最終更新日:2026年8月6日

監修者
よつば総合法律事務所 弁護士 辻佐和子

労災事故が発生すると、翌年度以降の会社の労災保険料が上がることがあります。これは、メリット制という労災保険率を増減する制度があるためです。

そして、労災認定そのものではなく、「保険料認定処分」については、事業主も争うことができます。

本記事では、メリット制の仕組みや、事業主の不服申立ての可否などについて、企業側の視点でわかりやすく解説します。

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1. 労災発生で保険料が上がる「メリット制」の構造

1.1 メリット制とは?(事業規模・事故率に応じた保険料率の変動)

労災保険制度では、事業規模などの条件を満たす事業に対して、事業場の労働災害の発生状況に応じて、一定の範囲内で労災保険率を増減させる制度を設けています。これをメリット制といいます。

1.2 どのような労災事故が保険料に影響を与える?

メリット制では、労災保険から実際に支給された保険給付額が大きいほど、保険料率が上がる仕組みになっています。

たとえば、療養補償給付、休業補償給付、障害補償給付などが支給されると、その給付額が集計され、保険料率の算定資料となります。

したがって、これらの金額が大きくなる重篤な事故(長期間の休業を要する事故や後遺障害が残る事故)は、保険料率に与える影響が大きくなります。

1.3 通勤災害や業務上外の判断が与える影響

通勤災害についても労災保険から給付が行われます。しかし、メリット制の保険料率算定との関係では、通常は通勤災害の保険給付は算定資料とならず、保険料率に影響を与えません。

また、業務外災害も当然、労災ではありませんので、メリット制の対象外です。しかし実際には、業務上外の判断は問題となることが多いです。

たとえば、私的行為中の事故や、持病による事故であるにもかかわらず業務災害と認定されてしまい、本来対象ではない保険給付額が保険料率に反映されてしまうことがあります。

2. 労災認定に対する事業主の不服申立て

2.1 従来の実務

従来の行政実務では、労災認定そのものや労災保険料認定処分について、事業主が「労災認定がおかしい」ということを理由に審査請求をすることや取消訴訟を提起することは認められないと理解されてきました。

事業主としては、「労災認定がおかしい」という理由で労災保険料の認定に納得できなくても、直接争う手段がほとんど存在しないという状況が続いていました。

2.2 労災認定処分と保険料認定処分の違い

ここで区別しなければならないのが、次の2つの処分です。

  1. 労災認定処分
  2. 労災保険料認定処分

①労災認定処分は、労働者に保険給付を支給するかどうかを決める行政処分です。

これに対し、②保険料認定処分は、「メリット制に基づき、会社に対して具体的な保険料を決定する処分」です。

保険料認定処分は企業自身の財産的負担を直接増加させるものであり、会社の権利義務に直接影響を及ぼします。この違いが、不服申立ての可否を考える上で重要になります。

2.3 事業主の法的利益と不服申立てに関する近年の動き

最高裁判所は、メリット制に基づく保険料認定処分については、「労災認定がおかしい」ということを理由にして、事業主が不服申立てや取消訴訟をすることができるとしました。一般財団法人あんしん財団事件 ・最高裁判所令和6年7月4日判決)

これは、「労災認定処分そのもの」ではなく、その認定を前提として行われた「保険料認定処分」であれば事業主が争うことができるということです。

また、こうした動きを受けて、厚生労働省も、保険料認定処分の不服申立て・取消訴訟で事業主が「労災認定がおかしい」という理由を主張することを認めるとしました。

したがって現在では、メリット制による保険料増額の保険料認定処分については、不服申立てや行政訴訟を行う余地があると考えられています。

なお、「労災認定がおかしい」ことを理由に保険料認定処分が取り消されたとしても、そのことを理由に、もとの労災認定処分自体を取り消すことはしない(被災労働者への給付決定を取り消すことはしない)とされています。

3. 納得がいかない労災認定・保険料増額への具体的な対抗方法

3.1 労働基準監督署の調査段階での意見書の提出

保険料認定処分を争うことができるようになりましたが、最も重要なのは、「業務外災害であれば、最初から労災認定はされない」ということです。

労働基準監督署(労基署)は、労災認定前に、事業主への事情聴取、資料の要求、関係者への聞き取りなどを行います。この段階で、事業主側の意見を労基署に申し出ることができるので、業務外災害の場合は、意見書を提出し、事業主側の見解を詳細に労基署に説明するようにしましょう。

また、従業員の労災申請の際に、事業主証明欄に証明を求められる可能性があります。もっとも、事業主の見解と異なる内容が記載されている可能性もありますので、慎重に内容を確認しましょう。

3.2 認定後の労災保険料認定処分に対する審査請求(不服申立て)

労災が認定され、メリット制による保険料認定処分が行われた場合には、都道府県労働局長に対する審査請求(不服申立て)を検討することになります。

審査請求では、処分内容や不服申立期間を十分確認した上で、前提となった労災認定に誤りがあることや、保険料算定に違法があることなどを具体的に主張・立証していくことが重要です。

3.3 行政訴訟の検討

行政事件訴訟による取消訴訟も選択肢となります。

労災保険料認定処分に対して行政訴訟(取消訴訟)を提起するには、原則としてあらかじめ都道府県労働局長への審査請求を経る必要があります。

審査請求の結果に納得がいかない場合に、訴訟の提起を検討することになります。

4. 会社が取りがちなNG対応とリスク

4.1 【NG】労災隠し(報告を怠る・虚偽の報告をする)

労災隠しは労働安全衛生法違反となる場合があり、刑事罰の対象となることもあります。保険料の増額を避ける目的で労災を隠すことは絶対に避けるべきです。

4.2 【NG】被災労働者への不当な圧力やハラスメント

労災申請を取り下げるよう強要したり、不利益取扱いをしたりすると、事業主が労働者から損害賠償請求を受けるおそれがあります。また、労災を隠そうとしたと評価されれば、労基署から調査を受ける可能性もあります。

事業主としては、申請を妨げるのではなく、あくまで労基署に事業主の見解を伝えるという対応を取ることを心がけるべきです。

4.3 【NG】労基署からの聴取・資料提出要請を軽視・無視

労基署からの連絡を無視したり、適当にあしらったりしてしまうと、会社側の認識している事情が十分反映されないまま労災認定が行われる可能性があります。

労基署からの聴取には誠実に応じ、事実関係を裏付ける資料を提出し、必要に応じて意見を整理して説明しましょう。

5. 労災トラブル・保険料高騰を防ぐための事前対策

5.1 日頃の勤怠管理・安全衛生体制の徹底と記録の保管

日頃から、勤怠記録、安全教育の実施記録、リスクアセスメントの結果、安全衛生委員会の議事録などを適切に作成・保管しておくことは、労働災害の予防につながるだけでなく、万一事故が発生した際にも重要な証拠となります。

たとえば、「事故当日はどのような業務に従事していたのか」「会社は安全教育を実施していたのか」「事故は会社の指示による業務中に発生したのか、それとも私的な行動中に発生したのか」といった点について、客観的な資料に基づいて説明できるようになります。

5.2 事故発生直後の客観的な事実調査(客観的証拠の確保)

事故発生後は、現場写真、防犯カメラ映像、ドライブレコーダー、一緒に勤務していた同僚の供述、作業日報といった、考え得る客観的証拠を早急に保全することが重要です。

これらの証拠は、時間の経過とともに失われることも少なくありません。

5.3 早期段階での弁護士・社労士等専門家への相談

早期に専門家に相談することで、労災保険の手続や労働基準監督署への対応、労務管理体制の見直しなどについて専門的なサポートを受けられます。

一方で、労災認定の法的な妥当性やメリット制による保険料認定処分への不服申立て・行政訴訟、被災労働者との損害賠償トラブルへの対応については、弁護士に相談することをおすすめします。

6. よくあるご質問(FAQ)

6.1 従業員が自ら労災申請した場合、会社は止められますか?

できません。労働者には自ら労災保険給付を請求する権利があります。会社は申請を妨害したり、不利益な取扱いをしたりしてはいけません。

もっとも、会社として業務外であると考える事情がある場合には、労基署に対し客観的資料を添えて意見を提出することは可能です。

6.2 業務外(私的行為・持病等)の疑いがある労災でも保険料は上がりますか?

業務外災害であれば、本来は労災認定・保険給付は行われず、メリット制の対象にもなりません。

しかし、実際には、労災認定がなされ、これを前提に保険料が算定されるケースがあります。このような場合に、保険料認定処分に対する不服申立てや取消訴訟を検討することになります。

7. まとめ:労災認定や保険料の引き上げに疑問を感じたら弁護士に相談

従来、事業主は労災認定そのものを争うことは困難とされてきました。

しかし現在では、メリット制による保険料認定処分については、事業主であっても、「労災認定がおかしい」ということを理由に不服申立てや行政訴訟を行うことができるとされています。

もっとも、争うべき処分や争う場合の手続については専門的な理解が必要です。また、労災認定前の調査段階で会社の意見や証拠を適切に提出できるかどうかが、その後の結果を左右することも少なくありません。

労災認定やメリット制による保険料の増額に疑問がある場合は、早い段階で弁護士や社会保険労務士などの専門家に相談し、適切な対応方針を検討することをおすすめします。

監修者
よつば総合法律事務所 弁護士 辻佐和子

中小企業の経営者が本業に専念できるよう、契約トラブルや労務問題に迅速に対応します。丁寧なヒアリングに基づき、リスク回避だけでなく事業成長を見据えた提案を信条としています。千葉県弁護士会所属(登録番号61772)。

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