最終更新日:2026年9月30日

監修者
よつば総合法律事務所 弁護士 大澤一郎

Q 法務の観点から創業時の注意事項にはどのようなものがありますか?

創業時には、事業に必要な許認可の有無や、商標などの知的財産権、従業員・取引先との契約関係を確認しておくことが重要です。

前職から独立する場合は、顧客や従業員の引き抜き、秘密情報・個人情報の取扱いにも注意が必要です。法人を設立するときは、持ち株比率や役員構成も、その後の経営に大きく影響します。

創業後のトラブルを避けるためにも、事業を始める前に法的な問題がないか確認しておきましょう。

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1. 創業は個人事業主と法人の2パターン

創業の方法は、大きく分けて、個人事業主として始める方法と、株式会社や合同会社などの法人を設立する方法の2つです。

個人事業主は比較的簡単に始められる一方、法人は設立登記などが必要です。どちらが適するかは、事業規模や資金調達、共同経営者の有無などによって異なります。

2. 創業時に法務の観点から注意すべき点

創業するときは、事業を始めるために必要な手続きだけでなく、創業後のトラブルを防ぐための準備も必要です。

とくに、許認可や知的財産権、従業員・取引先との契約に加えて、前職から独立する場合は、顧客や従業員への勧誘、秘密情報の取扱いにも注意しましょう。

2.1 許認可

事業内容によっては、営業開始前に許可や免許、登録、届出などが必要です。たとえば飲食業や建設業、不動産業、中古品を取り扱う事業、人材紹介業などでは、事業内容に応じた許認可などが必要になることがあります。

注意したいのは、会社を設立すれば、すぐに予定している事業を始められるとは限らないことです。株式会社や合同会社の設立登記が終わっていても、必要な許認可を取得していなければ、予定どおり営業を始められないことがあります。

店舗を利用する事業では、物件を借りたり内装工事を始めたりする前に、許認可の要件を確認しておくことも重要です。多額の費用をかけた後になって店舗や設備が許可要件を満たさないと判明すれば、大きな損失につながりかねません。

創業前には、少なくとも次の点を確認しましょう。

  1. ① 許可・免許・登録・届出などが必要か
  2. ② 申請先や届出先
  3. ③ 人員や資格の要件
  4. ④ 店舗や設備の要件
  5. ⑤ 手続に必要な期間

2.2 商標権などの知的財産権

会社名、店舗名、商品名、サービス名、ロゴなどを決めるときは、他社の知的財産権を侵害しないか、あらかじめ確認しておきましょう。なかでも注意したいのが商標権です。

会社名を商号として登記できても、その名称を商品名やサービス名などとして自由に使えるとは限りません。同一または類似する名称について、他社が関連する商品・サービスの商標権を持っている場合、名称の使用を差し止められたり、損害賠償を請求されたりするおそれがあります。

商標の出願・登録情報は、J-PlatPat で検索できます。商標名だけでなく、商品・サービスの区分などを指定して検索することも可能です。

そのため、重要な商品名やサービス名は、公表する前に調査しておくことをおすすめします。長く使うブランドであれば、自社で商標登録することも検討しましょう。

2.3 従業員との契約書

従業員を採用するときは、賃金、労働時間、業務内容などの労働条件を明確にしておきましょう。

会社や事業主には、労働契約を結ぶ際に労働条件を明示する義務があり、賃金や労働時間などの一定の事項は、書面などで明示する必要があります。

労働条件通知書や雇用契約書を作成し、会社と従業員の間で認識のずれが生じないようにしておくことが大切です。

2.4 取引先との契約書

取引先との契約では、業務内容や代金、支払時期、納期、契約期間、解約条件などをあらかじめ明確にしておきましょう。

事業内容や技術情報を取引先へ開示する場合は、必要に応じて秘密保持契約書(NDA)を締結しておくことも重要です。

また、フリーランスに業務を委託するときはフリーランス法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)、取引内容や当事者の規模などによっては取適法(中小受託取引適正化法)が適用されることがあります。契約を結ぶ際は、これらの法律で定められたルールにも注意しましょう。

2.5 店舗の賃貸借契約書

店舗やオフィスを借りるときは、予定している事業にその物件を利用できるか、賃貸借契約書の内容を確認しましょう。

特に、使用目的、契約期間、更新、中途解約、原状回復、内装工事の条件は、事業計画に影響します。

内装に多額の費用がかかる店舗では、契約期間や退去時の原状回復の範囲などを、契約前に確認しておくことが大切です。

2.6 利用規約やプライバシーポリシー

Webサービスやアプリ、ECサイトなどを運営するときは、サービス内容に応じた利用規約を整備しておきましょう。

また、顧客などの個人情報を取得する場合は、個人情報保護法に沿った対応が必要です。個人情報の利用目的など、法律上公表が必要な事項をプライバシーポリシーにまとめて掲載する方法があります。

プライバシーポリシーを作成するときは、記載内容と実際の個人情報の取扱いが一致するようにしましょう。

2.7 顧客の引き抜き

前職を退職して同じ業界で創業するとき、以前担当していた顧客へ営業したいと考えることは自然です。ただし、営業の方法によっては、前職とのトラブルや損害賠償請求につながることがあります。

2.7.1 顧客の引き抜きが違法となる可能性

前提として、退職後に前職の顧客と取引すること自体が、当然に違法となるわけではありません。

一方、前職の顧客名簿や取引先情報を持ち出して利用する、前職について虚偽の情報を伝えて取引を切り替えさせるなど、不当な方法で顧客を獲得した場合は、違法と判断されることがあります。

2.7.2 競業避止義務を定めている場合の注意点

また、雇用契約書や就業規則、退職時の誓約書などで「競業避止義務」が定められている場合には、退職後に前職の顧客へ営業する行為そのものが制限されることもあります。競業避止義務とは、退職後に前職と競合する事業を行うことを制限するものです。

もっとも、このような定めがあれば必ず有効になるわけではありません。競業避止義務については、制限される期間や地域、業務の範囲、会社側の利益、従業員への不利益などを踏まえて、有効性が判断されます。

2.7.3 前職の顧客への営業は慎重に

前職の顧客へ営業する際は、次の点を確認しましょう。

  1. ① 雇用契約書や就業規則、退職時の誓約書に競業避止義務の定めがないか
  2. ② 顧客の連絡先をどのように入手したのか
  3. ③ 前職の顧客名簿や営業資料を利用していないか
  4. ④ 在職中から顧客への勧誘や営業を進めていないか

「以前担当していた顧客だから自由に営業できる」と考えるのではなく、営業の方法や利用する情報にまで注意を払うことが大切です。

2.8 従業員の引き抜き

前職の同僚を創業メンバーや従業員として誘うときも、勧誘の方法に注意が必要です。

従業員には転職の自由があるため、前職の同僚に転職を勧めただけで、直ちに違法となるわけではありません。ただし、勧誘の方法や人数などによっては、前職に対する不法行為として損害賠償責任を負うことがあります。

過去の裁判例では、引き抜かれた従業員の地位や人数、退職が会社に与える影響、勧誘の方法などを踏まえて違法性が判断されています。たとえば、前職の重要な部署から多数の従業員を計画的に一斉退職させる場合や、在職中の地位を利用して組織的に勧誘する場合などは、違法と判断されるリスクが高まります。

そのため、前職の従業員を採用するときは、誰を誘うかだけでなく、いつ、誰が、どのような方法で勧誘するかにも注意しましょう。

また、転職してくる従業員が、前職に対して秘密保持義務や競業避止義務を負っていないかも確認しておくことが大切です。

2.9 前職の秘密情報や個人情報の利用

前職から独立するときは、前職の秘密情報や顧客情報を新しい事業に持ち込まないよう注意が必要です。

2.9.1 秘密情報

顧客リスト、取引価格、仕入先の情報、営業戦略、技術情報、設計データ、ノウハウなどは、その内容や管理状況によって、不正競争防止法上の「営業秘密」にあたることがあります。

営業秘密は、秘密として管理されていること、有用な情報であること、公然と知られていないことなどの要件を満たす情報です。営業秘密を不正に取得・使用・開示した場合、差止めや損害賠償を請求されたり、刑事罰の対象となったりすることがあります。

たとえば、次のような行為は避けましょう。

  1. ① 顧客リストを自分のメールアドレスへ送る
  2. ② 前職のクラウドから営業資料をダウンロードする
  3. ③ 顧客管理システムのデータをコピーする
  4. ④ 前職が管理する非公開の顧客情報を、新会社の営業に利用する
  5. ⑤ 前職の価格表や仕入条件などの秘密情報を新会社で利用する

また、「データを持ち出さず、自分の記憶だけを使えば問題ない」と単純に考えるのも適切ではありません。情報の内容や取得・利用の方法、前職との秘密保持契約などによっては、問題となることがあります。

2.9.2 個人情報

さらに、顧客の氏名や連絡先などの個人情報にも注意が必要です。前職が管理している顧客情報を、新会社に持ち出して営業に利用することは避けましょう。

新会社で顧客情報を取得するときは、適切な方法で取得し、個人情報保護法に従って利用目的の通知・公表などを行う必要があります。

2.9.3 前職のデータの流用は控える

こうした点を踏まえると、前職から独立するときは、前職のデータを流用するのではなく、公開情報などをもとに、新会社で営業先を調査・整理するのが安全です。

3. 法人設立時に法務の観点から注意すべき点

法人、とくに複数人で株式会社を設立するときは、持ち株比率や役員構成をあらかじめよく検討しておくことが重要です。

誰がどの程度の議決権を持つか、誰を役員にするかによって、会社の意思決定や共同創業者との関係が大きく変わるためです。

3.1 持ち株比率

株式会社では、誰がどの程度の議決権を持つかが、会社の意思決定に大きく影響します。

共同創業の場合、「仲がよいから半分ずつ」といった理由だけで株式を分けると、後から経営方針が対立したときに、重要な意思決定ができなくなることがあります。

会社法309条 では、株主総会の普通決議について、原則として議決権の過半数を持つ株主が出席し、出席した株主の議決権の過半数の賛成が必要とされています。特別決議では、原則として議決権の過半数を持つ株主が出席し、出席した株主の議決権の3分の2以上の賛成が必要です。

1株につき1個の議決権がある普通株式を前提とすると、議決権割合の主な目安は次のとおりです。

議決権の割合 主な意味
50%超 原則として、普通決議を単独で成立させることができる
3分の1超 出席して反対すれば、原則として特別決議を阻止できる
3分の2以上 原則として、特別決議を単独で成立させることができる

ただし、必要な議決権数は、決議事項や定款、株式の種類などによって異なります。50%を超える議決権があれば、会社のことをすべて単独で決められるわけではありません。

また、2人の創業者が50%ずつ議決権を持つ場合、意見が対立すると、会社の意思決定ができなくなる「デッドロック」が生じるおそれがあります。

そこで、共同創業をするときは、持ち株比率だけでなく、次のような点も事前に決めておきましょう。

  1. ① 最終的な経営判断を誰がするか
  2. ② 重要事項をどう決めるか
  3. ③ 追加資金が必要なときにどうするか
  4. ④ 創業者が退職するときの株式の取扱い
  5. ⑤ 第三者への株式譲渡のルール

こうした事項については、必要に応じて株主間契約を締結しておく方法もあります。株主間契約では、重要事項の意思決定方法や株式の譲渡、創業者が会社を離れたときの株式の取扱いなどを、あらかじめ定めておくことが考えられます。

3.2 取締役や監査役

株式会社を設立するときは、実際の経営体制に合った役員構成を決めることが大切です。

取締役会を置かない株式会社では、取締役1人でも設立できます。一方、取締役会を設置する場合は取締役が3人以上必要となり、監査役などについても会社の機関設計に応じたルールがあります。

人数をそろえるためだけに、実際には経営に関与しない家族や知人を安易に取締役にするのは避けましょう。取締役は単なる肩書ではなく、会社に対して法律上の責任を負います。実際に経営に関与していなくても、取締役として責任を問われることがあります。

誰が会社を経営し、どのような役割を担うのかを考えたうえで、自社に合った役員構成を決めましょう。

4. よくあるご質問

最後に、創業にあたって多くの方が悩まれる、会社形態に関するご質問をまとめました。

4.1 個人事業主と法人のどちらがよいですか?

個人事業主と法人のどちらがよいかは、事業の規模や将来の計画によって異なります。

手続や費用を抑えて事業を始めたい場合は、個人事業主が選択肢になります。一方、複数人で創業する場合や、外部から出資を受ける予定がある場合などは、法人が適していることがあります。

税金や社会保険の取扱いにも違いがあります。事業の内容や今後の計画を踏まえて検討し、必要に応じて税理士や社会保険労務士にも相談しましょう。

4.2 株式会社と合同会社のどちらがよいですか?

株式会社と合同会社のどちらがよいかは、事業の規模や今後の資金調達などによって異なります。

外部から出資を受けることを予定している場合は、株式会社が適していることがあります。一方、少人数で会社を運営し、設立や運営の負担を抑えたい場合は、合同会社も選択肢になります。

5. まとめ:悩んだら弁護士に相談

創業時は、商品やサービスの準備、資金調達、営業、採用など、短期間に多くのことを進める必要があります。そのため、法務の確認まで手が回らないことも少なくありません。

しかし、必要な許認可を確認しないまま準備を進めたり、前職の情報を利用して営業したり、共同創業者との持ち株比率を十分に検討せず決めたりすると、創業後のトラブルにつながることがあります。

許認可や契約、前職との関係、持ち株比率などは、事業を始めてから修正するより、創業前に確認しておく方が負担を抑えられます。

「自社の事業に許認可が必要かわからない」「前職の顧客へ営業してよいか確認したい」「共同創業者との持ち株比率をどう決めればよいかわからない」といった場合は、事業を始める前に弁護士へ相談しましょう。

よつば総合法律事務所では、創業時の契約や会社設立、創業後の会社運営など、企業法務に関するご相談を受け付けています。

監修者
よつば総合法律事務所 弁護士 大澤一郎

代表弁護士。人事労務、契約書作成やチェック、債権回収、会社関係訴訟などを多く取り扱っています。スピードを重視しつつ、法律のプロとして皆様の具体的な行動をアドバイスすることをモットーとしています。千葉県弁護士会所属(登録番号29869)。

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