業務用構内専用車の一般自動車保険契約につき保険代理店に説明義務違反はないとされた裁判例を解説します。(平成29年4月26日東京地方裁判所判決)
①労災事故免責の点、②自賠責保険部分を担保しない点についてのトラブル事例です。
目次
事案の概要
保険契約の内容
- 対象となる車両は構内作業用のアースドリル機です。自賠責保険への強制加入義務はありません。
- 顧客企業が保険代理店経由で一般自動車保険契約を締結しました。
- 労災事故の被害は担保しない特約がありました。
- 自賠責保険で担保すべき金額は担保しない特約がありました。
事故の内容
アースドリル機が絡む労災事故が千葉県柏市で発生しました。
具体的には、顧客企業の下請人がアースドリル機を運転中に操作を誤り、近くにいた顧客企業の別の下請人を死亡させる労災事故が発生しました。
事故後の経緯
- 保険会社は労災事故であり免責事由に当たると一切の支払を拒否しました。
- 顧客企業が保険代理店に対して、説明義務違反を理由とする不法行為(民法第709条)に基づく損害賠償請求訴訟を提起しました。(請求額は約5000万円。遺族の損害額相当額)
- 顧客企業が保険会社に対して、保険業法第283条に基づく損害賠償請求訴訟を提起しました。(請求額約5000万円。遺族の損害額相当額)
参考情報 民法第709条
故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
参考条文 保険業法第283条第1項
所属保険会社等は、保険募集人が保険募集について保険契約者に加えた損害を賠償する責任を負う。
裁判所の判断(結論)
- 保険代理店に説明義務違反はない。
- 保険代理店
- 保険代理店・保険会社共に責任はなく、損害賠償義務もない。
- 顧客企業の全ての請求を認めない。
裁判所の判断(理由)
保険内容は顧客企業自らが判断すべきであることを前提に、保険代理店が労災保険・自賠責保険につき免責等の説明を行っていると判断しました。理由の要点は次の通りです。
保険内容は顧客企業自らが判断すべきであること
理由①
どのような内容の保険契約を締結するかは、顧客企業がその契約目的に応じて自己の意思と責任において判断すべきものである。
理由②
代理店の説明義務は特段の事情がない限り、各保険契約の内容を誤りなく顧客企業に理解させるのに必要な程度にとどまる。
理由③
顧客企業の契約目的に照らして加入しようとしている保険が不適合である場合に、契約者の誤解を解消するための説明をすることは、営業上の配慮にとどまる。
説明がされていたと評価できること
理由①
顧客企業が同一内容の保険契約を少なくとも5回更新し、その過程で代理店から免責条項が記載された重要事項説明書及び約款の交付による情報提供を継続的に受けてきた。
理由②
顧客企業が約20年にわたって、アースドリル機を対象として本件保険と同一ではないものの同種の一般用自動車保険に加入していたため、免責条項の内容を認識することができた。
労災事故の損害は担保しない旨の免責条項の説明がされていたこと
理由①
約款・重要事項説明書・保険証券を継続的に顧客企業は受け取っていた。
理由②
顧客企業には労災保険への加入が義務付けられている。
理由③
必要に応じて労災上乗せ保険で対応する方法がある。
理由④
顧客企業の下請人が被害者の場合に保険が適用されるかどうか代理店は質問を受けたことはない。
自賠責保険で担保すべき金額については担保しない旨の特約の説明されていたこと
理由①
約款・重要事項説明書・保険証券を継続的に顧客企業は受け取っていた。
理由②
事故車両と別のアースドリル機に顧客企業が自賠責保険を掛けたことがある。
説明義務違反にならないようにするための注意点
では、保険代理店が説明義務違反を指摘されないようにするにはどうすればよいでしょうか?
特に次のような点に注意して日々の業務を行うのが望ましいでしょう。
- 裁判は「論より証拠」です。保険証券・約款・重要事項説明書を交付していたり、契約内容を説明をしていたりすることがわかる証拠を残しておきましょう。「言った言わないの争い」は不毛です。
- 「万が一〇〇の事故が発生した場合に保険は使えますか?」という事故前の相談は要注意です。間違った回答をしてしまうと後日説明義務違反の損害賠償請求の可能性があります。
- 事故の初動の段階で安易に「補償できる」と説明するとトラブルになる確率が上がります。まずは事故状況を正確に把握し、本当に保険適用になる事案か慎重に判断しましょう。
- 企業向け自動車保険の労災事故免責は顧客企業が理解していない場合もあります。特に丁寧な説明を心掛けましょう。
- 自動車保険について詳しくない方もいます。特に、自賠責保険と任意保険の区別が付いていない方もいます。自賠責保険分は任意保険では支払ができないことについて丁寧な説明を心掛けましょう。
まとめ
今回は保険代理店の説明義務違反が問題となった平成29年4月26日東京地方裁判所判決を解説しました。
裁判では結果的に保険代理店の説明義務違反は否定されましたが、保険代理店の説明義務違反は思わぬところで大問題となることがあります。
日々の業務で忙しいとは思いますが、決められたルールに沿った慎重・適切な対応を社員一丸で心掛けましょう。
※上記記事は、本記事作成時点における法律・裁判例等に基づくものとなります。また、本記事の作成者の私見等を多分に含むものであり、内容の正確性を必ずしも保証するものではありませんので、ご了承ください。