「リハビリ勤務」の活用と注意点

最近、「リハビリ勤務」に関するご相談をお受けする機会が増えてきております。そこで、今回は、「リハビリ勤務」の上手な活用法と注意点について、ご紹介させていただきます。

1.「リハビリ勤務」の活用

「リハビリ勤務」とは、一般的にうつ病などの精神疾患や重い病気や怪我により、しばらくの間休職していた社員を、職場復帰するに際して、試行勤務させることを言います。

(明確な規定の有無を問わなければ)リハビリ勤務の制度自体を置く会社は少なくないと思われます。もっとも、その実態は多様であり、法的なルールも明確ではないことから、実務上は各社が手探りで運用している状況ではないでしょうか。

実は、リハビリ勤務については、企業にとって、より早い段階で職場復帰の試みを開始することができ、早期の職場復帰に結び付けられることや、労働者にとっても職場復帰の準備ができることで不安解消につながるということで、厚生労働省も推奨しています。

厚生労働省が発表している「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き(平成21年3月改訂)」(以下「手引き」と言います。)によると、「試し出勤制度等」として、以下のような具体例が挙げられております。

試し出勤制度等の具体例

  • ①模擬出勤:職場復帰前に、通常の勤務時間と同様な時間帯において、短時間又は通常の勤務時間で、デイケア等で模擬的な軽作業やグループミーティングを行ったり、図書館などで時間を過ごす。
  • ②通勤訓練:職場復帰前に、労働者の自宅から職場の近くまで通常の出勤経路で移動を行い、そのまま又は職場付近で一定時間を過ごした後に帰宅する。
  • ③試し出勤制度:職場復帰前に、職場復帰の判断等を目的として、本来の職場などに試験的に一定期間継続して出勤する。

企業の状況や職務の内容、労働者の病状等に応じて、これらの制度を上手く取り入れると、企業にとっても従業員にとっても、職場復帰に向けてよい方向に進むのではないでしょうか。

2.「リハビリ勤務」の注意点

もっとも、手引きによりますと、「ただし、この制度の導入に当たっては、この間の処遇や災害が発生した場合の対応、人事労務管理上の位置づけ等について、あらかじめ労使間で十分に検討しておくとともに、一定のルールを定めておく必要がある。なお、作業について使用者が指示を与えたり、作業内容が業務(職務)に当たる場合などには、労働基準法等が適用される場合があることや賃金等について合理的な処遇を行うべきことに留意する必要がある。」と指摘されています。

分かりやすく言いますと、企業としては、あくまでも『リハビリ』であるから、業務ではないと考えていても、場合によっては、業務に該当するとして、賃金の支払い等の義務が発生したり、事故が発生した場合に労災の適用があるので注意をしなければならない、ということになります。上記の具体例①②であれば、『業務』となる可能性は高くないでしょうが、③の場合には、『業務』とされる可能性は十分に出てきます。実際に、リハビリ勤務が業務に該当するかが争われた裁判もあります(名古屋地裁平成29年3月28日判決)。

企業としては、仮に、リハビリ勤務として上記③のような制度を設ける場合には、裁判による敗訴リスクを考慮し、就業規則で、リハビリ勤務については、業務であると考えて、正規の基本給よりも減額した賃金を支払う旨を定めておくことも1つの方法かと思われます。

もっとも、リハビリ勤務が業務であるということになり、賃金が発生すると、健康保険から支給されていた傷病手当が終了するため、社員の側でも、リハビリ勤務を業務として扱うことを望まない人もいると思います。

今後、リハビリ勤務について、国が何らかの法整備を行っていく可能性はありますが、企業内において、労使が十分に協議をして、リハビリ勤務についての何らかのルールを定めておく必要があると思います。とりわけ、我が国では精神疾患による休職が増加する傾向にあることを考えると、リハビリ勤務に関して、早急に社内でルール化する必要性は高いと考えています。

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文責:弁護士 前田徹

※上記記事は、本記事作成時点における法律・裁判例等に基づくものとなります。また、本記事の作成者の私見等を多分に含むものであり、内容の正確性を必ずしも保証するものではありませんので、ご了承ください。