先日日本学生支援機構の奨学金の回収手法に問題があったことが報じられていました。
この問題では「分別の利益」という法律用語がキーワードになっています。
一般の方からすると少し耳慣れない言葉だと思いますが、民法を学んだことがある方であれば保証の項で学んだことが思い出されるかもしれません。
1 「分別の利益」とは
まず「分別の利益」とはいったい何なのでしょうか。
通常の保証の場合、保証人が自身のみ(1人)であれば、借りた人が払うべき金額を、全額支払わなければなりません。
これが、保証人が複数いる場合、借りた人が払うべき金額を、その頭数で按分した額のみ支払えばよいと民法上されています。
今回の日本学生支援機構の場合、連帯保証人として父と母を、通常の保証人として4親等以内の親族を契約するケース(人的保証)で問題があったそうです。
2 「分別の利益」を主張できる場面
例えば、100万円の奨学金について、叔父が通常の保証人になったのだが、何らかの事情により、本人及び連帯保証人である父が支払が困難になったとします。そうすると、通常の保証人である叔父は他にも保証人(父)がいますので、100万円を頭数で割った2分の1、すなわち50万円だけ支払うことを主張できます(分別の利益があります。)。
しかしながら、今回日本学生支援機構は、このような叔父の利益を積極的に伝えずに、漫然と全額の返還を要求していました。そして、「分別の利益」という自身の利益を知らなかった多くの保証人が全額の支払いに応じていたのです。弁護士等に相談した保証人が、「分別の利益」を主張した場合には、減額に応じていたということですので、機構もこの点は認識して全額の返還請求をしていたことは間違いなさそうです。
3 連帯保証は「分別の利益」がないのでリスクが大きい
連帯保証はリスクが大きいということがよく言われると思います。
今まで述べたとおり、通常の保証であれば、複数人で保証する場合、支払いを頭数で按分することで減額し、リスクを減らすことが可能になっています。
しかしながら、連帯保証の場合は「分別の利益」がありません。それぞれが全額の返済を迫られます。そのため、通常の保証に比較してリスクが大きいということが言えます。(他にも連帯保証が通常の保証に比較してリスクが大きい点がいくつかございますが今回は分別の利益に限ってご説明させていただきました。)
4 おわりに
先の日本学生支援機構に対する叔父の例のように、今回払わなくてもいいはずの多額の金額を支払ってしまったケースが多く明るみに出てしまいました。中にはこの保証債務のために自己破産をせざるを得なくなった方もいるようです。
ただ、法律は知っている人の味方です。知らないことで大きなリスク、デメリットを背負ってしまうことは残念ながら散見されることです。弁護士に相談することで、分別の利益を主張し、減額をできた人もいたとのことです。皆様も日々の生活や経営の中で法律的に疑問点等がありましたら、お気軽に当事務所の弁護士までご相談ください。
※上記記事は、本記事作成時点における法律・裁判例等に基づくものとなります。また、本記事の作成者の私見等を多分に含むものであり、内容の正確性を必ずしも保証するものではありませんので、ご了承ください。