最終更新日:2026年7月22日

監修者
よつば総合法律事務所 弁護士 加藤貴紀

近年、固定資産税の上昇や近隣の賃料相場の変動を背景に、長く据え置かれてきた賃料を見直したいと考える収益物件のオーナーが増えています。

しかし、賃料は原則として賃貸人と賃借人の合意によって決められるものです。そのため、物価や税負担が上がったからといって、賃貸人が一方的に賃料を引き上げることは難しいです。賃料の増額を求めるには、法律上の要件や手続きに沿って進める必要があります。

この記事では、賃料の値上げを求める「賃料増額請求」について、制度の仕組みや手続きの流れ、賃借人に拒否されたときの対応、判例の傾向、そして実務で押さえるべきポイントまで、よつば総合法律事務所の弁護士が解説します。

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1. 賃料増額請求とは?基本の仕組み

賃料増額請求とは、賃料が現在の経済状況に合わなくなったとき、賃貸人が賃借人に対して、将来の賃料の値上げを求めることをいいます。

賃貸借契約は数十年にわたって続くこともあり、契約当時と現在では、物価も、税金も、不動産価値も大きく変わります。したがって、当時の賃料をそのまま固定し続けるのが、必ずしも公平とは限りません。

そこで法律は、一定の条件のもとで賃料を見直す道を、賃貸人にも賃借人にも認めています。

1.1 借地借家法第32条(賃料増減額請求権)

賃料の改定を求める権利は、借地借家法32条1項 に定められています。

簡単にいうと、「物価や税金、近隣の賃料相場が変わって、今の賃料が社会一般の賃料水準と合わなくなった場合には、賃貸人からも賃借人からも、将来の賃料の見直しを求められる」というルールです。

実務で押さえておきたいポイントは3つあります。

1.1.1 過去にさかのぼっての増額はできない

1つ目は、過去にさかのぼって賃料を増額することはできないという点です。

賃料増額請求は、将来の賃料を見直すための制度です。そのため、「本来であれば、半年前からこの金額に上げたかった」と考えていたとしても、過去の賃料までさかのぼって増額することはできません。

あくまで増額請求の通知が賃借人に届いた時点から先の賃料が増額の対象になります。

1.1.2 賃借人に通知が届いた時点で効力が発生する

2つ目は、賃料増額請求の効力は、賃借人に通知が届いた時点で生じるという点です。

通常、契約内容を変更するには、当事者双方の合意が必要です。しかし、借地借家法にもとづく賃料増額請求は、賃貸人が賃借人に対して「賃料を増額します」と伝え、その通知が賃借人に届いた時点で効力が生じます。

つまり、賃借人がその場で承諾しなくても、賃料増額請求そのものは有効に行われたことになります。

そのため、実務では「いつ、どのような内容の通知が賃借人に届いたか」が非常に重要です。後から到達日や請求内容を証明できるように、配達証明付き内容証明郵便などで通知するのが一般的です。

1.1.3 通知した金額で新賃料が確定するわけではない

3つ目は、賃貸人が通知した金額がそのまま新賃料として確定するわけではないという点です。

賃料増額請求の効力が生じることと、賃貸人が希望した金額どおりに賃料が確定することは別の問題です。

たとえば、賃貸人が「月額20万円に増額します」と通知しても、賃借人がその金額に納得しない場合、当然に月額20万円が新賃料になるわけではありません。

当事者間で合意できない場合には、協議や調停を経て、最終的には裁判所が「いくらが相当な賃料か」を判断することになります。

そのため、賃料増額請求では、通知を送って終わりではありません。増額を求める理由や資料を整理し、賃借人との交渉や、その後の調停・訴訟に備えることが大切です。

1.2 「不相当」とされる判断要素

借地借家法では、賃料の増減額が認められる条件として、「現在の賃料が不相当になったとき」と定めています。

「不相当」とは、簡単にいえば、現在の賃料が今の状況に合わなくなっている状態のことです。

たとえば、固定資産税や都市計画税などの負担が上がった、物価や地価が上昇した、周辺の似た物件と比べて賃料が大きく低くなっている、といった事情がある場合には、現在の賃料が不相当になっていると判断される可能性があります。賃貸人や賃借人が「高い」「安い」と感じているだけでは足りず、客観的な事情に基づく判断が必要です。

借地借家法では、主に次のような事情が判断材料とされています。

判断要素 具体的な内容 典型例
公租公課の増減 物件にかかる税金の変動 固定資産税・都市計画税が大幅に上昇した
経済事情の変動 物価・地価・経済全体の状況 地価が上昇し、近隣の取引価格も伸びている
近傍同種の賃料との比較 似た条件の物件との賃料差 同じエリア・同規模の物件より2割以上安い

これらの事情に加えて、最後に賃料を決めてからどのくらいの期間が経過しているか、賃貸人と賃借人の間に特別な関係があるかなども考慮されます。

ただし、いずれか1つの事情があれば、自動的に賃料の増額が認められるわけではありません。

たとえば、固定資産税が上がったとしても、それだけで直ちに賃料も上げられるとは限りません。近隣の賃料相場、契約からの経過年数、これまでの賃料の決まり方などを総合的に見て、現在の賃料が不相当に低いといえるかが判断されます。

そのため、契約からまだ数年しか経っていない、近隣相場と大きな差がない、税負担にも大きな変化がないといったケースでは、増額の主張は通りにくい傾向があります。

1.3 賃料自動増額特約と不増額特約

ここまで説明してきたのは、借地借家法にもとづく賃料増額請求の基本的なルールです。

もっとも、実際の賃貸借契約では、契約書の中に賃料の改定に関する特別な取り決めが定められていることがあります。このような取り決めを「特約」といいます。

賃料改定に関する特約には、主に次のようなものがあります。

特約の種類 内容
不増額特約 一定期間は賃料を増額しないと定める特約
賃料自動増額特約 一定期間ごとに賃料を自動的に増額すると定める特約
協議条項 賃料を改定する場合には、賃貸人と賃借人で協議すると定める条項

このうち、賃貸人がまず確認すべきなのは、不増額特約の有無です。

不増額特約とは、「一定期間は賃料を増額しない」と約束する特約です。この特約がある場合、その期間中は、原則として賃貸人から賃料の増額を請求できません。

一方で、賃料自動増額特約がある場合は、扱いが異なります。

契約書に「一定期間ごとに賃料を増額する」と書かれていても、具体的な増額の確定金額が契約書でわからない場合には、それだけで必ず増額できるとは限りません。実際に増額できるかどうかは、近隣の類似物件の賃料や固定資産税などの負担、経済事情の変化、これまでの賃料とのバランスなどを踏まえて判断されます。

また、契約書に「賃料を改定する場合は協議する」と書かれている場合もあります。このような協議条項がある場合、まずは賃借人との話し合いを行うことになります。ただし、協議条項があるだけで、当然に賃料が変わるわけではありません。

このように、賃料改定に関する特約は、内容によって効果が異なります。賃料増額請求を検討するときは、契約書にどのような特約があるのかを確認し、その特約が借地借家法との関係でどのような意味を持つのかを整理することが大切です。

2. 賃料増額請求の手続きの流れ

賃料を上げたい場合、賃貸人が「来月からこの金額にします」と一方的に決めることはできません。

まずは賃借人に対して、賃料を増額したいという意思を正式に伝えます。そのうえで、賃借人と話し合い、合意できない場合は調停を申し立てます。調停でも解決しないときは、最終的に訴訟で適正な賃料額を判断してもらうことになります。

特に注意が必要なのは、賃料増額の争いでは、原則としていきなり訴訟を起こすことはできないという点です。まず調停を申し立てる必要があり、このルールを「調停前置主義」といいます。

ここでは、賃料増額請求の手続きを4つのステップに分けて見ていきます。

2.1 配達証明付き内容証明郵便による「賃料増額請求通知」の送付

最初のステップは、賃貸人から賃借人に対して、賃料の増額を求める通知を送ることです。

通知書には、「いくらに増額したいのか」「なぜ増額を求めるのか」を明確に記載します。口頭やメールだけで伝えるのではなく、書面で通知することが重要です。

実務では、配達証明付き内容証明郵便を使うのが一般的です。内容証明郵便とは、「いつ、どのような内容の文書を送ったか」を郵便局が証明してくれる郵便です。さらに配達証明を付けると、その文書が「いつ相手に届いたか」も証明できます。

賃料増額の効力は、原則として、増額請求の意思表示が賃借人に到達した時点で発生します。そのため、通知の内容と到達日を証拠として残しておくことが重要です。

通知書では、増額を求める意思だけでなく、対象物件や増額後の賃料、適用開始時期、増額の理由なども明確にしておく必要があります。記載内容が曖昧だと、後から争いになる可能性があるためです。

記載事項 内容
対象物件 所在地、建物名、部屋番号など
現在の賃料 現在いくらで貸しているか
新しい賃料 いくらへの増額を求めるか
増額を求める時期 いつ以降の賃料について増額を求めるか
増額の理由 固定資産税の上昇、近隣相場との差、契約からの経過年数など
協議の申入れ 話し合いに応じてほしい旨

口頭やメールでのやり取りだけでは、請求内容や到達日が曖昧になりやすくなります。正式に賃料増額請求を行う場合は、書面で通知し、証拠を残しておくことが重要です。

2.2 賃借人(テナント)との協議・交渉

通知を送った後は、賃借人と話し合い、合意による解決を目指します。話し合いでまとまれば、調停や訴訟に進む必要がなく、時間や費用の負担も抑えられます。

交渉では、単に「この金額に上げたい」と伝えるだけではなく、なぜ増額が必要なのかを具体的に説明することが重要です。

たとえば、固定資産税・都市計画税の納税通知書や近隣の類似物件の賃料資料、不動産会社による賃料査定、契約時から現在までの賃料の推移などを示せると、賃借人の理解を得やすくなります。

また、賃借人が事業用テナントの場合には、経営状況や資金繰りへの影響も問題になることがあります。そのため、一度に大幅な増額を求めるのではなく、段階的な引き上げや、一定期間後の再協議など、柔軟な提案を検討することもあります。

合意ができた場合は、必ず書面に残しましょう。覚書や賃貸借契約の変更契約書などの形で、少なくとも次の内容を明記しておく必要があります。

記載事項 内容
改定後の賃料 合意した新しい賃料額
適用開始日 いつから新賃料を適用するか
支払方法 振込先、支払期限など
その他の変更点 敷金、共益費、更新料などに変更があるか
署名押印 貸主・借主双方の署名押印

口頭で合意しただけでは、後から内容をめぐって争いになる可能性があります。合意内容は、必ず書面化しておくことが重要です。

2.3 民事調停(調停前置主義)

協議でまとまらない場合は、民事調停を申し立てます。賃料増額請求では、原則として、いきなり訴訟を起こすことはできず、まず民事調停での解決を試みる必要があります。これが「調停前置主義」と呼ばれるルールで、民事調停法24条の2 に定められています。

民事調停は、簡易裁判所で行われる話し合いの手続きです。裁判官や調停委員が間に入り、賃貸人と賃借人の言い分を整理しながら、解決に向けた調整を行います。

民事調停では、賃貸人側が増額を求める理由や資料を示し、賃借人側の反論も踏まえながら、妥当な賃料額を探っていきます。判決のように裁判所が一方的に結論を出す手続きではなく、双方の合意による解決を目指す点が特徴です。

当事者同士だけでは話し合いが進まない場合でも、第三者が間に入ることで、冷静に話を進めやすくなることがあります。また、民事調停は非公開で行われるため、外部に内容が知られにくいという特徴もあります。

民事調停で合意できた場合には、調停調書が作成されます。調停調書には、確定判決と同じ効力があります。そのため、合意内容を明確な形で残すことができ、賃料や不足分の支払いについて明確に定めておけば、相手が支払わない場合に強制執行の手続きに進むことも可能です。

調停は、1~2 か月に1回程度のペースで開かれることが多く、解決までに数か月から1年程度かかることもあります。調停で合意できない場合には、訴訟で適正な賃料額の判断を求めることになります。

2.4 賃料増額請求訴訟(裁判)

調停でも合意できなかった場合は、訴訟によって賃料額の判断を求めることになります。

訴訟では、賃貸人と賃借人が、それぞれ主張や証拠を提出します。賃料額が大きく争われる場合には、不動産鑑定士による鑑定が行われることもあります。

裁判所は、当事者が提出した資料や不動産鑑定の結果をもとに、契約の経緯、現在の賃料、近隣相場、固定資産税などの負担、地価や物価の変動などを考慮し、相当な賃料額を判断します。

訴訟は、提起から判決まで1年以上かかることもあります。また、不動産鑑定費用や弁護士費用などの負担も発生します。

そのため、賃料増額請求では、訴訟に進む可能性も見据えながら、通知、協議、調停の段階で資料を整理し、できる限り合理的な解決を目指すことが重要です。

3. 賃料増額請求を成功させるためのポイント

賃料増額請求は、賃貸人の希望や感覚だけで認められるものではありません。

「長年値上げしていないから」「近隣より安い気がするから」という理由だけでは不十分です。現在の賃料が不相当に低いことを、客観的な資料にもとづいて説明する必要があります。

また、賃料の増額は、賃借人の生活や事業にも影響します。そのため、資料をそろえるだけでなく、どのタイミングで、どの程度の増額を求めるかという進め方も重要です。

ここでは、賃料増額請求を進めるうえで押さえておきたい3つのポイントを解説します。

3.1 客観的な証拠(賃料査定報告書・固定資産評価証明書等)の準備

賃料増額請求では、賃借人や裁判所に対して、「なぜ現在の賃料が低すぎるのか」を数字と資料で説明する必要があります。

単に「長年値上げしていない」「周辺より安いと思う」と伝えるだけでは、賃借人の納得を得ることは難しいでしょう。まずは、現在の賃料が不相当になっていることを示すための資料を集めることが重要です。

ここでは、オーナー自身でも準備しやすい資料を紹介します。

3.1.1 ① 固定資産税などの負担増を示す資料

まず確認したいのは、物件にかかる税金の変化です。

固定資産税や都市計画税が上がっている場合、その分、賃貸人側の負担が増えていることを示す資料になります。

資料としては、毎年届く固定資産税の納税通知書や課税明細書が使えます。契約当時のものが手元にあれば、現在のものと比較することで、税負担がどの程度変化したのかを説明しやすくなります。

また、必要に応じて、物件所在地の市区町村役場で固定資産評価証明書を取得したり、固定資産課税台帳を確認したりする方法もあります。

3.1.2 ② 近隣の賃料相場を示す資料

次に、近隣の賃料相場を調べます。

賃貸検索サイトを使い、自分の物件と条件が近い物件を複数確認しましょう。比較するときは、所在地だけでなく、面積や築年数、駅からの距離、用途、階数、設備なども見る必要があります。

たとえば、同じエリアの物件でも、駅前の店舗と住宅地内の事務所では賃料水準が異なります。また、同じマンションでも、広さや階数、設備によって賃料は変わります。

募集中の物件情報は、後から削除・変更されることがあります。スクリーンショットを保存し、URLや取得日も記録しておくとよいでしょう。

ただし、ポータルサイトに掲載されている賃料は、あくまで募集賃料です。実際には、交渉によって募集額より低い賃料で契約されていることもあります。

そのため、可能であれば、地元の不動産会社に相談し、実際の成約賃料の傾向も確認しておくと、より説得力のある資料になります。

3.1.3 ③ 公的データで地価や物価の動きを確認する

地価や物価などの経済事情の変化も、賃料増額請求の判断材料になります。

たとえば、国土交通省の地価公示や都道府県地価調査、国税庁の路線価図、総務省統計局の消費者物価指数などは、地価や物価の動きを示す公的データとして参考になります。

これらの資料を確認することで、契約当時から現在までに、地域の地価や経済状況がどのように変化したのかを把握しやすくなります。

もっとも、公的データだけで直ちに賃料増額が認められるわけではありません。固定資産税の増加や近隣賃料の変化など、他の資料と組み合わせて説明することが重要です。

3.1.4 ④ 物件の改善・投資の記録

リフォームや設備更新、共用部の改修などを行っている場合は、その内容と費用も整理しておきましょう。

これらの工事によって物件の価値や利便性が高まっていれば、賃料増額を求める際の説明材料になることがあります。

たとえば、エントランスや共用部分を改修した、防犯設備を導入した、古い設備をグレードの高いものに交換した、といった事情があれば、物件の利便性や収益性が高まったと説明しやすくなります。その結果、従前の賃料が現在の物件価値に見合わなくなったことを示す材料になる場合があります。

そのような工事を行った場合は、見積書や請求書、領収書、施工前後の写真などをまとめておきましょう。工事の内容や費用、施工前後の変化を整理しておくと、物件価値がどのように変わったのかを説明しやすくなります。

ただし、すべての工事が賃料増額を説明する材料になるわけではありません。壊れた設備を直すだけの通常の維持管理と、物件の価値や利便性を高める改修とでは、評価が異なることがあります。

3.1.5 ⑤ 不動産会社による簡易査定

自分で資料を集めるだけでなく、地元の不動産会社に賃料査定を依頼する方法もあります。

複数の不動産会社から査定を取ると、現在の賃料相場の幅を把握しやすくなります。不動産会社の査定書は、不動産鑑定士による鑑定評価書ほど証明力が高いわけではありませんが、交渉や調停の場面で参考資料として活用できます。

査定を依頼するときは、物件の所在地や面積、築年数、用途、現在の賃料、契約開始時期、過去の改定状況などを整理して伝えると、より実情に近い査定を受けやすくなります。

3.2 適切な増額幅の提示

賃料増額請求では、根拠のある現実的な増額幅を提示することが重要です。請求額が高すぎると、賃借人の反発を招き、協議や調停が長引くおそれがあるためです。

3.2.1 現在の賃料と近隣相場との差を確認

増額幅を考える際に、まず確認したいのは、現在の賃料と近隣相場との差です。

近隣の類似物件と比べて現在の賃料が明らかに低い場合、その差は賃料増額を求めるうえで重要な説明材料になります。一方で、現在の賃料が周辺相場の範囲内に収まっている場合や、比較する物件によって高いものも低いものもある場合には、増額を求めにくくなります。

ただし、「相場より何%安ければ必ず増額できる」という明確な基準があるわけではありません。また、近隣相場との差額をそのまま増額できるわけでもありません。

たとえば、現在の賃料が月15万円で、近隣相場が月25万円だったとしても、すぐに25万円まで上げられるとは限りません。契約からの経過年数、これまでの賃料改定の有無、固定資産税や地価・物価の変化などを踏まえて、どの程度の増額が相当かを判断することになります。

3.2.2 実務上の目安

実務上は、1回の改定で5〜10%程度の増額幅で着地することが多いとされています。現在の賃料が月15万円であれば、5〜10%の増額は月15万7500円から16万5000円程度です。

もっとも、これはあくまで一般的な目安です。固定資産税が大きく上がっている場合や、契約から長期間が経過して近隣相場との乖離が大きい場合には、これより大きな増額を求められることもあります。

反対に、近隣相場との差が小さい場合や、税負担・地価・物価に大きな変化がない場合には、増額が認められにくいこともあります。

そのため、請求額を決めるときは、5〜10%という数字だけにとらわれず、物件ごとの事情を踏まえて検討することが大切です。

3.2.3 段階的な増額も選択肢の1つ

また、実際の交渉では、一度に大きく増額するのではなく、段階的に引き上げる方法もあります。たとえば、最終的には月20万円を目指すとしても、まず月17万円、次回更新時に月18万5000円、その後に再度見直すといった提案です。

このように段階を踏むことで、賃借人にとっても今後の負担について見通しやすくなり、合意による解決につながりやすくなることがあります。

3.3 トラブルを防ぐための事前の信頼関係構築

賃料の増額は、賃借人にとって大きな負担です。

十分な説明がないまま「来月から賃料を上げます」と伝えると、賃借人が強く反発し、話し合いが長期化するおそれがあります。特に事業用物件では、賃料の増額が資金繰りや事業計画に影響するため、賃借人側もすぐには受け入れにくい場合があります。

トラブルを防ぐには、正式な通知を送る前から、賃借人とのコミュニケーションを意識しておくことが大切です。

たとえば、固定資産税の負担や近隣相場の変化を踏まえ、将来的に賃料の見直しを検討していることを事前に伝えておく方法があります。突然増額を求めるよりも、賃借人が事情を理解しやすくなり、正式な交渉に入ったときの抵抗感を小さくできる可能性があります。

法人テナントの場合には、決算期や事業計画との関係にも配慮が必要です。急に翌月から増額するのではなく、半年後や次回更新時からの増額を提案するなど、準備期間を設けることで、合意につながりやすくなることがあります。

4. テナント・入居者に拒否された場合の対処法

賃料増額請求では、資料を準備し、賃借人に丁寧に説明しながら進めることが重要です。

もっとも、十分な資料を示しても、賃借人がすぐに増額に応じるとは限りません。賃料の増額は、賃借人の生活や事業に直接影響するため、拒否されたり、金額をめぐって意見が対立したりすることもあります。

その場合でも、賃貸人が感情的に対応したり、一方的に退去を求めたりすることは避けるべきです。

ここでは、賃借人に増額を拒否された場合の実務上の対応を整理します。

4.1 増額が決まるまでの賃料支払いはどうなる?(相当と認める額の支払い)

賃料増額請求をしても、賃借人が直ちに増額後の賃料を支払わなければならないわけではありません。

借地借家法32条2項 では、賃料の増額について当事者間で協議がまとまらない場合、増額を正当とする裁判が確定するまでは、賃借人は「相当と認める額」を支払えば足りるとされています。

実務上は、賃借人が従前の賃料をそのまま支払い続けることも少なくありません。賃貸人としては不満を感じる場面ですが、ここで強硬な対応を取ると、かえって紛争が長期化するおそれがあります。

特に、次のような対応は避けるべきです。

  1. 「値上げに応じないなら退去してほしい」と強く迫る
  2. 従前賃料の受け取りを拒否する
  3. 必要以上に強い表現の通知を何度も送る

賃借人が従前賃料を支払っている場合、それだけで「賃料を滞納している」と評価することは困難です。そのため、従前賃料を支払っている賃借人に対し、滞納を理由として直ちに契約解除を主張することは難しいです。

賃貸人としては、従前賃料は受領しつつ、調停や訴訟で適正な賃料額を確定させ、後で不足分を清算するという対応が基本になります。

4.2 不足分に対する利息(年1割)の請求

裁判で増額が正当と認められ、確定した賃料額が賃借人の支払っていた額を上回る場合、賃借人は不足分を後から支払う必要があります。

この不足分には、借地借家法32条2項 により、年1割の割合による支払期後の利息が付されます。

たとえば、賃借人が従前賃料を支払い続けていた場合でも、裁判でそれより高い賃料が相当と判断されれば、不足分と利息をまとめて支払うことになります。

このルールがあるため、賃貸人は、賃借人が従前賃料を支払い続けている場合でも、直ちに受け取りを拒否する必要はありません。まずは従前賃料を受領しつつ、調停や訴訟で適正賃料を確定させることが重要です。

一方で、利息が付くからといって、紛争を長期化させることが望ましいわけではありません。時間がかかるほど、双方に弁護士費用や手間、心理的負担が生じます。できる限り、協議や調停の段階で合理的な解決を目指すことが大切です。

4.3 供託された場合の対応

賃貸人が従前賃料の受け取りを拒否すると、賃借人が法務局に賃料を預ける「供託」という手続きを取ることがあります。

供託とは、支払うべき金銭を相手に直接渡せない場合に、法務局へ預ける制度です。

たとえば、賃借人が従前賃料を支払おうとしたにもかかわらず、賃貸人が「増額後の賃料でなければ受け取らない」と拒否した場合、賃借人は従前賃料を供託することがあります。

供託が適法に行われると、賃借人は賃料を支払ったのと同様に扱われます。そのため、賃貸人が受け取りを拒否した結果、賃料が供託された場合には、賃料滞納を理由に賃借人の責任を追及することは難しくなります。

供託された賃料は、賃貸人が法務局で受け取ることができます。また、調停や裁判で適正な賃料額が確定し、供託された金額に不足がある場合には、その不足分を別途請求することになります。

5. よくあるご質問(FAQ)

ここでは、賃料増額をめぐって、オーナーや大家の方から寄せられる質問にお答えします。

5.1 弁護士に依頼するメリットと費用の目安は?

弁護士に依頼するメリットは、大きく3つあります。

1つ目は、通知書の作成から交渉、調停、訴訟まで一貫して任せられることです。手続きの抜け漏れを防げ、特に効力発生日や請求金額の設計でミスが起きにくくなります。

2つ目は、借主との直接のやり取りを避けられることです。感情的なぶつかり合いを避け、冷静に交渉を進められます。

3つ目は、法的な根拠を構築して請求できることです。客観的資料の選び方や主張の組み立て方を専門的な視点から整理できるため、適切な増額幅を根拠に基づいて主張しやすくなります。

「増額が認められた場合に増える賃料収入の総額」と「弁護士費用 」を比べてみると、見通しが立てやすくなります。

たとえば月3万円の増額が10年続けば総額360万円です。費用対効果を冷静に計算したうえで、依頼するかを判断するのが現実的な進め方です。

5.2 数十年据え置いていた賃料を一気に上げることは可能?

数十年にわたって賃料を据え置いていた場合でも、賃料増額請求をすること自体は可能です。

長期間賃料を据え置いていた間に、固定資産税や物価、近隣相場が大きく変化していれば、現在の賃料が不相当に低くなっていると説明しやすくなります。そのため、賃料を長年変更していないことは、増額を求める際の重要な事情の1つになります。

もっとも、現在の賃料が相場より低くなっているからといって、一気に大幅な増額が認められるとは限りません。

賃料増額請求では、近隣相場だけでなく、これまで賃料が据え置かれてきた経緯、契約からの経過年数、税負担や物価の変化、賃借人への影響などが総合的に考慮されます。

特に、急激な増額は賃借人の生活や事業に大きな影響を与えます。そのため、裁判所が相当な賃料を判断する際には、一度に相場水準まで引き上げるのではなく、現行賃料を出発点として、合理的な範囲で増額を認める方向になりやすいと考えられます。

実務上は、一気に2倍、3倍の賃料を求めるのではなく、客観的な資料をもとに、現実的な増額幅を検討することが重要です。必要に応じて、段階的な引き上げを提案することも有効です。

長年据え置いていた賃料を見直す場合でも、客観的な資料をもとに、現実的な増額幅や進め方を検討することが大切です。

5.3 更新時期以外でも増額請求はできる?

更新時期以外でも、賃料増額請求をすることは可能です。

賃料増額請求権は、借地借家法上の要件を満たせば、契約期間の途中でも行使できます。契約更新のタイミングまで必ず待たなければならない、というルールはありません。

ただし、契約書に賃料改定に関する特約がある場合は注意が必要です。

たとえば、「一定期間は賃料を増額しない」とする不増額特約がある場合、その期間中は、原則として賃貸人から増額請求をすることはできません。

また、「賃料の改定は更新時に協議する」といった条項がある場合も、その条項が単に話し合いの時期を定めたものなのか、それとも更新時以外の増額を制限する趣旨なのかを確認する必要があります。

そのため、更新時期以外に賃料増額請求を検討する場合は、まず契約書の賃料改定条項を確認しましょう。判断に迷う場合は、弁護士に契約書を確認してもらうと安心です。

5.4 サブリース契約でも増額請求はできる?

サブリース契約でも、賃料増額請求をすることは可能です。

サブリース契約とは、不動産会社などのサブリース業者がオーナーから物件を一括で借り上げ、その物件を第三者に転貸する契約形態です。オーナーとサブリース業者との間の契約は、一般にマスターリース契約と呼ばれます。

このマスターリース契約における賃料についても、借地借家法32条 が適用されることがあります。そのため、現在の賃料が不相当になっている場合には、オーナー側から賃料の増額を求められる可能性があります。

実際に増額できるかどうかは、固定資産税の上昇や地価や物価の変動、近隣相場との乖離といった事情に加えて、契約書の内容も踏まえて判断されます。

サブリース業者から「契約上、賃料は変えられません」と言われることもあります。しかし、その説明だけで増額請求ができないと決まるわけではありません。契約書の条項がどのような意味を持つのか、借地借家法32条 にもとづく増額請求との関係でどこまで有効なのかを確認することが大切です。

5.5 鑑定費用はどちらが負担すべき?

鑑定費用は、どの段階で、誰が鑑定を依頼するかによって負担の考え方が変わります。

交渉や調停の段階で、賃貸人が不動産鑑定士に鑑定評価書の作成を依頼する場合、その費用は原則として依頼した賃貸人が負担します。これは、賃料増額を求める根拠資料として、賃貸人側が自ら準備するものだからです。

一方、訴訟で不動産鑑定が行われる場合には、通常、鑑定を申し立てた当事者が鑑定費用をいったん裁判所に納めます。そのうえで、最終的な負担については、判決の中で訴訟費用の負担として判断されることがあります。

鑑定費用は、物件の種類や規模、鑑定内容によって異なりますが、数十万円から100万円を超えることもあります。そのため、請求したい増額幅や物件規模に見合う費用かを、事前に検討することが重要です。

6. まとめ:賃料増額トラブルは早めに弁護士に相談

賃料増額請求では、通知書の送付、賃借人との交渉、調停、訴訟というように、段階ごとに適切な対応が求められます。

特に、最初の通知の出し方や、賃借人が増額に応じない場合の対応を誤ると、交渉が長期化したり、調停や訴訟で不利になったりするおそれがあります。

また、賃料増額が認められるかどうかは、近隣相場だけでなく、固定資産税などの負担、契約からの経過年数、これまでの賃料改定の有無などを踏まえて判断されます。長年据え置いてきた賃料の見直しや、サブリース契約での増額交渉では、特に慎重な検討が必要です。

早い段階で弁護士に相談すれば、契約書の内容や必要な資料を整理し、どの程度の増額を目指せるか、どのような手順で進めるべきかを検討しやすくなります。

よつば総合法律事務所では、収益物件のオーナーの方から、賃料増額に関するご相談をお受けしています。通知書の作成、賃借人との交渉、調停、訴訟まで、一貫してサポートいたします。

賃料の見直しでお悩みの方は、まずはお気軽にご相談ください。

監修者
よつば総合法律事務所 弁護士 加藤貴紀

名古屋事務所所長。中小企業法務全般やM&A、事業承継などのご相談も承っています。社長が本業に集中できるように徹底してサポートします。愛知県弁護士会所属(登録番号52907)。

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