最終更新日:2026年9月16日

監修者
よつば総合法律事務所 弁護士 辻佐和子

会社の業績悪化や受注減少、設備故障などにより、従業員を一時的に休業させることがあります。

このような場合、「働いていないので賃金を支払う必要はない」とは限りません。会社側の事情による休業では、労働基準法26条により、原則として平均賃金の60%以上の休業手当を支払う必要があります。事情によっては100%を支払わなければいけないケースもあります。

休業手当を適切に支払わないと、労働基準監督署から是正を求められたり、従業員から未払い休業手当や遅延損害金、付加金を請求されたりする可能性があります。

本記事では、休業手当が必要となる場面、計算方法、不払いのリスク、企業がとるべき実務対応を解説します。

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1. 休業手当とは?労働基準法26条の基本

1.1 「平均賃金の60%以上」を保障する制度

労働基準法26条 は、「使用者の責に帰すべき事由」による休業の場合、使用者は休業期間中、その労働者に平均賃金の60%以上の休業手当を支払わなければならないと定めています。

休業手当は、会社側の事情で働くことができなくなった労働者の生活を最低限保障するための制度です。

1.1.1 民法536条2項との関係

注意すべきは、民法との関係です。

民法536条2項 は、会社(債権者)の責めに帰すべき事由によって従業員が働けなくなった場合には、従業員は賃金を請求する権利を失わないと定めています。この民法536条2項の「債権者の責めに帰すべき事由」よりも、労働基準法26条の「使用者の責に帰すべき事由」の方が広い概念とされています。

そのため、両者の関係は次のように整理できます。

① 民法536条2項が適用される場合

原則として賃金全額の請求権が認められます。

② 民法536条2項までは適用されなくても、労働基準法26条が適用される場合

平均賃金の60%以上の休業手当を支払う必要があります。

③ 労働基準法26条にも該当しない不可抗力による休業

原則として休業手当の支払義務はありません。

1.1.2 民法536条2項との関係の具体例

たとえば、会社が一方的に従業員の就労を拒否するなど、会社側に帰責性が認められる場合には、民法536条2項によって賃金全額の支払義務が生じるかどうかが論点となります。

一方、民法536条2項の「債権者の責めに帰すべき事由」までは認められない場合でも、経営上・管理上の事情によって休業させる場合には、民法536条2項による賃金全額の支払義務までは生じなくても、労働基準法26条による休業手当の支払義務が生じることがあります。

したがって、休業が発生した場合には、まず賃金全額の支払義務が生じるケースではないかを確認し、そのうえで労働基準法26条の適用を検討する必要があります。

1.2 休業補償(労災)や傷病手当金との違い

休業手当と、労災の休業補償、健康保険の傷病手当金は別の制度です。

休業手当は、会社側の事情で従業員を働かせない場合に支払義務が生じます。

これに対し、休業補償は業務上のケガや病気により働けない場合、傷病手当金は業務外の病気やケガにより働けない場合に適用される制度です。

1.3 パート・アルバイト・派遣社員も支給対象になる?

労働基準法上の労働者であれば、パート、アルバイト、契約社員なども原則として休業手当の対象です。勤務日数が少ない、短時間勤務であるといった理由だけで休業手当を支払わなくてよいわけではありません。

派遣社員の場合、雇用主は派遣先ではなく派遣元です。そのため、派遣先で就業できなくなった場合には、原則として、派遣先ではなく派遣元の休業手当の支払義務があるかを検討することになります。

2. 休業手当が必要な「使用者の責に帰すべき事由」とは

2.1「使用者の責に帰すべき事由」の判断基準

労働基準法26条の「使用者の責に帰すべき事由」は、会社に故意や過失がある場合に限られません。

最高裁判所の判例では、労働者の生活保障という同条の趣旨から、民法536条2項の「債権者の責めに帰すべき事由」より広く、使用者側に起因する経営上・管理上の障害も含むとしています(ノース・ウエスト航空事件・最高裁判所昭和62年7月17日判決)。

そのため、「会社に落ち度はなかった」という理由だけで、休業手当が不要になるわけではありません。会社側の経営上・管理上の事情によって就労させられない場合には、原則として休業手当を支払う方向で検討する必要があります。

2.2 業績不振・資材不足・設備故障などの場合

典型的に休業手当が必要となるのは、企業の経営上・管理上の事情による休業です。たとえば、次のようなケースがあります。

  1. ① 売上や受注の減少により仕事がなくなった
  2. ② 原材料や資材を確保できず作業ができなくなった
  3. ③ 機械や設備が故障して操業できなくなった

これらは会社に故意・過失がなくても、通常は企業経営に伴うリスクとして、休業手当の支払いが必要となります。

2.3 自宅待機を命じた場合

会社が従業員に自宅待機を命じた場合も、休業手当が問題となります。

たとえば、従業員に不正行為の疑いがあり、調査のため出社させないケースです。このような会社の判断による自宅待機では、少なくとも労働基準法26条の休業手当の対象となります。

もっとも、従業員に働く意思と能力があるにもかかわらず、会社の判断で就労させない場合には、民法536条2項により賃金全額の請求権が認められることが多いです。特に懲戒処分前の調査目的の自宅待機では、原則として賃金全額を支払うことを前提に検討したほうが安全です。

2.4 「不可抗力」の判断基準

不可抗力による休業は、「使用者の責に帰すべき事由」に該当せず、休業手当が不要となる場合があります。

不可抗力といえるためには、一般に、①休業の原因が事業の外部から発生した事故であること、②通常の経営者として最大限の注意を尽くしても休業を避けられなかったこと、の双方が必要です。

たとえば、大規模災害によって事業場が直接被災し、操業自体ができなくなった場合には、不可抗力と認められる可能性があります。

一方、災害の影響で取引先から材料が届かない場合などは、それだけで直ちに不可抗力になるわけではありません。他の仕入先を利用できなかったか、代替業務を用意できなかったかなど、会社が休業回避のためにどの程度努力したかも考慮されます。

また、近年は、自宅勤務などの方法により業務に従事させることが可能な場合は、これを検討しているかといった点も考慮される可能性があります。

3. 休業手当はいくら?平均賃金と具体的な計算方法

3.1 原則は「平均賃金×60%以上」

休業手当の最低額は、原則として次の計算式で求めます。

1日当たりの休業手当=平均賃金×60%

平均賃金は、原則として以下の式で計算します。

平均賃金=算定事由発生日(休業の初日など)以前3か月間に支払われた賃金総額÷その期間の暦日数(カレンダー通りの日数)

賃金締切日がある場合は、直前の賃金締切日からさかのぼった3か月で計算します。また、雇入れ後3か月に満たない従業員については、雇入れ後の期間とその期間中の賃金総額を用いて計算します。

また、「賃金総額」には、基本給だけでなく、原則として以下の諸手当が含まれます。

  1. ① 通勤手当
  2. ② 家族手当
  3. ③ 時間外・休日・深夜労働の割増賃金など

他方、賞与など3か月を超える期間ごとに支払われる賃金や結婚祝金といった臨時に支払われた賃金などは除外されます。

具体例で確認してみましょう。直前3か月の賃金総額が90万円、暦日数が92日であれば、平均賃金は約9,783円(90万円÷92日)です。その60%は約5,870円となるため、これが1日当たりの休業手当の最低額となります。

3.2 パート・アルバイトなど時給・日給制の場合の計算

時給制・日給制の労働者についても同じように平均賃金を計算します。

ただし、勤務日数の少ない労働者について通常の計算だけをすると平均賃金が低くなりすぎることがあります。そのため、日給・時給などで賃金が定められている場合には、原則的な計算による平均賃金と、次の最低保障額を比較します。

最低保障額=直前3か月の賃金総額÷その期間の実労働日数×60%

この金額の方が高ければ、こちらを平均賃金として扱います。そのうえで、休業手当として平均賃金の60%以上を支払います。なお、基本給は時給制、手当は月給制など、複数の賃金形態が混在する場合には、平均賃金の計算方法が異なるため注意が必要です。

3.3 半日・数時間だけ休業させた場合の計算

丸一日ではなく半日や数時間だけであっても、会社の都合で休業させれば、休業手当の支払義務が生じる可能性があります。

この場合は、実際に働いた時間について支払われる賃金と休業手当を合わせて、その日の金額が平均賃金の60%以上になるようにします。

たとえば、平均賃金が1万円であれば、その日の保障額は6,000円です。半日勤務した分の賃金が5,000円であれば、少なくとも差額の1,000円を休業手当として支払う必要があります。

反対に、その日に働いた分の賃金だけですでに6,000円以上となっていれば、労働基準法26条に基づく追加の休業手当は原則として必要ありません。

3.4 休業手当を払わず、有給休暇を消化させることは可能?

会社都合で休業させる日について、会社が一方的に「有給休暇を使ったことにする」ことは原則としてできません。年次有給休暇は、原則として労働者が取得する時季を指定する制度だからです。厚生労働省も、会社が一方的に年次有給休暇の取得を命じることはできないとしています。

もちろん、従業員本人が「休業手当よりも有給休暇を使いたい」と希望し、自ら年次有給休暇を申請することは可能です。また、労使協定による年次有給休暇の計画的付与など、法律上認められた別の制度を適切に利用する場合は別です。

4. 休業手当を不払いにした場合の企業のリスク

4.1 労働基準監督署による是正勧告・書類送検・罰則

休業手当を支払わなかった場合、従業員から労働基準監督署へ申告され、調査を受ける可能性があります。

労働基準監督官の調査によって違反が確認されれば、未払い分の支払いなどについて是正を求められることがあります。

さらに、悪質なケースや是正に応じないケースなどでは、刑事事件として書類送検される可能性もあります。労働基準法26条違反には、30万円以下の罰金が定められています(労働基準法120条 )。

4.2 未払い休業手当・遅延損害金・付加金の請求

休業手当を支払わなければ、当然ながら従業員から未払い分を請求される可能性があります。

支払期日を過ぎれば遅延損害金も発生します。さらに、退職した従業員の未払い賃金については、原則として、退職日の翌日(賃金の支払期日が退職日より後の場合は、その支払期日の翌日)から年14.6%の遅延利息が発生します(賃金の支払の確保等に関する法律6条 )。

また、休業手当の未払いについて、労働者からの請求を受けた裁判所が、未払い額と同額の「付加金(未払い金に加えて支払いを命じられる一種の制裁金)」の支払いを命じることもできます(労働基準法114条 )。付加金は必ず認められるものではありませんが、企業にとって無視できないリスクです。

4.3 「労使で不支給に合意している」は通用する?

「従業員も休業手当を支払わないことに同意しているから問題ない」というのは誤りです。

労働基準法26条は最低労働条件を定めた強行規定(当事者の合意よりも優先して適用されるルール)です。労働基準法の基準に達しない労働条件を定めても、その部分は無効となります(労働基準法13条 )。

そのため、会社都合の休業について、「休業期間中は無給とする」、「従業員の過半数代表者と合意したので休業手当を支給しない」などと定めても、労働基準法26条の適用がある以上、平均賃金の60%という最低基準を下回ることはできません。

一方、民法536条2項に基づく給与全額の請求権については、任意規定(当事者の合意が優先されるルール)のため、労働契約等で別段の定めをする余地があります。ただし、その場合でも労働基準法26条の最低保障まで排除することはできません。

5. 休業手当のトラブルを防ぐための企業側の予防策・実務対応

5.1 就業規則・賃金規程の休業に関する定めを確認

休業を実施する前に、まず就業規則、賃金規程、雇用契約書などを確認しましょう。特に確認したいのは、休業を命じることができる旨の規定、休業中の賃金・休業手当の支給率、計算方法、半日休業の取扱いなどです。

会社の規程で「休業中は通常の給与を支給する」「平均賃金の80%を支給する」などと、労働基準法よりも従業員に有利な内容を定めている場合には、その規定に従う必要があります。

5.2 休業理由・期間・休業手当の取扱いを書面で明確にする

休業を実施するときは、対象となる従業員に対して、休業理由、対象日・時間、予定期間、休業手当の支給率や取扱い、復帰予定などを書面で通知しておきましょう。

特に、災害や取引先の操業停止などを理由に不可抗力と判断する場合には、「なぜ休業が必要だったのか」だけでなく、代替業務や他の仕入先の利用など、休業を回避するために会社がどのような対応を検討したのかも記録しておくことが重要です。

後から従業員と認識が食い違った場合にも、判断過程を説明しやすくなります。

5.3 雇用調整助成金の活用を検討

景気変動などの経済上の理由によって事業活動を縮小し、従業員の雇用を維持するために一時的な休業を行う場合には、雇用調整助成金を利用できることがあります。

雇用調整助成金は、一定の要件を満たす事業主が、従業員に休業手当を支払って雇用を維持した場合、その負担の一部を助成する制度です。

ただし、助成金の利用の可否と、労働基準法上の休業手当の支払義務は別の問題です。助成金を受給できないからといって、休業手当を支払わなくてよいことにはなりません。支給要件や助成率等については、厚生労働省の最新情報を確認しましょう。

6. よくあるご質問(FAQ)

6.1 労働者が自ら休んでも休業手当は必要ですか?

従業員本人の都合で休んだのであれば、原則として休業手当は必要ありません。

たとえば、私傷病(業務とは関係のない病気やけが)や家庭の事情で従業員自身が欠勤した場合には、通常は「使用者の責に帰すべき事由による休業」には当たりません。

もっとも、形式上は「本人が休んだ」ことになっていても、実際には従業員に出勤の意思があり、会社が出勤しないように求めていた場合には、休業手当が必要となる可能性があります。

実際に誰の判断で就労しなかったのかを確認することが重要です。

6.2 退職予定の従業員にも休業手当は必要ですか?

退職予定の従業員にも休業手当は必要です。退職予定であるという理由だけで、休業手当の対象から外れることはありません。

退職日までは雇用契約が継続しています。そのため、退職日より前の所定労働日について、会社側の事情によって休業させたのであれば、原則として休業手当を支払う必要があります。

一方、退職によって雇用契約が終了した後については、当然ながら休業手当は発生しません。

6.3 休業手当の請求には時効がありますか?

休業手当の請求権には消滅時効があります。賃金請求権の消滅時効は法律上5年ですが、経過措置により、現在は当分の間3年とされています(労働基準法115条 、附則143条3項 )。

休業手当については、原則として会社所定の賃金支払日から時効が進行します。また、休業手当の未払いについて裁判所に付加金を請求できる期間も、現在は当分の間3年です(労働基準法114条 、附則143条2項 ))。

7. まとめ:休業手当の判断や労務トラブルに悩んだら弁護士に相談

会社の都合で従業員を休業させる場合には、労働基準法26条に基づく休業手当の支払いが必要となることがあります。また、休業の事情によっては、休業手当ではなく賃金全額の支払いが必要となる場合もあります。

休業手当の要否や計算方法、過去の未払いへの対応などで判断に迷う場合には、企業の労務問題に詳しい弁護士へご相談ください。

監修者
よつば総合法律事務所 弁護士 辻佐和子

中小企業の経営者が本業に専念できるよう、契約トラブルや労務問題に迅速に対応します。丁寧なヒアリングに基づき、リスク回避だけでなく事業成長を見据えた提案を信条としています。千葉県弁護士会所属(登録番号61772)。

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