平成29年10月13日、東京地方裁判所は、プルデンシャル生命保険株式会社が行った懲戒解雇は無効と判断し、未払い給与(2年9カ月分)として、1億円強の支払を会社に命じました。
報道によると、①顧客への勧誘時に不実の説明を行った社員に対し、業務停止3日の懲戒処分を命じたが、②これに社員が応じなかったため、会社が懲戒解雇を行ったという事案につき、③社員が業務停止に服さなかったことにより、会社に見過ごすことができない損害が生じたとまでは認められないため、解雇は相当性を欠く、という旨の判断がなされたようです。
判決文自体は確認できていないため、上記ニュースの解説自体は行いませんが、以下、解雇(普通解雇・懲戒解雇)に潜む企業リスクについて、お話しさせていただきます。
1. 解雇に潜む企業リスク
(1)未払給与の支払い
解雇の効力が争われ、解雇が無効と判断されてしまった場合、対象従業員との雇用契約がずっと続いていることになります。しかも、この期間は、会社側の事情(本来解雇できないのに解雇として扱った)で欠勤させていたこととなり、その間の給与は、基本的にすべて支払わなくてはなりません。 上記ニュースのように、解雇が無効と判断され、高額の支払い命令が企業に出た例は少なくありません。
(2)企業イメージ低下
また、上記ニュースのように、無効な解雇を行ったという事実が報道されることにより、「無茶な解雇を行うようなブラック企業だ」などと、企業イメージが低下する危険があります。
(3)企業秩序の問題
解雇が無効と判断された場合、対象従業員との雇用契約が存続している以上、その従業員を復職させる必要があります。例えば、従業員の問題行動を理由に解雇を行った場合においては、その従業員が会社に戻ってくるという事態は、企業秩序の観点(他の従業員との関係等)からも望ましくはないでしょう。
2. 注意点
「どのような場合であれば解雇が有効か」という点は、ケースバイケースの判断になってくるため、個別の案件ごとに弁護士に相談いただくのが確実です。ただ、解雇を検討するにあたっての一般的な注意点を、3つ挙げてみました。
(1)解雇は簡単にはできない
解雇は、会社が従業員に対して行う処分のうち、最も重い処分です。裁判所も、「最も重い処分を科すほどの事情があるか」という点を、非常に厳しくチェックします。それ故、解雇が有効と認められるためのハードルは、一般的には、かなり高いと言えます。
(2)証拠が重要
従業員の横領を理由に解雇する場合等においては、証拠の有無が非常に大事です。裁判例の中には、対象となる従業員が横領を行ったことの証拠がない=横領行為を認定できないとして、解雇を無効としたものもあります。 会社側の主張する解雇事由を裏付ける証拠があるかという点は、解雇を選択する前の段階で、慎重に検討する必要があります。
(3)手続をきちんと踏む必要
懲戒解雇を選択する場合、従業員の言い分をしっかり聞く(弁明の機会を与える)等、適正な手続を踏む必要があります。
また、成績不良等を理由に普通解雇する場合であっても、解雇を選択する前に、しっかりと指導・注意等を行っていたか(これは(1)とも関わります)といった点も重要となってきます。
解雇が最も重い処分であるが故、それを実行するにあたっては、きちんとした手続を踏む必要があります。手続が不十分であったことを理由に、解雇が無効とされた例も少なくありません。
(3)おわりに
解雇という処分は、有効となるためのハードルが高いことに加え、無効とされた場合のリスクが非常に大きいため、選択する前の時点で、慎重な検討が必要となります。 従業員トラブルでお困りの際は、是非一度、弁護士にご相談ください。
※上記記事は、本記事作成時点における法律・裁判例等に基づくものとなります。また、本記事の作成者の私見等を多分に含むものであり、内容の正確性を必ずしも保証するものではありませんので、ご了承ください。