26歳勤務医の自殺を労災認定、直近の認定基準の改定も弁護士が解説

目次

事案の概要

2022年5月、神戸市内の病院に勤務していた当時26歳の勤務医が自殺したことにつき、今年2023年になって労働基準監督署が労災認定をしました。

自殺した男性は3年ほど同病院で勤務しており、自殺したことにつき病院側は「医師は病院にいる間自己研鑽の時間を取っていることも多々あり、病院としては過重な労働をさせていた認識はない」旨主張していました。

第三者委員会の調査によれば、1か月前の時間外労働は207時間にも及んでおり、平均的に長時間労働の実態があったとのことです。

厚生労働省は、過労死との関連性が強いとされる時間外労働は発症前1か月に100時間以上、または発症前2~6か月の平均が80時間以上としていますので、基準の倍以上の時間時間外労働をしていた計算になります。

法律上の問題点

一般論として、労働者の労働時間に関しては労働基準法が規定しています。

具体的には、1日の労働時間を8時間まで、週でいうと40時間までとし、これを超過した時間外労働をさせる場合には、いわゆる36協定を労使間で合意し労基署に届け出る必要があります。

そして、時間外労働に従事させた場合には、使用者側に割増賃金を支払う義務が発生します。

労働時間は「使用者の指揮命令下に置かれている時間」を指しますが、医師の自己研鑽の時間については学会の参加や論文の執筆など、必ずしも業務上必要とはいえず、上司の命令のないような活動については労働時間に該当しないと判断されることもあり、法的な争点になることが多いです。

また、うつ病を発症した場合や、今回取り上げた事例のように仕事のストレスで自殺をした場合にはそれが業務に起因するものなのかが争いになることも多いです。

精神障害の労災認定基準において、業務上の疾病と認定されるためには、以下の3つの要件を満たすことが必要です。

  1. ① 認定基準の対象となる精神障害を発病していること
  2. ② 認定基準の対象となる精神障害の発病前おおむね6か月の間に、業務による強い心理的負荷が認められること
  3. ③ 業務以外の心理的負荷及び個体側要因により発病したとは認められないこと

2023年9月1日に精神障害の労災認定基準について、昨今の社会情勢や労働者の労働実態などを踏まえて改正が行われました。

大きく分けて見直されたポイントは3つです。

1. 業務による心理的負荷(ストレス)評価表の見直し

②に関しては、どのような出来事があり、また、その後の状況がどのようなものであったのかを具体的に把握し、それらによる心理的負荷の強度はどの程度であるかについて、「業務による心理的負荷評価表」というものがあります。

負荷の強度に応じて「弱」「中」「強」の3段階の区分に分けられています。

今回は具体的な出来事を明確にするなど、以下のような改正がなされました。

  • 具体的出来事として「顧客や取引先、施設利用者等から著しい迷惑行為を受けた」(いわゆるカスハラ)を追加
  • 具体的出来事として「感染症等の病気や事故の危険性が高い業務に従事した」を追加
  • 心理的負荷の強度が「弱」「中」「強」となる具体例をパワハラの6類型すべてにつき明記など拡充

2. 精神障害悪化の労災認定が認められる範囲の見直し

従前

業務外で既に発病していた精神障害の悪化前おおむね6か月以内に「特別な出来事」(特に強い心理的負荷となる出来事)がなければ業務と悪化との間の因果関係を認めていませんでした。

改正後

業務外既に発病していた精神障害の悪化前おおむね6か月以内に「特別な出来事」がない場合でも、「業務による強い心理的負荷」により悪化したときには、悪化した部分について業務起因性を認めることになりました。

3. 医学意見の収集方法の見直し

労災認定において、専門医3名の合議により決定していた事案について、特に困難なものを除き1名の意見で決定できるよう変更し、迅速な労災決定に資する改正がなされました。

まとめ

今回は、勤務医の自殺というショッキングな内容のニュースについて、関連する労働法規の運用も含めて解説しました。

労災認定基準の改定など、社会情勢を背景に改訂されることもあるため、近時動向についてはこまめに確認する必要があります。

労働時間の法規制や労基法関係の問題点については、専門的な知識が必要なことも多く、労使双方に大きな影響があることが多いです。

このような問題点について気になる点や不明点がございましたら、法律専門家である弁護士に相談することをおすすめします。

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文責:弁護士 川田啓介

※上記記事は、本記事作成時点における法律・裁判例等に基づくものとなります。また、本記事の作成者の私見等を多分に含むものであり、内容の正確性を必ずしも保証するものではありませんので、ご了承ください。