学校法人における整理解雇事件

本日は学校法人における学部廃止に伴う教授の解雇が問題となり、解雇無効の判断が下された昨年の東京地裁の裁判例をご紹介します。

事件の概要

幼稚園から大学まで経営する学校法人が、期間の定めなく採用された大学教授らに対し、大学の学部廃止を理由に希望退職を募集し、希望退職に応じない場合は学部廃止時点で解雇することを通告、その後通告通り解雇した事件です。

解雇された大学教授らは、解雇無効を主張し、地位確認と未払賃金を求める訴訟を提起しました。

事件の争点

労働者側に責任のない解雇(整理解雇)の場合、解雇の有効性は

  1. 人員削減の必要性
  2. 解雇回避努力義務の履行
  3. 解雇される者の選定の妥当性
  4. 手続きの相当性

という4つの要素を総合考慮して判断されます。

学校法人側はそもそも整理解雇であるかどうかを争いましたが、裁判所は教授らに帰責性がないことから整理解雇の4つの要素を基に判断しました。

裁判所の判断

裁判所は、4つの要素について下記の判断をしました。

1. 人員削減の必要性について

定員割れが継続していた状況のもと、学校法人が学部の学生の募集停止及び学部廃止を判断したこと自体は経営判断として不合理ではない。

しかし、学校法人の資産状況は相当に良好であったので、教授らを解雇しなければ経営危機に陥るといった状況ではなかった。

また、教授らは他学部の一般教養科目や専門科目を担当可能であった。よって、人員削減の必要性は高度であったとはいえないと判断しました。

2. 解雇回避努力義務の履行について

学校法人は、希望退職の募集や他大学からのオファーの速やかな伝達、教員の公募状況の通知、中学等での採用検討の依頼、事務職員としての雇用の提案等を行った旨を主張しましたが、本件における解雇回避努力義務としては不十分と判断しました。

4. 手続きの相当性

学校法人が解雇の必要性や配置転換できないことの理由について十分に説明したことに関する証拠はない、また団体交渉拒否等に照らせば、学校法人は教授らに対する説明や協議を真摯に行わなかったと判断しました。

なお、3.解雇される者の選定の妥当性については、事実上教授に絞られていたことからか、具体的な判断を展開していません。

その結果、以上を総合考慮し、本件解雇は解雇権を濫用したものであり、社会的相当性を欠くものとして無効であると判断しました。

最後に

昨今の労働者保護が叫ばれる社会情勢のもとでは、解雇の有効性については厳しく判断されることが一般的です。解雇が無効と判断されると、未払賃金の支払いが大きく発生してしまいます。

そして解雇の問題は、大企業から中小企業までどんな企業にも起こりうる事態です。解雇の問題は、発生させないことが重要です。

解雇が問題となりそうな事件については、必ず弁護士までご相談をいただければと思います。

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文責:弁護士 根來真一郎

※上記記事は、本記事作成時点における法律・裁判例等に基づくものとなります。また、本記事の作成者の私見等を多分に含むものであり、内容の正確性を必ずしも保証するものではありませんので、ご了承ください。