を負う可能性があります。今回は、交通事故と企業リスクについてもう一度整理したいと思います。

1.従業員が交通事故の加害者となった場合の会社の責任

従業員が交通事故の加害者となり、万が一相手方が死亡してしまったり重大な後遺障害が残ってしまった場合、数千万円という損害賠償を請求される可能性があります。

請求されるのは、直接の加害者である当該従業員ですが、以下の場合は会社も損害賠償責任を負う可能性があります。

車が会社の所有である場合

自動車損害賠償保障法上(以下「自賠法」といいます。)、運転していた本人のみならず、「自己のために自動車を運行の用に供する者」(法律用語で「運行供用者」といいます。)も損害賠償責任を負うものと定められています(自賠法3条)。

そして、自動車の「保有者」は運行供用者とされており、「保有者」には自動車の所有者も含まれるとされています(自賠法2条第3項)。

つまり、会社の所有する車が事故を引き起こした場合、従業員が会社に無断で車を使用した等の特段の場合を除いて、会社が運行供用者責任として損害賠償責任を負う可能性が高いことになります。

勤務中の事故である場合

民法上「ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。」(民歩715条第1項)とされています。

これを「使用者責任」といい、交通事故の場合も例外ではありません。

つまり、従業員が業務中に交通事故を起こした場合、会社が使用者責任として損害賠償責任を負う可能性が高いことになります。

2.予防策

上のように会社が責任を負うリスクに備えて、自動車保険(任意保険)に加入することが通常ですし、一番有効な対策方法だと考えます。

契約期間切れや免責の内容(保険金が支払われない場合)については十分に注意しておく必要があるでしょう。

3.マイカー通勤中の交通事故と会社の責任

通勤中に従業員がマイカーで事故を起こした場合については、使用者責任を認める裁判例も否定した裁判例もあります。

裁判例を分析すると、会社がマイカー通勤を容認している場合には会社の責任が肯定されやすい傾向にあります。

明確に容認をしていなくても、駐車場を提供していたり、ガソリン代を手当として支給したりしていた場合に、会社の責任が認められたケースがあります。

会社の立地、アクセスにもよりますが、交通事故によるリスクを最小化するためには、勤務中の車利用、マイカー通勤を文書等形に残るようにして明確に禁止することが有効です。

もし、マイカー通勤を容認する場合には、当該マイカーの任意保険への加入を徹底しなければならないでしょう。

自転車での通勤も同様です。すなわち、通勤中に従業員が自転車で事故を起こした場合であっても、会社が自転車通勤を容認していた場合には、使用者責任を負う可能性があります。

自転車への任意保険の加入は近年広く普及し始めていますが、まだまだ未加入である例も散見されますので、特に注意が必要です。

4.おわりに

なお、仮に会社の責任が認められ、会社が被害者に損害賠償金を支払った場合、今度は会社から事故を起こした従業員に損害賠償請求(求償)が出来るかという問題もあります。

ケースバイケースですが、満額の求償はできず、一部制限される例が実務上多いです。

交通事故は一瞬の不注意が大きなリスクにつながりかねず、特に予防が必要な類型です。少しでも不明点等がございましたらお気軽に当事務所までお問い合わせください。

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文責:弁護士 粟津正博

※上記記事は、本記事作成時点における法律・裁判例等に基づくものとなります。また、本記事の作成者の私見等を多分に含むものであり、内容の正確性を必ずしも保証するものではありませんので、ご了承ください。