令和5年の不動産に関する法改正① ~所有者不明土地建物・管理不全土地建物に関する管理制度~

目次

  1. はじめに
  2. 所有者が不明な土地・建物に関する財産管理制度の創設
  3. 所有者不明土地・建物の管理制度
  4. 管理不全の状態にある土地・建物の管理制度
  5. まとめ

1. はじめに

近年、人口の減少や高齢化、都市部への人口の集中等を背景として、利用されることもなく、またその所有者が誰なのかがわからないいわゆる所有者不明土地や管理されることなく放置されている土地建物がどんどん増加してきています。

このように所有者不明土地等が増えていくと、公共事業や復旧・復興事業が円滑に進まなかったり、民間取引や土地の利活用の阻害要因となってしまうことの他、土地が適切に管理されずに周囲への悪影響を及ぼしてしまう可能性が出てきます。

2. 所有者が不明な土地・建物に関する財産管理制度の創設

この所有者不明土地・建物等の問題に対応すべく、民法が改正されました(民法264条の2から14が新設)。その内容は、所有者が不明な土地建物や管理不全の状態にある土地建物に関して、利害関係人等の申立てに基づいて裁判所が管理人を選任し、その管理人がこれらの土地建物の管理を行うことができるようになるというもので、令和5年4月1日から制度が開始されます。

これらの管理制度を用いてどのようなことができるのかご説明していきます。

3. 所有者不明土地・建物の管理制度

まずはじめに、所有者が不明な土地・建物の管理制度についてみていきましょう。

(1) どのような財産が対象になるのか

調査を尽くしても所有者やその所在を知ることができない土地・建物が対象となります(マンション等の区分所有建物にはこの制度は適用されません。)。

より具体的には、相続登記がされていないこと等により以下の①②のいずれかの状態になっている土地を「所有者不明土地」とされています。

  • ①不動産登記簿等を参照しても、所有者が直ちに判明しない土地
  • ②所有者が判明しても、所有者に連絡がつかない土地

(2) 誰が申立てをすることができるのか

所有者不明土地・建物の管理について利害関係を有する利害関係人が不動産所在地の地方裁判所に申し立てることができます。

裁判所の個別具体的な判断によりますが、例えば公共事業の実施者等不動産の利用・取得を希望する人や、共有地における不明共有者以外の共有者等が利害関係人に当たると考えられています。

不動産の購入希望者については、その購入計画に具体性があり、土地の利用に利害があることが求められるようです。

(3) 管理人はどのような権限・義務を有しているのか

管理人は以下の権限や義務を有しています。

  • ①管理人は、保存・利用・改良行為を行うほか、裁判所の許可を得て対象の土地建物を売却したり取り壊したりすることができます。
  • ②土地建物に関連する訴訟において当事者となります。
    隣地との境界や通行権等の問題がある場合には当事者として訴訟を遂行することが考えられます。
  • ③管理人は、所有者に対して善管注意義務を負い、共有の土地・建物を管理する場合は、共有者全員のために誠実公平義務を負います。
  • ④管理人は、所有者不明土地を売却した代金や申立人が裁判所に収めた予納金等から、費用の前払・報酬を受けることができます。なお、費用・報酬は最終的には所有者の負担となります。

4. 管理不全の状態にある土地・建物の管理制度

次に所有者は判明しているけど管理が適切に行われていない土地・建物の管理に関する制度をみていきましょう。

(1) どのような財産が対象になるのか

所有者による管理が不適当であることによって、他人の権利・法的利益が侵害されまたはそのおそれのある土地・建物が対象となります。ただし、マンション等の区分所有建物にはこの制度は適用されません。

(2) 誰が申立てをすることができるのか

所有者による管理が不適当である土地・建物について利害関係を有する人が不動産所在地の地方裁判所に申立てをすることができます。

ひび割れや破損が生じている擁壁を土地所有者が放置していて、隣地に倒れてくる可能性がある場合や、不法投棄されたゴミを放置していて臭気や害虫発生による健康被害が生じているような場合にはその被害を受けている、あるいは受けそうな人が申立てをすることができます。

(3) 管理人はどのような権限・義務を有しているのか

管理人は以下の権限や義務を有しています。

  • ①管理人は、保存・利用・改良行為を行うほか、裁判所の許可を得て、これを超える行為をすることも可能です。ただし、所有者不明土地に関する管理人と異なり、裁判所の許可だけで土地・建物の処分をすることはできず、所有者の同意も必要となってきます。
  • ②管理処分権は管理人に専属せず、管理不全土地・建物等に関する訴訟においては、管理人ではなく所有者自身が当事者となります。
  • ③管理人は、所有者に対して善管注意義務を負い、共有の土地・建物を管理する場合は、共有者全員のために誠実公平義務を負います。
  • ④管理人は、管理不全土地や申立人が裁判所に収めた予納金等から、費用の前払・報酬を受けることができます。なお、費用・報酬は最終的には所有者の負担となります。

5. まとめ

所有者不明土地建物や管理不全土地建物に関する制度の制定により、これらの土地建物の利用が促進されていく可能性が高まりました。

どのような場合に制度を利用するべきか等ご相談がありましたらお気軽にお声がけください。

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文責:弁護士 加藤貴紀

※上記記事は、本記事作成時点における法律・裁判例等に基づくものとなります。また、本記事の作成者の私見等を多分に含むものであり、内容の正確性を必ずしも保証するものではありませんので、ご了承ください。