隣に比べてうちの家賃が高いんだけど?

同じ時期に相次いで同じ内容の相談を受けました。

「店舗を賃貸しているのだが、借主が近所のお店に家賃を聞いて回ったみたいで、『周りに比べてうちだけ坪単価が高い。下げてくれ。』と言ってきている。」

というものです。いずれも、賃貸借契約締結から1年以内の事案でした。


1.家賃の減額請求

法律上、家賃について、借主からの減額請求も貸主からの増額請求もできることになっています。

家賃の減額請求や増額請求が認められるかどうかの基準は借地借家法32条に書いてあります。次のとおりです。

  • A 税金その他の負担の増減
  • B 価格の上下その他の経済事情の変動
  • C 近傍同種の建物の家賃との比較

そうすると、今回の相談事案において、貸主は、Cを理由に借主からの家賃の減額請求に応じなければならないとも考えられますね。

2.直近合意時点からの事情の変動

ところが、家賃の増額・減額請求の制度は、契約で合意した家賃が安すぎたり高すぎたりするのではないかを審査して、安すぎたり高すぎたりする家賃を適正な金額にしてしまうという制度ではありません。

そうではなく、契約で合意した家賃が、契約後の事情の変動により適正でなくなったときは、増額したり減額したりすることができるようにするという制度です。家賃の金額を契約で決めてからの10年間で地価が2倍になったというような場合が典型です。契約で合意したのだから地価が2倍になってからも契約にしたがわなければならないというのは不公平だという考え方です。

最高裁の判例も、貸主と借主が現実に合意した直近の時点からの、上記ABCの事情の変動や諸般の事情を総合的に考慮して、現行家賃が適正かどうかを判断すべきであるとしています。

3.家賃の金額だけではありません。

同じ建物の別のテナントで坪単価が違うこということが分かったとき、坪単価が高いほうのテナントの借主は、納得できない思いを抱くと思います。

しかし、同じ建物とはいっても、建物の入口との距離や客の導線との関係などで坪単価に差があることもありますし、仮に条件が全く同じ物件があったとしても、家賃3か月分の保証金が授受されたケースと50か月分の保証金が授受されたケースとでは、家賃の金額だけを比較したらむしろ差があるのが当然です。

現在は経済状況の大きな変動が1年程度の期間の間にあることはあまりありませんから、相談のケースでは、近隣の賃料相場より高いから契約で合意した家賃を下げろというのは、難しそうです。
だからこそ、賃貸借契約を締結する際、貸主としても借主としても、家賃が高すぎたり安すぎたりしないかをよく検討する必要があります。契約を締結すれば、それが直近合意時点です。

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文責:弁護士 佐藤寿康

※上記記事は、本記事作成時点における法律・裁判例等に基づくものとなります。また、本記事の作成者の私見等を多分に含むものであり、内容の正確性を必ずしも保証するものではありませんので、ご了承ください。