労働組合が会社の会議室の利用等を議題とする団体交渉を申し入れたところ、ある新聞社がこれを拒否したことについて、東京都労働委員会が不誠実な団体交渉にあたるとして団体交渉命令を発した事件が昨年ありました。
東京都の報道発表資料によると
事件の概要
東京都の報道発表資料によると、事件の概要は下記の通りです。
- 組合は、会社所管の施設設備等の貸与、会議室の利用、社内便の利用等を議題とする団体交渉を申し入れた。
なお、会社には別の多数組合が存在し、組合は少数組合にあたる。 - 組合と会社との間で団体交渉が開催されたが、会社は組合の要求を拒否した。
- 組合は、不当労働行為救済申立てを行った。
事件の経過
団体交渉における会社の対応が、不誠実な団体交渉に当たるか否かが争われました。東京都労働委員会は、会社は、組合が団体交渉を申し入れたときは、誠実に応じなければならないと救済命令を出しました。
判断理由の概要
判断理由の概要は、下記の通りです。
- 会社は、事前に検討して一定の結論を持っていたとしても、団体交渉で組合が示した内容を踏まえて再度検討したり、あるいは、組合に譲歩の余地等があってもなお応ずることができない合理的な理由を示して組合の理解を得るよう努力したりすべきであった。
- しかし会社は、組合が譲歩の余地を示したことを受けても、拒否する姿勢を変えず、持ち帰って検討することすら拒否した。
- 会社は拒否の理由について、抽象的な説明を繰り返すだけで、具体的な事情を何ら説明していなかった。
そのため、会社は組合の要求内容いかんにかかわらず、現段階では一切の対応を行わないとの姿勢を示したものとみられてもやむを得ないと判断されました。
その結果、団体交渉における会社の対応は、自らの考えについて具体的に説明し組合の理解を得ようとする努力や、合意達成の可能性を模索する努力を欠いているものとみざるを得ず、不誠実な団体交渉に当たるというべきであると判断されました。
団体交渉拒否(不当労働行為)とは?
労働組合法は、「不当労働行為」として、労働組合や使用者に対する会社の一定の行為を禁止しています(労組法7条)。
そして「団体交渉拒否」については、労働組合法7条2号が、「使用者は、次の各号に掲げる行為をしてはならない。」「使用者が雇用する労働者の代表者と団体交渉をすることを正当な理由がなくて拒むこと。」と定めています。
「団体交渉拒否」は、「正当な理由なく団体交渉を拒否した場合」や「誠実な団体交渉義務に違反した場合」に成立するとされています。
「正当な理由なく団体交渉を拒否した場合」とは、理由を何らあげない交渉拒否、正当でない理由を掲げての交渉拒否、義務的団交事項にもかかわらずそうではないと主張しての交渉拒否等が考えられます。
「誠実な団体交渉義務に違反した場合」とは、不誠実な交渉態度や、交渉が行き詰まる前に交渉打ち切ることが考えられます。
本件における会社の対応は、自らの考えについて具体的に説明し組合の理解を得ようとする努力や、合意達成の可能性を模索する努力を欠いていたため、不誠実な団体交渉に当たるとされました。
他の問題点について
なお本件は、「支配介入」という別の不当労働行為(労組法7条3号)も問題となりました。
後に組合が、他の多数組合との規模の差を踏まえた具体的な要求をしているにもかかわらず、合理的な理由を示さずにこれを拒否した対応は、中立保持義務に反し、支配介入に当たると判断されており、その点でも興味深い事件です。
最後に
労働組合より団体交渉の申し入れを受けた場合、慎重な対応が必要です。新聞社のような大企業でも対応を誤り、不当労働行為と認定されてしまう場合があります。
労働組合より団体交渉の申し入れがあった場合、必ず弁護士までご相談をいただければと思います。
※上記記事は、本記事作成時点における法律・裁判例等に基づくものとなります。また、本記事の作成者の私見等を多分に含むものであり、内容の正確性を必ずしも保証するものではありませんので、ご了承ください。