小林製薬の法的責任は?製造物責任法との関連性を弁護士が解説

目次

1. はじめに:紅麹関連製品の使用中止のお願いと自主回収のお知らせ

令和6年3月22日、大手製薬会社の小林製薬株式会社は「紅麹関連製品の使用中止のお願いと自主回収のお知らせ」を発表しました。

同社のサプリメント等を摂取した消費者が腎疾患などを発症したとして、健康被害が報告されています。同社が販売製品や製品中の紅麹原料を分析したところ、一部の原料に意図しない成分が含有されている可能性があることがわかりました。

現在は当該成分がどのようなものなのか、健康被害との関連性や因果関係の有無は明らかになっていないということです。

今回は弁護士の川田啓介が、小林製薬の民事上の法的責任を解説します。

2. 事案の概要

機能性表示食品「紅麹コレステヘルプ」を摂取した消費者が腎疾患などの健康被害を訴えているとの報告を元に、相次ぐ健康被害報告に関して原因の究明を急ぐとともに、健康被害拡大を防止する目的で、小林製薬は紅麹関連製品の自主回収を発表しました。

3. 問題となりうる民事上の法的責任

現在、健康被害の原因については調査中とのことです。では、今後予想される小林製薬の民事上の法的責任にはどのようなものがあるでしょうか?

サプリメントなどの健康食品を服用して健康被害が発生したときは、製造物責任が発生することがあります。

製造物責任法は、製造物の欠陥によって生命、身体または他の財産に損害を被った場合に、被害者が製造者等に対して損害賠償を求めることができることを規定した法律です。

この法律は、民法上の不法行為責任(民法709条)の特則です。

4. 製造物責任法のルール

民法の不法行為による損害賠償請求は、請求者が加害者側の故意や過失を証明する必要があります。

これに対して、製造物責任法による損害賠償請求は、製造事業者等に無過失責任を負わせています。過失の有無にかかわらず製造事業者等が責任を負うことがあります。

製造物責任法3条の規定は次のとおりです。

製造業者等は、その製造、加工、輸入又は前条第三項第二号若しくは第三号の氏名等の表示をした製造物であって、その引き渡したものの欠陥により他人の生命、身体又は財産を侵害したときは、これによって生じた損害を賠償する責めに任ずる。(製造物責任法3条

製造物責任法3条

製造物責任法による請求の要件

製造物責任が認められるためには、次の3点が原則必要です。

  1. 製造者等であること
  2. 製造物に欠陥があること
  3. 欠陥と損害との間の因果関係があること

ここにいう「欠陥」は「当該製造物の特性、その通常予見される使用形態、その製造業者等が当該製造物を引き渡した時期その他の当該製造物に係る事情を考慮して、当該製造物が通常有すべき安全性を欠いていることをいう」ことです。(製造物責任法2条2項

そのため、製品に通常有すべき安全性がなく、因果関係などの諸般の要件を充足するような場合、小林製薬は製造物責任法に基づく損害賠償責任を負う可能性があります。

製造物責任法2条2項

5. 過去の具体的な裁判例

製造物責任法が問題となった過去の具体的な裁判例を2つご紹介します。

ジュースに混入した異物でけがをした事例

(事案)

  • 原告は被告ファストフード店の製造したハンバーガーセットを注文し、ジュースを飲んだところガラス片のようなものがのどに刺さるような感覚を覚えた。
  • 原告は病院を受診して「咽頭出血」と診断された。
  • 原告は製造物責任法に基づき損害賠償請求をした。
    (名古屋地方裁判所平成11年6月30日判決)

(判決)

製造工程からすると、コンクジュースをオレンジジュースマシン内の容器に入れる際や、保存庫から氷をすくう際などに、異物が混入する可能性は否定できない…。

そして、本件ジュースに、それを飲んだ人の喉に傷害を負わせるような異物が混入していたということは、ジュースが通常有すべき安全性を欠いていたということであるから、本件ジュースには製造物責任法上の「欠陥」があると認められる

中国製塩蔵マッシュルームを原料とする食品と有害物質の事例

(事案)

  • 被告は、中国在住のAが製造した塩蔵マッシュルームを輸入し、Bに販売した。
  • Bはこれを原料としたマッシュルームスライス等を販売したところ、異臭がするとの苦情を受け、出荷製品の回収等を行った。
  • Bに保険金を支払った保険会社である原告は、製造物責任法等に基づき損害賠償請求をした。
    (東京地方裁判所平成25年12月5日判決)

(判決)

食品は人間の生命、健康保持に必要な栄養を支える物質として人間の生存にとって必要不可欠なものであり、消費者は食品の安全性を信頼して購入、利用するものであることに鑑みれば、食品には人体に対する十分な安全性が要求されるものといえる。
…そうであるから、このような異臭を発生させた食品の原料であり、異臭の発生原因であるクロロフェノール類を生成する前駆物質であるフェノール類が付着したA製造の塩蔵マッシュルームには、人体に対する十分な安全性が欠けていたものといわざるを得ない。

6. まとめ:製造物責任法の法的リスクは弁護士に相談

国内大手の製薬会社の製品にまつわる健康被害ということで、今回の事件は社会的注目が集まっています。

関連性や因果関係は明らかにされていないため、製造物責任法に基づく責任があるか現段階では不明です。

もっとも、一般的に、製造した商品を販売する業者には、製造物責任法が適用されることがあります。

いかなる場合にどのような法的責任が生じるかのリスクは、弁護士等の法律専門家に相談するなど、あらかじめ確認しておくことをおすすめします。

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監修者:弁護士 川田啓介

※上記記事は、本記事作成時点における法律・裁判例等に基づくものとなります。また、本記事の作成者の私見等を多分に含むものであり、内容の正確性を必ずしも保証するものではありませんので、ご了承ください。