保険会社が整骨院に裁判を起こしてきた事例の解説です。
実際に施術していないのに施術費を保険会社に請求したという理由で、保険会社は支払済の施術費相当額等の損害賠償請求を求めてきました。
最終的には、整骨院及び被害者の申告は虚偽とは言えないと裁判所は判断しました。そのため、保険会社の整骨院への請求は認められませんでした。(平成30年10月17日東京地方裁判所判決)
目次
事案の概要
交通事故の概要
被害者は加害車両に追突され、頚椎捻挫と診断されました。
被害車両の修理費は約24万円です。被害者が受けた衝撃の程度は、一般的な追突事故の中でそれほど激しくはないと判断されています。
約7カ月、ほぼ毎日のペースで被害者は整骨院に通院しました。
なお、最後の2カ月は保険会社は施術費の内払を打ち切り、整骨院も被害者本人に施術費を直接請求はしていなかったようです。
打ち切りまでに、保険会社が整骨院に支払った施術費は100万円以上です。
保険会社の主張
保険会社は、被害者と整骨院が共謀して、実際は整骨院で施術を受けていないにもかかわらず虚偽の申告をし、不正に保険金を支払わせたと主張しました。
そして、支払済みの施術費等の保険金、調査会社への調査費用、弁護士費用を含めて、約350万円を被害者と整骨院に請求しました。
裁判所の判断(結論)
- 被害者の申告が虚偽のものであったということはできない。
- 整骨院は損害賠償義務を負わない。
裁判所の判断(理由)
裁判所は、整骨院の開業時間や通院ルート、施術証明書の内容を精査して、被害者が整骨院で施術を受けていないとまではいえないと判断しました。理由の要点は次の通りです。
理由①
通院日として申告がある日に、整骨院の休診日が含まれていることとの整合性
保険会社は、被害者が通院したとする日に、整骨院の休診日である日祝日が多数回含まれているため、被害者らの申告が虚偽であると主張しました。
被害者らは休診日であっても、個別に調整し施術を実施することがあると反論しました。
裁判所は、整骨院のウェブサイトに「日曜、祝日の受付に関しても電話で対応しておりますので、お気軽にお問合わせください。」との記載があることを決め手に、休診日に施術をすることがなかったとはいえないと判断しました。
理由②
保険会社が行った調査結果との整合性
保険会社は、調査会社を使って、何日か整骨院に張り込み、被害者が通院していない日を確認していました。
そして、通院していないことを調査会社が確認した日に、被害者らが施術を受けたと申告しているため、虚偽であると主張しました。
しかし、調査会社の調査は遅い時間でも午後8時までの調査でした。被害者らは、同時刻以降に通院して施術を受けたと反論しました。
なお、整骨院の営業時間は午後7時30分でした。
裁判所は、被害者らの主張を採用し、営業時間外の通院を否定する事情がない以上、被害者らの申告が虚偽であるとはいえないと判断しました。
理由③
整骨院の立地と被害者の住所、勤務先所在地の整合性
保険会社は、整骨院の立地が、被害者の住所や勤務先から遠く、あえてそのような整骨院を利用することが不自然であると主張しました。
なお、整骨院は、被害者の勤務先から1.3km離れた場所にあったようです。
裁判所は、被害者が以前も同じ整骨院に通院したことがあるという事情も含めて、自転車で通勤している被害者が仕事帰りに立ち寄る先として同じ整骨院を選択することは必ずしも不自然とは言えないと判断し、保険会社の主張を認めませんでした。
理由④
施術録との不整合性
保険会社は、施術証明書に記載された内容の多くが施術録に記載されていないため、施術証明書の内容が虚偽であり、ひいては施術を受けたという被害者らの申告も虚偽であると主張しました。
裁判所は、施術証明書の記載に不備があっても、被害者が通院したという事実を覆すことはできず、何らかの施術があったこと自体は否定できないと判断しました。
保険会社から不正請求を指摘されないようにするための注意点
今回ご紹介した裁判では、保険会社の整骨院に対する請求部分は棄却されました。整骨院が勝訴しました。
もっとも、近年は保険会社が整骨院に対し不正請求があったと主張し、整骨院の責任が認められる事例が散見されます。
このようなケースでは、保険会社が調査会社を利用して、被害者が実際に通院していないことを確認していることが多いです。
また、施術録や来院簿などの証拠が裁判所を通じて保全されています。施術証明書と他の書類との不整合がある場合には不整合を指摘されています。
実際に裁判にならなくても、不正請求を指摘され、調査会社が突然くる事案もあります。ひどい時には、以後交通事故患者の施術費の内払対応を拒否される事案もあります。
不正請求を指摘されること自体が、整骨院の不利益につながります。
まず最初に確認するのは施術証明書ですので、施術証明書は正確に記載し、通院日や施術日について正確に説明できるようにしましょう。
施術録や来院簿など整骨院が外部に公表することを予定していない資料も、施術証明書や保険会社への申告内容と一致させましょう。
対外的に公表している休診日に施術を行う場合は注意が必要です。今回の裁判例では、整骨院のウェブサイトに休診日も施術を行う旨を記載していたため、整骨院が勝つことができました。
もし、休診日や営業時間外に施術を行うようであれば、営業時間外に施術を行っていることを保険会社にわかるようにすることも工夫の一つです。
まとめ
整骨院が不正請求を疑われないためには次のような点に注意しましょう。
- 施術証明書は正確に記載し、通院日や施術日について正確に説明できるようにしましょう。
- 施術録や来院簿など整骨院が外部に公表することを予定していない資料でも、施術証明書や保険会社への申告内容と一致させましょう。
- 営業時間外に施術を行うようであれば、WEBサイトなどに営業時間外に施術を行っていることを記載しましょう。
※上記記事は、本記事作成時点における法律・裁判例等に基づくものとなります。また、本記事の作成者の私見等を多分に含むものであり、内容の正確性を必ずしも保証するものではありませんので、ご了承ください。