目次
1. はじめに
国が定めた所有者不明土地の利用の円滑化を図る方策として、別のブログでご紹介した土地建物の管理制度の創設以外に、共有制度、相続制度、相隣関係規定の見直しが行われ、これらに関連する民法の規定が令和5年4月1日から施行されることとなりました。
今回のブログでは、これらの制度についてご説明していきたいと思います。
2. 共有制度の見直し
(1) 制度の概要
民法上、共有状態にある不動産について、賃貸契約を締結したり、売却をしたりあるいは建物の解体をしたりするなど、民法上の管理行為や変更行為に該当するものについては共有者1人の判断では行うことができず、各共有者の持ち分の過半数で決したり全員の同意が必要となっています。
そのため、共有者で所在が不明な人がいてしまうと上記のような不動産の利用に関する意思決定をすることができませんでした。
今回の改正民法においては、裁判所の関与の下で、これらの不都合を解消することができる事となりました。具体的な内容は以下のとおりです。
(2) 共有物に変更を加える場合
民法上、共有物に変更を加える場合には、全共有者の同意が必要となります。この変更とは、不動産を売却したり建物を解体することが含まれます。
改正民法下においては、不明共有者等に対して公告等をした上で、残りの共有者の同意で、共有物の変更行為を行うことが可能となりました(民法251条2項、非訟事件手続法85条)。
(3) 共有物の管理行為
民法上、共有物について管理行為を行う際は各共有者の持ち分の過半数で決することが必要となります。
この管理行為とは、建物の改装や賃貸借契約の賃料の変更をすること(場合によっては変更行為とされる場合もあります。)が含まれます。
改正民法下においては、①共有者が誰なのかがわからない、あるいはその所在を知ることができない場合や、②相当の期間を定めて共有物の管理行為について賛否を明らかにするように催告したにも関わらず期間内に賛否を明らかにしない場合に、不明共有者に対して公告等をした上で、残りの共有者の持ち分の過半数で管理行為を行うことが可能となりました(民法252条2項、非訟事件手続法85条)。
(4) 共有物の分割
特定の共有者が誰かわからない、あるいはその所在がわからないという場合に、裁判所の関与の下で、その共有者の持ち分の価格に相当する額の金銭を供託することにより、その共有者の共有持分を取得することができるようになりました(民法262条の2、非訟事件手続法87条)。
(2)(3)の制度と同様、裁判所が一定の事項を公告して一定の期間が経過することが要件となっていますので、途中で不明になっていた共有者から異議が出た場合には持ち分の取得は認められません。
3. 相続制度の見直し
通常、遺産分割を行う際、実際に存在する遺産に加えて特別受益や寄与分を考慮して具体的な相続分を決定するということが行われることがしばしばあります。
具体的には、生前に生活の資本として金銭の贈与を受けていた相続人の取得分が少なくなったり、被相続人の財産の増加に寄与していたような相続人の取得分が多くなったりすることがあります。
そして、これまでは相続が始まったあと、いつ遺産分割を行ったとしてもこのような具体的な相続分の決め方をすることができました。
しかし、改正民法においては、相続開始から10年が経過したあとは、民法上の特別受益の規定、寄与分の規定が適用されなくなりました(民法904条の3)。
その結果として、相続開始から10年が経過したあとは法定相続分あるいは遺言によって指定された相続分によって分割を行うこととなりました。
(相続人の間で合意に基づいてこれに反する内容で遺産分割協議を行うことは問題ありません。)
このように改正された背景としては、長期間遺産分割が行われていない場合には、特別受益や寄与分に関する証拠等がなくなってしまっていることが多いと考えられるためです。
この改正により、未分割の状態にあった不動産の共有状態の解消が円滑に進む可能性が高まったといえます。
4. 相隣関係規定の見直し
(1) 隣地使用権のルールの見直し
境界調査や越境してきている竹木の枝の切取り等のために隣地を一時的に使用することができることが規定されました。
この規定は、原則として事前にその居住者への事前の通知と承諾を得ることが求められるのですが、隣地の所有者やその所在を調査しても分からない場合には、例外的に隣地を使用することができる仕組みが設けられました(民法209条)。
(2) ライフラインの設備の設置・使用権のルールの整備
電気ガス水道を利用するために他の土地に導管等の設備を設置しなければならない場合に、その他の土地に設備を設置したり他人の所有する設備を利用することができるようになりました(民法213条の2)。
また、あわせて事前の通知や償金の支払いなどのルールも規定されました。
(3) 越境した竹木の枝の切り取りのルールの見直し
これまでは、隣地の竹木の枝が越境してきたとしても、越境されている側の人が枝を切除することが法律上できませんでしたが、改正民法においては、次の場合には越境された土地の所有者が自らその枝を切り取ることができる仕組みが整備されました。
- ①相当の期間を定めて催促しても越境した枝が切除されない場合
- ②竹木の所有者やその所在を調査しても分からない場合
- ③急迫の事情があるとき
5. 最後に
国の方針として所有者の分からない土地等の不動産の利用を促すための法改正が様々行われます。ご不明な点がありましたらお気軽にお声がけください。
※上記記事は、本記事作成時点における法律・裁判例等に基づくものとなります。また、本記事の作成者の私見等を多分に含むものであり、内容の正確性を必ずしも保証するものではありませんので、ご了承ください。